第8回 写真 (シスル視点)
「あぁ~あ。振られちゃいましたねぇ。弟様」
そう言ったのは、いつの間にか隣にいた、ヘリオトロープさんだ。
「ヘリオさん、いたのか。そして、まだ振られていないよ。保留にされただけさ」
「こんな面白そうな事をやっているのに、間に入るのは野暮でしょ。いやぁ、ドア越しに、良いものを見せてもらいました。まずはお疲れ様でした」
ニヤニヤしながら言うヘリオトロープさん。この人はいつもこうだ。
「それで、どうだった? あんな感じで良かったかな?」
「いや、なかなか良かったですよ。あなたの告白。グッときますね。あのままゴリ押しして、押し倒しちゃえばよかったのに。あの子、押しに弱い所あるし」
「そういうわけにはいかないでしょう。一応、まだ、義理とはいえ姉弟な訳だし」
「ふぅん……」
そう言って、彼女は、意味ありげな視線を送ってくる。
「なにさ?」
「いえ、別にぃ。ただ、私の見立てでは、やはり、あの子は、あなたと結ばれるのが、一番幸せなんじゃないかなと」
「でしょう?」
「自分で言いますか」
「ある程度のうぬぼれがなければ、僕も告白なんてしないよ」
僕のその言葉を聞くと、ヘリオトロープさんは面白そうに笑った。
「違いありませんね。若いってのは良いもんです」
「あなたも僕らと、そこまで歳は変わらないでしょう」
そんな風に無駄会話をしていると、ヘリオトロープさんは、ニヤニヤ笑いつつ、僕へ、何枚かの写真を渡した。
「これは?」
「ふふふ。あなたへのプレゼントです。きっと役に立つと思いますよ」
「……なにこれ。まさか」
「まあまあ、最後まで見てください」
そこには、婿殿の浮気現場の決定的瞬間を捉えた写真が何枚もあった。
中には、どうやって撮ったのか、ナニとは言わないが、かなり、エグいものもある。
「どうやって入手したの?」
「こちらも、アコナイト様と協力して動いてましてね。彼の乳母姉、軍の技術士官じゃないですか? ちょーと、隠しカメラを色々作ってもらって、各所に設置しました……仕事が早い。随分早く証拠がそろいました」
「僕がこの前伺った時にはイチャイチャしてるだけだったけど、案外凄い人なんだ」
この前の義兄さんを見るときの、だらしない顔と繋がらない。人は見た目によらないという事か。
「仕事が早すぎて怖いくらいです。まるで、事前に準備されていた様な……」
「証拠がそろったんなら、それで良いでしょう。これを辺境伯様にチクれと?」
「えぇ。もちろん。」
「義姉さんとの婚約は解消になるかね? 」
「なるんじゃないでしょうか。これだけの証拠があれば」
「それはいい」
僕は、嬉々として証拠写真をまとめた。
「ただ、辺境伯様、今、お留守なんだよね。新たに取り返した領土の視察に行ってて」
「じゃあ、帰って来た時に」
「それが、四日後に、帰ってくる予定で……」
「また、長いですね」
「それまでに、義姉さんには首を縦に振らせる。婚約解消と同時に僕が、義姉さんの新たなパートナーになる」
「頑張ってください。結局、これが一番丸く収まるんですよ」
ヘリオトロープさんと僕は、お互い、悪い笑みを浮かべていた。
「問題があるとするなら……。3日後に、ヨルヴィーク候の屋敷で、戦勝祝いも兼ねた夜会があるよね。我々ソードフィッシュ家の面々はそれに出なきゃいけない。無論、義姉さんも」
「婿殿も出る?」
「普通、義姉さんのエスコートをするでしょう。あいつが義姉さんの隣に立つのは癪だけど」
露骨に不満そうな顔を作った僕は言う。
「問題が起きねば良いですが……」
「逆にそれさえ乗り切れれば、後は、どうとでもなるさ」
僕は、改めて、義姉さんが首を縦に振ってくれるように祈った。大して信心深い人間では無いが、困った時の神頼みというやつだった。
フラグを立てる乳母姉と義弟の図。
明日から、一日一話投稿にします。
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