15 パリ外国宣教会の選択
窓の外に目をやっていた司祭は、ピエールに向き直った。
「君だ」
ピエールはちょっと笑って首を振った。
「ありえない。規律を破ってホンダットに戻ったんですよ」
「もう決まったことだ。コーチシナの司祭たちも皆異論はない」
「クレインペター猊下は?」
「彼は、……病気だ」
一瞬、司祭の顔にさっと影が差した。
「もう、二度と皆の前に出てくることはあるまいよ」
ピエールは間抜けな驚きの顔を慌てて心配顔にとりつくろった。司祭は密かに溜息をついた。ピエールに想像できるはずもない。クレインペターは、幻覚と地獄のような体の苦しみに苛まれて、誰かれ構わず首を絞めにかかるようになって、今や村はずれの小屋に閉じ込められている。ホンダットから持ち込んだ薬が思いの外早く切れてしまったのだ。「龍を見た」などと、ありもしない幻想を信徒に言いふらしたまま。
ピエールに喜ぶ様子はない。
「どうした、不服かね」
「いいえ。ただ……自分のような人気も人脈もない司祭が、代牧に選ばれるのは難しいと思っていました」
「ただの八方美人に代牧区は任せられぬ。コーチシナ人が何を望もうが、決定権があるのは我々宣教会の人間だ」
いいか、同情し過ぎるな__とその司祭は鋭く囁いた。
「我々宣教師に命令する権利があるのは、神のみだ。クレインペターはそれが分かっていなかった」
それから司祭は、ピエールの背中を気さくに叩いた。
「君を選んだのが正解だったと、証明してみせてくれ」
ピエールはその瞬間、激しく硬直した。司祭が驚くほどに。
司祭の言葉は、かつてジョルジュが言ったことと同じだった。