第5回 鳥兜 (シスル視点)
11月15日。
「とは言ったものの、どうすべきか……」
「それで私の顔を見に来たと」
「色男という言葉の擬人化みたいな義兄上なら、義姉さんの事について、何かヒントをくれるかと」
僕がそう言うと、テーブルを挟んで対面する紺色の髪の男はため息を一つ。
この人は、ソードフィッシュ家の長男で、僕の血の繋がらない兄にあたるアコナイト・ソードフィッシュ様。
ヘリオトロープさんとの会話に出てきた、辺境伯様から嫌われまくって、乳母の家に軟禁されている方だ。ここは、その乳母夫、ファイヤブランド家の屋敷である。
アコナイト義兄さんは、紺色の髪をロングヘアにして、金色の瞳は黄金の様。
特筆すべきはその美しさで、かなり小柄な体型もあって、一見、美少女にしか見えない。見ていると正気を削られそうな気にさえなる。その妖しい魅力はアコナイトの名にふさわしい。
「ヒント……と言っても、私は軟禁の身。何か出来るとも思いませんが」
「出来る範囲で構いません。……女の子の扱いは上手そうですし」
僕は、そう言って彼の脇に控える2人の女の子に目をやった。片方は、赤い髪をツインテールにし、眼鏡をかけ。もう片方は、白い髪を右サイドテールにしていて小柄だった。黒い瞳は2人ともそっくりで、彼女達に血の繋がりがある事が見て取れる。
赤髪の方が、ピンギキュラ・ファイアブランドさん。白髪の方がドロセラ・ファイアブランドさん。どちらもアコナイト義兄さんの乳姉妹である。義兄さんを含めた3人で、ピンギキュラさんの方が一番年上、義兄さんが真ん中。ドロセラさんが一番下だ。顔は、義兄さんには及ばないものの、美人である。
問題はその2人が、べったりと片方ずつ、義兄さんの腕に手を絡ませて、いちゃついているという事だ。ここは屋敷の一室。僕はソファーに座って、机を挟み、義兄さんと対面する形で座っているから。嫌でもその光景が目に入る。
2人は、僕に一切構わず、気持ちの悪い顔で義兄さんの顔をうっとりと見つめている。
僕がいくら女心に疎くとも、この2人が義兄さんの事を好いている事は分かる。
「……ずいぶん、姉妹仲がよろしい様で」
「ピンギキュラは普段は軍で技術士官として活躍。ドロセラは普段は空軍人になる為に、空軍学校通い。長期休暇中でしてね。3人そろって会う日は久しぶりなもので……見苦しい所をすいません」
「はは。お気になさらず。存分にいちゃついてください」
口ではそう言うが、あまり面白くないのも事実だ。こちらが恋患いに苦しんでいるのに、所かまわずいちゃつきおって……。
そんな僕の思いを読まれたのか、義兄さんは、愉快そうに話を続ける。
「人が恋患いで悩んでいる中、文句の一つも言いたいって顔ですね。しかし、この国は、一夫多妻を容認しています。当人同士が合意の上なら、文句を言われる筋合いはありません」
「それはそうですが……」
「……まぁ、そのせいで、婿殿が調子に乗っている節はありますが」
ラノダコール王国は、一夫多妻制だ。平民ならともかく、貴人が側室や愛人を持つ事は珍しい事ではない。
隣国の様に、一夫一妻制に移行する国もあるが、この国の場合、国教が多神教で、その最高神が多数の妻をめとっているという神話を持つ為、一夫多妻に関する抵抗がかなり少ない。という宗教的価値観がある。
この様に、文化的、伝統的、宗教的な価値観というのは中々変える事が難しい。僕らにとっては、これが『当たり前』であり、『常識』なのだから。
ただ、ハーレムを作るにも最低限守るべき掟というか、不文律。例えば、「側室を置くのには正室の許可が必要」とか、「ハーレムメンバー全員を平等に愛せ」みたいな明文化されてないルールがあり、無節操に不貞を繰り返すのは、この国の価値観でもアウトだ。
「……いくら一夫多妻に肯定的だからって婿入り前に堂々と浮気三昧になりますかね。普通」
呆れた様に、義兄さんは呟く。
アコナイト一行は、拙作、「祖国が滅んだ私ですが、幼馴染み兼、義姉妹兼、忠臣に溺愛され、なんとか異国の地で生きています! 〜それはまぁ、それとして、そのうち祖国は取り戻したいなぁ〜」の主人公です。
新作にでしゃばる前作主人公とか言わない。
良かったらそっちも読んでね。(ダイマ)