第29回 勝鬨 (シスル視点)
その顔は僕達がよく見知った顔。というより、今、まさに探していた男だった。彼は、おっかなびっくり小屋から出てきて、ネズミの様に、交戦中の僕達の脇を通り抜けようとする。
「ジーン・アリク!あなたに聞きたい事が!」
アコナイト義兄さんも、ジーンを見つけた様だった。魔法攻撃の対象を僕達から、彼に変えた。
「くそ! なんでこんな事に!」
ジーンは涙目になりながら、なお、逃げようとする。
「逃すか!極秘資料の場所を吐いて貰います!」
アコナイト義兄さんは、左手を突き出し、魔力を集める。
「洗脳魔法! これを使います!」
僕は力を振り絞って立ち上がると、義兄さんに向けて突進した。幸い、彼はジーンの方に意識を向けている。
強力な催眠効果を持ったレーザー光線が、アコナイト義兄さんの左手から放たれようとする。が。
「先に謝っておく!義兄さん!本当にごめん!」
僕はそう詫びると、思い切り、
彼の股間を蹴り上げた。
「がはっ……?!」
アコナイト義兄さんは、前屈みになって悶絶する。
「うぉぉぉぉぉぉ……」
「辺境のルール!『勝利や目的の為に、手段を選ばず! 最後まで生き残ったものが正義!』」
僕はそう言って、倒れ込んだアコナイト義兄さんの首筋に手刀を当て、気絶させた。
「アコ兄様!?貴様ァァァ!!」
かなり卑劣なやり方で、義兄さんを戦闘不能に追いやった僕に、ドロセラさんはメイスを振り上げて怒りの形相で襲いかかってくる。
「敵に背中を見せるとは、いい度胸ね」
そんなドロセラさんを、クローバーが見逃す訳が無かった。彼女は、剣を一閃する。
「っ!」
咄嵯に、ドロセラさんは、クローバーの剣をメイスで受け止めるが、勢いに負け、尻餅をつく。
「くっ……! 兄様のトリカブトに手を出すなんて! 使えなくなったらどうする気なんですか!!」
「あら? まだやる?」
「くっ……」
クローバーは、ドロセラの眼前に太刀を突きつけた。勝負あり、だ。
「……降参する。アコちゃんの治療に行っても?」
「降伏を受け入れる。……早く兄さんの治療をしてあげて」
ピンギキュラさんは、刺突短剣を捨てると、両手を上げてホールドアップの姿勢になった。勝負は僕達の勝ちだ。
さて、問題は……。
僕は、ジーン・アリクの方を見る。彼は四つん這いで、ほうほうの体で逃げようとしていた。
「おおっと、素直に逃がすわけにはいきませんね……」
ヘリオトロープさんが、彼に駆け寄り、尻に槍の穂先を突きつけた。
「ひ、ひぇ~!」
情けない声を上げながら、ジーンはその場にへたり込む。
「観念してください」
僕は、剣を構え、ゆっくりと彼に近付く。
「待ってくれよ! 俺は、公爵家の子だぞ!お前みたいな下賤の血の奴が、俺に触ったら穢れる!」
「黙れ。クローバーに恥をかかせたまま、……逃げられると思うなよ?」
「ひっ!」
僕に睨まれ、気迫に押されたのか、ジーンは怯えた表情になる。
「はあ、この状態でよく相手を煽れますね。……お覚悟を」
呆れつつ、ヘリオトロープさんが、ジーンの首根っこを掴んで、首を前に差し出した。ちょうど、罪人が斬首される時の様な格好だ。ジーンはたちまちパニックになって命乞いをする。
「ま、待てよ! おい! 悪かった! 謝るからさ!……そうだ! 金ならある! 慰謝料は払うし、一生遊んで暮らせるだけの金をやる! だから、助けてくれ! 頼むよぉ!」
本気で、首を落とされると思ってるのだろう。彼の股間はしっとりと濡れていた。
そんな命乞いを無視し、僕はバリカンを手に取る。
戦争犯罪に関わった捕虜を、現場で処刑した事なんて、それこそいくらでもある。命乞いくらいで心を動かされる事など無い。
「敗者は潔くしてください。覚悟!」
僕は、バリカンを彼の頭にあてがおうと、無慈悲に、彼の髪を切り落としていった。最後の一本を刈り終える頃には、ジーンは恐怖のあまり失神していた。
「ふう……」
僕は額の汗を拭うと、大きく息を吐いた。
「ジーン・アリクが髪、クロード・ソードフィッシュが養子、シスル・ソードフィッシュが討ち取った!」
こうして、ソードフィッシュ辺境伯家による、アリク邸への討ち入りは幕を閉じた。
新作主人公に股間蹴りされる代表作主人公の図。男に転生したのが運の尽き。いや、他にチート破る手段が思いつかなくて……。
作者は、早朝に武装集団に家に突撃されてつるっぱげにされたら、多分年甲斐なく泣くと思います。
あと、昼と夜に一回づつ更新します。
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