第24回 毒華 (アコナイト視点)
「兄様、くれぐれもお怪我はしない様に」
「はは、我が乳姉妹は心配性ですね。これでも、元『紺碧薔薇の魔女』なのですよ」
アコナイトは、手に魔力を集中させると、そこには、光が集まってくる。魔力を用いたレーザー。彼の得意とする魔法だ。
「……早速、敵が来ましたね」
アコナイト達がいるのは裏門の前だ。そこから3人の男が、ほうほうの体で出てきた。アリク家の人間だろう。
「主君を置いて逃げるとは、感心しませんね」
アコナイトは、そう言うと、手から魔法レーザーを3本放った。光線は、3人の男達に飛んでまとわりつき、拘束する。
「うぐぅ!」
「あぁ!」
「ひぃ!」
3人とも身動きが取れなくなった。拘束系のレーザー魔法だ。光線でありながら対象を物理的に縛る事が出来るという、物理法則を無視した、訳の分からないものである。こんなものを使えるのは、世界広しといえど、大魔女『紺碧薔薇の魔女』の生まれ変わりたるアコナイト位だろう。殺傷力は無いが、ここから抜け出すのは容易ではない。
「貴方達、アリク家の者でしょう? 単刀直入に聞きます。この家の機密資料の類はどちらに?」
「……知らない」
「嘘はいけませんよ。知っているのでしょう?」
「知らない! 俺はただの使用人だ!そんなものの場所は知らん!……痛ぇ!」
アコナイトは、光線の締まりを強くする。男達の身体は、更に強く締め付けられた。
アコナイトの瞳には光が宿っていない。若干の狂気状態にある。彼の目的は、この家の極秘資料を強奪し、引き換えにファントムに、「紺碧薔薇の魔女」の名誉回復という恩賞を貰う為だ。その為に、自身が最も信頼する乳姉妹2人と共に、こうしてこの場にいるのだ。
自身の前世と、乳母の親友の汚名をそそぐ。そんな機会は、この先、何度あるか分からない。彼のいつもの余裕たっぷりな態度は鳴りを潜め、代わりに、ある種の焦りと攻撃性が彼の中に芽生えている。
「大人しく案内して下さい。早くしないと、身が危ないかもしれませんよ。力加減を間違えて、縛り殺してしまうかも……。
「や、やめてくれ……」
ニヤニヤと悪い笑みをしながら、使用人を恫喝するアコナイト。使用人は、そんな彼の笑顔に恐怖を覚えた。
「具体的な場所とは言いません。色々な書類が置いてある場所まで案内してくれれば、後はこちらで勝手に探しますよ」
「わ、わかった。それらしい書類が置いてある所へ連れて行く。頼む、これ以上、絞らないでくれ」
「ありがとうございます。では、お連れしてください。残り二人は……眠っていてもらいますか」
アコナイトは、睡眠魔法で、残りの二人を即座に眠らせた。ドロセラとピンギキュラが、意識を失った彼らの頭に容赦なくバリカンを突き立て、禿げさせていく。ある意味、おぞましい光景に、眠らされなかった男の顔が引きつる。
「無事に連れて行ってくれれば、貴方の頭の安全は保障します」
アコナイトは、そう言って微笑んだ。
「……他のソードフィッシュ家の家人とバッティングしないかな」
ピンギキュラは、そう少し心配そうに言った。
「最悪、その時は無力化しましょう。元々勝ち目の薄い博打です。これ位の事はしないといけないでしょう」
「弟様、妹様に遭遇するかもしれないよ。弟様、今回の作戦でアホ婿殿の髪を狩れば、婿養子確定って話でしょ。多分、向こうは気がたってる。容赦なく、攻撃してくるけど」
ドロセラは、バリカンについた髪を払うと、愛用のメイスを手に取る。もはや既に2人の男の頭に毛は無い。
「その時はその時です。交戦が不可避なら交戦します。……何、私の代わりに次期当主になる義弟に、試練を与えたいという気持ちもあります。妹と家督が欲しけりゃ、兄を超えてみせろ!という気持ちですかね。あえてお邪魔虫になろうという事です」
「ずいぶん積極的だね……本音は?」
「才能のある義弟が、あまり苦労せずに、私を差し置いて次期当主に内々定しているのは少し妬ましい!邪魔したい! ……という気持ちは確実にありますね」
「お、男の嫉妬も入ってる……」
「見苦しいよ、兄様。第一、この前、ファントム様に対して、血筋で男を寝取った女と、女の血筋に惹かれて、婚約者を裏切った男の子どもが、どこの馬の骨とも分からぬ捨て子と結ばれるかも。最高の喜劇になった(キリッ!)みたいな事言ってなかったっけ?本来、2人を応援する立場では? 悪い事言わないから、交戦回避しよ? 」
「あー。それなら、シスルを正式に婿養子にして、血筋に得体のしれない謎の血を入れる事に、クロード様ローズ様2人ともそこまで躊躇してなかったみたいなので、割とどうでも良くなりました。結婚するなら兄として素直に喜びますし、別れさせられるなら、ふーん、あっそ。くらいです。まぁ、交戦回避出来るならそうします。出来るなら……ね!」
姉妹は流石に呆れた様にアコナイトを見た。アコナイトは、悪い顔をしている。夜明け前の暗い中でも、彼の美しさは色あせないどころか、むしろ輝きを増している様に思われた。
「ふっ、何と思われようと結構。これは、私にとっての戦いでもあるのですから……ニリン殿の名誉回復……義弟の腕試し……」
そう言うと、アコナイトは、男を拘束していた光線を解いた。
「さあ、案内して頂きましょう」




