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ジャイアントでキリングなやつ



「悪い、飯行ってくる」


「もうそんな時間かい?じゃあ僕も食べて来ようかな」


「2時にまたここで」


 腹が減ってはなんとやら、集合時間を決めて昼飯にすることにした。

 未だ鳴り止まぬ金属が衝突する音に一抹の不安を覚える。

 これ帰ってきた時どうなるのだろう。

 まあどうにでもなるだろう、後のことより今の空腹だ。

 俺はDie助の後を追うようにログアウトした。




「あー生き返る〜」


 現実に帰ってきた俺はコンボ練習というには物足りない単純作業から束の間離れられる幸せを噛み締める。

 単純作業は嫌いじゃないが作業の先に気持ちよさが欲しい。

 それは達成感でも発散できる何かでもいい、何か目標があれば単純な作業も長い冒険の旅路に早変わりするというものだ。


「いただきまーす!」


 俺は現代に生きる電脳武士なので今日もカップヌードルだ。

 空っぽの腹にガツンと来るこの味の濃さが武士を支えている。

 熱々のスープは満腹とまでは行かなくとも確かな満足感を与えてくれるのが素晴らしい。


「ごちそうさまでした」


 手を合わせ、感謝を伝えるところまでが食事だ。

 そこら辺なあなあにしてしまうやつは武士失格だ、戦をする前に切腹した方がいい。


 ……なんてな。こうは言うがVRの中だと俺もなあなあにしてしまっている。

 どうにも腹を満たさないものを食事とは思えず、どちらかと言えばお菓子感覚で食べているからだ。


「2時までちょっとあるけど……戻るか!腹も膨れたことだし」


 先にレベリングをしていても褒められることはあれど怒られることはないだろう。

 これは抜け駆けじゃなくて自主練だ。







 

 ──ドクンッ!!!

 ログイン時特有の全能感に包まれながら目を覚ます。

 ログアウト前に抱えていた不安が現実になる事はなく、むしろ辺りは静まり返っており安全そのものだ。


 地面に寝転がり隙を晒そうと襲われる気配はない。

 レベリングが出来ないならチュートリアルの復習でもする事にしよう。


 正直なところ聞いた半分ぐらいは忘れている気がするが、用語はだいたい覚えた……はず。これで会話にはついていけるだろう。

 それよりも困っているというか頭を悩ませているのはパーティプレイについてだ。


「ロクにやったことないんだよなぁ」


 これまでに触ったゲームはだいたいが1人用、人とやるものはタイマンのものが多くパーティプレイのパの字も知らない。

 言ってしまえば生粋のソロ戦士だ。

 

 井の中の蛙大海を知らずとはよく言ったもので、俺は今アタッカーの在り方に疑問を覚えている。

 制約が多いというかタンクにおんぶに抱っこというか、端的に言ってしまえばアレだ。


「当たらなければどうということはなくね?」


 タゲを取るなヘイトを抑えろとは言うが、タゲを取った上で敵の攻撃を避ければWin-Winじゃないのか?

 ましてやボスなんて攻撃パターンが割れたらただのデカブツだ。

 現実はそう上手くいかない?セオリーに刃向かうな?

 きっと俺は大海を知らないのだろう。されど空の青さなら知っている。

 格ゲーと越冬の世界を知り、俺は確信している事がある。


ドラグラ(この世界)に不可能はない」


 もし不可能があるとしてもそれは腹を満たすことが出来ないぐらいだろう。

 MMOというジャンルもVRが普及してから数本しか発売されていないと聞いた。制作費が高すぎるとかなんとかで。

 つまりは開拓が浅いジャンルということだ、みんな既存の常識で戦っている。

 

「ここは一つ、開拓してやりますか……!」


 開拓と反復練習は格ゲーマーの得意分野だ。

 疑問に思ったなら自分で証明すれば済む話、アタッカー(おれたち)はもっと自由に戦えると。

 暇から生まれた決意を胸に固める。


「やあ、拳なんて突き上げてどうしたの?」


「いやっ!?……別に何も?拳とか全然突き上げてないですし?」


 突然現れたDie助に俺は慌てて立ち上がり誤魔化す。

 ログインってそんな急に現れてたのか?こう……もうちょっと前兆というか予備動作が欲しいというか。

 ノックもなしに部屋に母親が入ってきた気持ちだ。

 よっぽどおかしかったのかDie助が肩を震わせて声を上げる。


「いやいや、ご、ごめん……ははっ、驚かせたみた、いだね」


「全然驚いてねえから!大丈夫だから!」


 爽やか野郎の言葉の端々からは笑いが漏れ出ている。

 殴りてえ、この笑顔。

 

「ははは、ところでヨバル君、ここはいつからこんなに静かで快適な場所になったんだい?」


「あー、俺がログインした時には既に静かだったな」


「それは……ちょっとまずいかもしれないね」


 言われてみればやけに静かだ、キリングコートもいなければ人もいない。

 狩り尽くしたとか?でもバウンピッグはどれだけ狩っても湯水のように湧いてきたはず。


「ヨバル君は気付いてるかい?キリングコートの習性」


「あれだろ?1人になると襲いかかってくるってやつ」


「正解、僕らはその習性を利用して狩りを行っていたわけだけど……それがなくなった、つまり習性よりも優先するべきなにかが出来たって事だろうね」


 習性という名の本能を逆手にとって、俺たちがギリギリ1人でいると判定される距離をとって経験値加工工場を作っていたわけだ。

 それが間抜けに拳を突き出して寝転んでいるなんていう格好の獲物を逃すはずがない。


 さっきも言ったがキリングコートのそれは本能の類で、ゲーム的に言えば行動パターンってやつだ。

 行動パターンが変わる時といえばHPが大きく削られた時などが有名だが、所謂第二形態などと言われるそれはボスの特権だ。

 行儀の悪い雑魚敵が行動パターンを変える時はいつか?


 ここまで思考巡らせた時、一際大きな金属音が耳鳴りを起こさせる。

 ドラグラでは耳に攻撃仕掛けるのが流行ってるのか?


「なっんだこれ!」


「誰か戦っているのかもしれない!行ってみよう!」


 俺たちは耳を抑えながら音の鳴る方へ駆け出した。




 音に近付くに連れ、状況が露わになる。

 やけにファンタジーなゴスロリに身を包んだ銀髪に黒のメッシュが入った少女が身の丈に合わない杖とも斧とも言いづらい不思議な武器を振り回して軽やかに立ち回っていた。

 ゴスロリ少女に相対するのは腐るほど見慣れた緑の怪物キリングコート。

 

「おいおいまじかよ……」


 無数のキリングコートを従えるキリングコート……というにはデカくなりすぎた()()()が大太刀を構える。


 ──キングキリングコートLv.35


「助太刀するよ!ヨバル君は雑魚処理お願い!」


 またフィールドボスじゃねえか!

 叫びたくなる気持ちを抑えゴスロリ少女のカバーに入る。

 フィールドを作るように俺たちを取り囲むキリングコートの数は1、10……100はいるかもしれない。

 

「跋討百鬼ってそういうことかよ!」


 前に出るや否や飛びかかってくるキリングコートにイグニスプロードをかます。

 数が増えてもキリングコート単体の力が上がったわけではない、膨らむ腹に掌を沈ませ1匹ずつ丁寧に沈めていく。

 

「この程度の数で止まるわけ……!ないだ、ろ!」


「みんなしゃがんで!」


 Die助の焦る声でキングキリングコートが予備動作に入ったことを悟る。

 俺は飛び込んでくるキリングコートを投げるようにして地面に倒れ伏した。


 鳴り響く金属音と共に目の前のキリングコートが真っ二つにされポリゴンとなって消えていく。


 もはや組み手と化していた戦場が一瞬にして薙ぎ払われ、3人と1匹だけが残った。

 

「範囲広すぎだろ……」


 付き従う民衆諸共薙ぎ払う様はまさしくキングの名に相応しい暴君。

 第2ラウンドが幕を開けた。



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