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第25回 狂刃 (シスル視点)

 作戦は順調に進んでいる。すでに屋敷の50%は制圧し、拘束され、禿げ頭にされたアリク家の男達がそこらへんに転がされていた。ちなみに、女子供は流石に髪を切り刻まれる事は許され、拘束された状態で制圧された大広間に集められている。


「いやぁ、素晴らしい働きぶりですね。我が家人達は」


「えぇ、皆、よく働いてくれているわ。特に、我が愛すべき恋人(シスル)の働きは目を見張るものがあるわ。……ところで、ジーン・アリクはまだ見つからないの?」


 ヘリオトロープさんと話すクローバーが、僕を褒めてくれた。素直に嬉しい。


 僕はすでに3人のアリク家の家人を無力化し、髪を落としていた。


 現在、とある場所が激戦地になっていた。そこは、物置に続く道の途中。庭の池にかけられた橋だ。

 なんでも、凄腕の二刀流使いが立ちふさがって徹底抗戦しているそうだ。こちら側の兵も多数が戦闘不能にされているらしい。幸い、まだ死者は出ていないが、このままでは時間の問題だろう。


「……私が行くわ。」


 クローバーは、太刀を手にする。


「僕もお供するよ」


「お願い。援護は任せるわよ」


「お熱い事で。私を忘れられてもらっては困りますね。」


 僕とクローバー、ヘリオトロープさんは、数人の兵と共に、問題の橋に向かった。


 果たして、橋では、1人の少女が、一対の太刀を手に大立ち回りをしていた。


 彼女は、二刀流の剣技を巧みに操りながら、味方兵を次々になぎ倒していく。細長い橋の上なので、我々は数の有利を活かせない。今まさに、1人の味方兵が少女へ突進するが、次の瞬間、光速の剣技で彼は手にした剣を弾き飛ばされた。更に、蹴り飛ばされて池に落下させられる。


「うぅ、こいつ、強いぞ。応援を呼べ!」


「キャハハハ! ソードフィッシュ家の家人共も大した事ないわね!」


 少女は挑発する様に中指を立てた。小柄な金髪ツーサイドアップの、一見小動物の様な庇護欲を刺激する少女であったが、その戦い方は、苛烈極まりなかった。


 実際、彼女の足元には使い潰したのか、多数の折れたり、曲がった武器が散乱していた。更に、橋の欄干の上には、武器が破壊された時用か、何本もの予備の剣が突き立ててあった。


「……あれは、エイプリル嬢?!」


 僕は、少女を見て驚愕する。目の前の悪鬼羅刹が、あのジーンに連れられていた男爵令嬢と同一人物とは思えない。


「……シスル・ソードフィッシュにクローバー・ソードフィッシュ」


 少女……エイプリルは、僕達に気が付くと、眉をひそめた。そういえば、彼女も、ファントム様に、アリク邸で謹慎を命じられていた。我々の襲撃に遭遇し、家の中の武器をとって抵抗をしているといった所か。男爵家は武門の家、本質的には僕達と同類なのかもしれない。


 皮肉な事に、『か弱い』と言っていたジーンの印象と、彼女の実像は、180度正反対のものだったのだ。


「夜中に突然やって来て、人の家で過激なパーティーをするのが、ソードフィッシュの流儀なの? 」


威嚇する様に、こちらに剣先を突きつけながら言いエイプリル嬢。顔はあの夜会の時のぶりっ子めいた表情ではなく、怒りをふくませつつ、若干の狂気を宿していた。


「そういう日もあります。今日とかね」


「アハハ! 辺境の野蛮人共め……公爵家の馬鹿息子なんかを誘惑したせいで、こっちは散々よ!アンタ達のせいで、私の輝かしい未来は台無しよ!玉の輿に乗る計画が……。ククク……。父上からも母上からも愛想つかされるわ、うちの兄弟や家人達からは軽蔑されるわ、もうブラインダー家には私の居場所なんてないわ。あの馬鹿息子とその家族は、私を見る度にネチネチ悪口言ってくるし……。私には何も残って無いのよ……。そんなアタシから、まだ身ぐるみ剥ぐっていうの?」


 あの夜会の日以来、ブラインダー家でも色々あったと見える。彼女は明らかに精神的に不安定で、疲労困憊の状態だった。


 彼女の手首には、自傷行為の跡か、傷跡が痛々しく残っている。


 ブラインダー家には相応の慰謝料を請求した。所詮男爵家であるし、自棄を起こされて無敵の人ならぬ、無敵の家になられても困るので、あまり追い詰め過ぎない程度の額であったが、それなりに手痛い出費にはなっただろう。彼女には相応の叱責と対応が下された事は想像に難くない。もしかしたら勘当でもされたのかもしれない。


「それは貴方の自業自得でしょう? 元々、火遊びはしていた様ですし、性根を叩きなおさない限り、遅かれ早かれそうなっていたでしょう 」


「うるさい! 黙れ!死ね! いや、殺す!代償は払って貰うわ!アンタらの命で! うふふふふふ……ぎゃははは! いや、もういっそ殺してよ! ひと思いに! この盛りのついた雌犬を! その鍛え抜かれた大太刀でさぁ!」


 エイプリル嬢は、若干の錯乱状態で、怒りと狂気の表情を向けながらクローバーに刀を向けると、名乗りを上げた。


「アハハ! これでも我が家は武門の家! 何もかも失ったとはいえ、まだアタシには剣の腕がある! 何もかも失ったアタシに最後に残ったもの……!ブラインダー男爵家が娘、エイプリル・ブラインダー!いざ、推して参る!」


 クローバーはというと、彼女の名乗りを嬉しそうに聞いていた。


「ただの尻軽女だと思ったら、中々の使い手みたいじゃない! その意気や良し!」


「クローバー! 明らかにエイプリル、正気じゃないよ!ここは僕が!」


「構わないわ、シスルは後ろで見ていなさい」


 彼女も大太刀『ストライクドラゴン』を構えた。そして僕とヘリオトロープさんを一瞥する。目で、「こいつは私の獲物。手を出さないで」と言っていた。


 ……どうも、あの太刀筋が、彼女の闘争本能を刺激してしまった様だ。


「クロード・ソードフィッシュ辺境伯が娘、クローバー・ソードフィッシュ! 交戦する!」


【朗報】ビッチちゃん、清水一学枠【悲報?】


いや、そのままストレートにジーンの髪を刈っても良かったんですが、彼女との因縁にもけりをつけたかったもので。


ちょっと分かりづらいかもですが、彼女は実家から勘当+謹慎先のアリク家の人々から四六時中なじられたせいでメンヘラ化しています。クソ強いメンヘラとか、たち悪い……。


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