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第27回 兄妹 (シスル視点)

「後は、この奥の物置ね」


 クローバーは、道の奥の小屋を睨む。


「あそこにいるかな?ジーン」


「いるわ。間違いなく」


 クローバーは、そう言う。その言葉があまりにも確信めいたものだったので、僕は気になった。


「何か、確証でも?」


「直感、といえばそれまでだけど……あいつ、雑談の中で、子供の頃かくれんぼした時、よく物置小屋に隠れてたって言ってた。」


「そんな雑談の中の話題、よく覚えているね」


「これでも、令嬢だもの。記憶力には自信があるわ」


 クローバーはそう言って胸を張る。


「では、物置を探そう」


「せっかくですし、いくらか高そうな装飾品でもくすねてきますか?」


「駄目よ!我々はあくまで、私が恥をかかされた事と、それに対して詫びも賠償も無いことに抗議する為、こんな事をしてるのよ!略奪行為は厳罰に処す!」


「はは、言ってみただけです」


 そんな事を言いながら、僕達は、物置に行こうとする。が、後ろに一緒に付いてきていた兵士数名が、突然、地面に倒れ伏した。


「うっ……」


「ぎゃっ!?」


 僕達は驚愕する。一体、何が起きたのか。兵士達は、瞬時に眠らされ、身動き出来る状態ではなくなっていた。かなりの深い眠りだ。ちょっとやそっとでは、起きないだろう。


「誰だ!出てこい! 」


 クローバーが叫ぶと、屋根から一人の男と2人の女が飛び降りて、こちらに歩いてきた。日が登り始めている為、逆光で顔は判別し辛い。がその顔自体は、僕も、クローバーもよく知る人物だった。


「アコナイト義兄さん……?!」


「それに、ピンギキュラさんとドロセラさんも……」


 驚愕する僕達に、紺髪金眼の、一見少女の様な美青年はにこやかに挨拶をした。


「これはこれは。おはようございます。我が妹弟。睡眠レーザーは、あなた達には外れた様ですね。まあ、よろしい。まぐれ当たりというのも、面白くない」


「……兄さん。これはどういう事かしら?」


 クローバーは険しい表情で尋ねる。


「見ての通りです。あなた達の邪魔をしに来ました。あそこに行かれると困ります」


「何故?」


「決まっているじゃないですか。私もあの物置に少々、用事があるんですよ」


「私達と同じ理由かしら。義兄さんも、ジーンを狙っている?」


「ん? 微妙に話が噛み合っていませんね。我々はアホ婿殿の事はどうでもいいんですが……」


 義兄さんは、そう言って、蠱惑的に微笑んだ。全く、不気味な程に美しく、彼が男で無かったら、惚れていたかもしれない。いやいや、僕にはクローバーというものが……。


「嘘つけ! どうせ、飛び入り参加して、ジーンの髪と引き換えに、ソードフィッシュ家の次期家督でも要求しようとしてるんでしょ! ジークフリート様もそんな事言ってたわ」


「どうも、我々もアホ婿殿の髪狙いだと、勘違いされているみたいですね。まぁ、そう思いたいならそう思ってください。どうせ、貴方達と遭遇した時には邪魔するつもりでしたし……」


 そう、アコナイト義兄さんは言うと、威嚇する様に、魔力を右手に集中し、陽炎の様なものを発生させた。離れている僕からも分かる程の魔力が集中している。


「しかし、どうしてここに目星を?」


「ああ。それなら、ここの家人を捕まえて、尋問したんですよ。極秘資料(重要なもの)は何処にある?って。そしたら、この家の物置小屋の中とか」


「成程、私の直感は当たってたってわけ……ジーン(重要なもの)は物置小屋にいると」


 クローバーは、自分の予想が当たっていた事と、結果的に自分の兄とバッティングした事に複雑な感情を抱いているようだ。


「……案内させた後は、少し眠ってもらいましたが。今倒した家人達に放った睡眠レーザーです。朝までぐっすりでしょう」


「睡眠魔法……ね。ほとんど麻酔じゃない。兄さん、魔法得意だもんね……」


 遠回しに、クローバーは、アコナイト義兄さんの魔法攻撃に警戒する様に言う。最悪、戦闘になる事も視野に入れている様だ。


「我が妹よ。我々とやりあうつもりですか?今、素直に退くというなら、それ以上追撃はしませんよ?我々も目的がありますし。それを優先します」


「兄さんこそ退いたら? 仮にジーンの髪を剃れたって、父上が家督を兄さんに譲るなんて、許可しないでしょうし!」


「それはそうでしょう。そもそも、ジーンの髪なんかに興味無いんですって! 私、ファイアブランド家の婿養子に内定してますし。」


「じゃあ、なんで退かないのよ!」


「それは秘密です(王家からの極秘任務請け負ってるとか言えないでしょう……)。ああ、あと、ついでにシスルの邪魔もしたいですし。」


「僕の?」


 僕は困惑しながら言う。義兄さんと僕の仲はそこまで悪くなかったはずだが。


「いえ、シスル自身の事は好きですし、親愛の情も抱いています。しかし、それはまぁそれとして、元捨て子が大して苦労せずに次期当主の座に収まるのは面白くないかなーって。なので邪魔します」


「いやいや、私めっちゃ苦労してますし!勉強も武芸も頑張ってますし!」


「この嫉妬大魔神め……!兄さん、意外と性格ひん曲がってるわよね……」


「『元・紺碧薔薇の魔女』ですよ。私は。嫉妬心をこじらせて化け物に堕ちた女の生まれ変わりが、性格が良いわけないでしょう?」


「……そうね。そういえば、そうだったわ」


 2人は睨み合うが、クローバーは、アコナイトから視線を外すと僕の方を向いたのだ。その瞳は、強い決意に満ちていた。

勘違いコントの末にラスボスと化したお兄ちゃんの図。


物語も佳境(本話含めあと5話)なので、30日中に最後まで投稿します。


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