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第23回 討入

 アリク公爵邸は、王都の郊外にある、かなり大きなお屋敷だ。敷地は広く、庭に池があるほど。屋敷を囲む塀も高いため、正門と裏門以外からは侵入出来ないようになっている。その門も両方固く閉ざされている。


「皆、準備はいい?」


 いつも通り、先陣に立つクローバー。僕は、彼女のすぐ後ろで、彼女の背中を守る。突撃する龍とそれを守る吉弔(きっちょう)といういつものフォーメーションだ。


 部隊は二つに分かれている。僕とクローバーがいるのは裏門方面。辺境伯様の隊が正門方面だ。


「アルファ隊準備完了!」


「ベータ隊、配置につきました」


「チャーリー、デルタ、エコーも準備完了!」


「よし、行くわよ。門を破る。工兵!」


 見張りはいない。時刻は午前4時。この屋敷の住民は皆夢の中だろう。これ幸いとばかりに、爆発物を取り扱う工兵が門に爆薬を仕掛けた。


「準備完了!いつでもいけます!」


「よし、発破ぁ!」


 轟音とともに、門の扉が吹っ飛んだ。僕達はそのまま、敷地内に突入した。


 正門方面でも、爆発音がする。向こうでも、突入が行われている事だろう。


「突撃ぃぃぃ!GO!GO!GO!」


「「「おぉぉぉぉぉぉ!!」」」


 ソードフィッシュ家の精鋭たちは、クローバーの号令と共に、雄叫びを上げて突っ込んでいく。


 その時、前方の暗闇の中から人影が現れた。使用人の服を着た男性である。恐らく、爆発音を聞いて、飛び起きて様子を見に来たのだろう。


「敵発見!排除する!」


 クローバーが「ストライクドラゴン」を抜いて、彼に襲い掛かった。使用人は腰につけた剣を抜く間もなく、彼女の太刀に峰打ちされ、制圧された。


「事前に指示された通り、一人も殺すな! それは徹底する事! さすがに、死人が出たらこちらが悪者になる!」


「ははっ!」


「了解です、クローバー様!」


 クローバーは、制圧した男の首根っこを掴んだ。そして、そのまま、バリカンを手に持つ。


「でも、髪は『手加減』の対象ではないわ! ことごとく撫で斬りにせよ!」


 そう言って、彼女は使用人の男の髪を容赦なく刈り取った。男は、悲鳴を上げる暇もなく、頭を丸坊主にされた。


「「おおぉぉー!」」


「皆、散れ! 一人ずつ確実に刈るのだ!誰も逃がすな!」


「「おおぉぉー!」」


 ソードフィッシュ家の戦士達は、クローバーの指示に従い、屋敷内に散っていった。もう、こうなったらやるしかない。僕は、愛用の剣『ストライクタートル』とバリカンを手に持ち、最優先撃破目標、ジーン・アリクを探して、屋敷内を捜索した。




 ***




 そんな阿鼻叫喚になっているアリク家の屋敷を、門の前で眺めている人影が3人。


「いよいよ始まりましたね……」


 人影の一人が、そう呟く。彼は紺色の長い髪と金色の瞳が特徴的な、とても美しい容姿をしていた。


 アコナイト・ソードフィッシュである。彼は、脇に控えた自身の恋人であり、乳姉妹であるピンギキュラとドロセラに目配せする。


「ジーン・アリクの髪を討ち取ったものには、何でも好きな褒美を与える……。クロード様も思い切りましたね」


「……アコちゃん、本当にやるの?」


 脇に居た赤髪ツインテールの女性、姉の方のピンギキュラ・ファイアブランドは、少し、心配そうにアコナイトに言う。


「退くなら、私達はそれに大人しく従うけど」


 白い髪を右サイドテールにした女性、妹の方のドロセラ・ファイアブランドも続けて言った。だが、アコナイトは首を横に振る。


「……計画通り我々も介入します」


 事前に話した通り、討ち入りに合わせてアリク邸に侵入。中にある機密資料を強奪する任務を、彼は果たすつもりである。


「とはいえ、私も本音は怖いんですよ。……最後に、賽の目の女神にお伺いを立てましょう」


 アコナイトは、懐からサイコロを2つ取り出した。


「なんだ、まだ兄様だって、心が決まってないんじゃん……」


「私だって、常に心に余裕があるわけではないんですよ。……この2つを振り、合計値が偶数なら作戦開始、奇数なら……帰って3人で川の字になって寝ましょう。……勝負!」


 彼はそう決めると、2つのサイコロを地面に投げた。


 果たして出た目は、6が2つであった。


「……作戦、実行です!我々はこの討ち入りに介入。アリク家にある機密資料を奪取します!我が忠臣達よ、私に続いて下さい!」


「「了解!」」


 こうして、もう一つの討ち入りも始まった。


アコちゃんは大仰な物言いして、常に余裕ぶっこいてますが、本来はめちゃくちゃ臆病かつ慎重な性格です。

惚れてるファイアブランド姉妹の手前、弱い所見せられないと思ってるからこんな事になってます。


ただ、姉妹は彼の本質は分かってて「必死に余裕ぶって可愛いなぁ」と思われてます。


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