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本当の敵は向かいの家より隣の家



「おいおい味方ごと……いいね、それ」


「あっ!ちょっとキミ……!」


 薙がれてリセットにされたかに思われた戦場をゴスロリ少女が駆ける。

 大振りの一太刀によって生まれた隙を咎めるように距離を詰めるゴスロリ少女に俺は思わず口笛を吹いた。


 誰よりも早く動き出した甲斐あり、踵で地面を削りながら踏み込まれた一撃が空を切り裂き、キングキリングコートの腹を捉え、大きくノックバックさせた。

 

「取れるとこは取っていかないとなァ!」


「ヨバル君!?」


 ゴスロリ少女に触発され一気に距離を詰める。Die助から制止の声が上がっている気がするが気にしない。

 ギョッとしたキングキリングコートが飛び退くのに合わせて跳躍。

 

「破裂しろっ!」


 その大太刀、さぞ振りにくい事だろう。

 目の前で詠唱を始めた俺を切り落とすように振られた一太刀を仰け反ることで回避する。

 そんな発生の遅い攻撃、空中だろうと当たるわけがない。

 

「イグニスプロード!」


顔面目掛けて放ったそれはキングキリングコートの視界を奪い、体勢を崩す事に成功した。


「反発せよ、イグニスプロード」


 畳み掛けるように打ち出したそれは反発するように分裂しダメージと共に更なる混乱を与える。

 

「燃え盛れ!イグニスプロード!」


 乱雑に振り回される刃を手の内側に潜り込む事で躱し、キリングコートからしっかり受け継がれた弱点……膨らむ腹に叩き込んだ。

 しかし流石はキング、地面こそ大きく抉っているが燃え盛る爆発を踏ん張って耐えている。


 どんどん苛烈さを増す連撃にキングキリングコートは堪らず吠えた。


「おかえりなさいませってところか?」


「ヨバル君は雑魚処理お願い!僕はキングの方を受け持つよ!タウント、シールドバッシュ!」


 さっきまで俺に夢中だったのがあら不思議、目の色変えてDie助の方に走り出した。

 大事なモノでも人質に取られたかのような変貌っぷりに思わず笑ってしまう。

 これが挑発スキルの強さか。


「心せよ」


 見事にヘイトを引き剥がしてもらった俺は今か今かとジリジリ距離を詰めてくるキリングコートに備えて詠唱を仕込む。

 来たらパナす!来ないならこちらから行ってぶっ放す!

 

 1人悲しく雑魚処理係へと左遷された現状、待ち切れるはずもなく無防備に飛び出した。


「一網打尽だァ!イグニスプロード!」


 もはやどっちがキリングコートかわからないが、確かなのは俺が襲う側であるという事だ。

 仲良く団子になっているところに思いっきりぶっ放す。

 すごい勢いで解体された団子は爆風と共に他のキリングコートを吹き飛ばしポリゴンへと変わる。

 1匹で2匹分の働き。散っていったキリングコートの優秀さに思わず涙が出そうだ。


「南無」


「ちょっとヨバル君!?こっちにまでなんか飛んで来たけど!?」


「……南無」


 許せDie助、不慮の事故だ。

 若干のゴブ身事故はあったものの爆速で雑魚処理を終わらせた俺は戦線に復帰する。

 

「この構え……来るぞ!」


 振り返った時にはもうキングキリングコートは予備動作に入っていた。

 俺が知る限り溜めるような大技は一つだけ、しゃがむ心構えをしつつ警告をする。


「まあ見ててよ、僕も負けちゃいないってところを……!」


 これまでセーフティなプレイを続けてきたDie助の雰囲気が変わる。

 何かのスイッチが入ったDie助は随分と腰を落として盾を構える。

 真っ直ぐと敵を見据え、冷や汗を流し何かを待つようなその姿にどこか懐かしい気持ちに襲われる。

 初めて見るのに不思議と次の動きがわかる気がする。

 じっと動かず敵の動き出しを待つ……それが過去のレバーを握る自分の手と重なる。


 こいつ、弾き上げ(パリィ)するつもりだ!


「いいぜ、乗ってやるよ。破裂しろ」


 Die助の狙いを察した俺は、最大のリターンを叩き出すために詠唱を仕込む。

 さっきの隙の晒し様なら2発、いや3発は入るな。

 ()()()の動きをシミュレートする。

 

「……黒跡軌動(シュヴァルツローテ)流星の一撃(メテオストライク)


 Die助という船に乗ったのは俺だけじゃないらしい。

 ゴスロリ少女が初めて口を開くと、杖にも見える捻り曲がった斧が青白い光を帯びた。



 長い溜めから解き放たれた一太刀は風を切りながらDie助の構える盾と衝突する。

 猶予フレームはわからない……だが刃と衝突する刹那、僅かに盾の角度を調整したDie助に軍配が上がった。


「今!」


「ナイス大船!」


 キングキリングコートが大太刀を振るうと同時に走り出した俺たちはDie助が作った隙を余すことなく活かすべく肉薄する。

 位置が悪かった。弱点はゴスロリ少女に渡そう、俺は首へと狙いを変えた。

 

「2方向からの同時攻撃、耐えれるものなら耐えてみやがれキングさんよぉ!」


 背中側に回り踏み切る。

 精一杯振るった大太刀が上に弾き上げられ、今にも倒れそうなほどに体勢を崩したキングキリングコートのうなじを捉える。


「イグニスプロード!」


 うなじに掌底を叩き込む形でイグニスプロードを発動。

 緑の皮膚が赤く黄色く輝き、内側から爆発を起こす。

 焦げるような臭いが大きくダメージを与えられたことを実感させる。


「あとは任せるぜ」


 ベストポジションにいる主戦力(メインアタッカー)にトドメを譲ると、空中にいてもわかるほどに空気が、キングキリングコートが震える。

 爆発などなんのその。目も耳も覆いたくなる青白く光り輝く一撃が、辺り一帯を照らし尽くした。

 


 赤いポリゴンとなって空に溶け出すキングキリングコートを見上げる。

 パーティプレイのパの字もないやつが2人、だけどDie助がパリィを決めた瞬間……俺たちは間違いなく同じ船に乗っていた。

 みんなの勝利ってやつだ。


「ナイスだよ2人とも!僕たちフィールドボスを3人で討伐しちゃったよ!」


「ああ……!いい連携だったな!」


「そうだね、終わり良ければ全てよしだよ!」


 若干の棘を感じつつ、俺とDie助はフィールドボスという強敵の討伐にハイタッチした。

 爽やか野郎がいてなお暑苦しい輪を遠くから眺める者が1人。

 ゴスロリ少女はこちらへ歩いてきてその小さな口を開いた。


「……水差された。でも慣れ入れてくれて楽に金キリコ倒せた。ありがとう」


 感情の読み取れない顔で文句とも感謝とも取れる言葉を発した。

 非常にややこしいがちょっと顔を背けているあたり多分感謝の方だろう。


「きん……慣れっていうのは何のことだ?」


「……え、慣れ知らないの」


「もしかして知らないのまずい系?常識?」


 金キリコは文脈からしていま倒したキングキリングコートの事だとわかる。俺も長いと思ってたところだ、略称があるのはありがたい。

 だが慣れに関しては全く覚えがない。


「……慣れは同じ属性で攻撃したらダメージ減って、違う属性で攻撃したらダメージ増えるやつ。公式サイトの裏に書いてた」


 え、なにそのチラシの裏みたいな言い方。

 というか公式サイトの裏って何!?それ非公式なサイトの事じゃないのか?

 あと説明が省かれすぎてピンとこない!

 頭に大量のハテナが浮かんだ末に俺はにこりと笑った。


「そうか、教えてくれてありがとな!俺はヨバル!こっちで固まって……ってなんで固まってるんだ?Die助」


 思考放棄して友好的なモンスターになりきる事にした。

 しかし何故かDie助は蛇にでも睨まれたのか固まって動かなくなってしまった。

 ここは1人で乗り切るしかない。


「……私は†月天(げってん)殺戮女神(さつりくのめがみ)†」


「げ……なんて?」


「……†月天殺戮女神†」


 誰か助けてくれええええ!

 変な子引いちゃったよ!多分厨で二な病を拗らせてるよ!

 え?これどうしたらいいの?俺も厨で二な頃を思い出して喋ればいいの?


「こほん。だがそれは貴様の真名じゃないのだろう?我は貴様が封印される前の真の名前を聞いている」


「……バカにしてる?」


 あー地雷だったぁぁぁああ!

 難しいよ!わかんねえよ!厨二病の敵は一般人じゃなくて他の厨二病とか知らねえよ!

 落ち着け、ここからでも巻き返せる。逆転劇は俺の得意分野のはずだ。


「ごめんごめん、なんて呼べばいいかわからなくてつい……なんて呼べばいい?」


「……キルナって呼んで」


 月天殺戮女神からキルナは無理だよっ!想像つかねえよ!

 で、でもこれでようやく一歩前進だ。まだ舞える。

 

 俺の気を知ってか知らずか固まっていたはずのDie助からパツパツのタンクトップを引っ張られる。

 ここでも助け舟を出してくれるのかDie助?

 俺は手招きされるがままに耳を貸す。


「よ、ヨバル君!名前!名前見て!」


「なんだ?この子はキル──」


 この厨二少女の名前はもう聞いた。少々面食らったが呼び方自体は普通……


 キルナ、またの名を†月天殺戮女神†。その名前は真っ赤に染まっていた。

 

 ──PK(プレイヤーキラー)


 俺は失神した。



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