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第2回 首桶 (シスル視点)

 王国歴648年。11月10日。ラノダコール王国ホウンの街。


 建国から今年で648年目のこの国は、国境沿いの地方を巡って、長年、隣国ノスレプ共和国との争いを続けてきた。


 国境沿いの地方の治安維持と、国防を担う我がソードフィッシュ辺境伯家も、必然、その争いに何度も駆り出されている。


 今日は、ノスレプ共和国によって占領されていた、国境沿いの街、ホウンを奪還した所だ。立て籠もっていた敵軍に、壊滅的損害を与え、本国まで潰走させた。大勝利だ。


 解放したホウンの役所を臨時の駐屯地にした我々は、そこの庭で、論功行賞と首実検を行っている。


 次々と、首桶に入れられた首が、大将の辺境伯様(父上)の前に運ばれてきて、その人相を、公開されている隣国軍人達の写真と見比べて確認し、討ち取った者に、手柄に応じた褒美を与える。勝ち戦の時の、いつものやり方だ。僕は、護衛も兼ねて、辺境伯様(父上)の脇でその光景を眺めていた。


 写真を撮れる魔導カメラなんて便利なものが開発されたのに、戦果確認のやり方は、昔ながらのやり方なのが、ラノダコール流だ。蛮族じゃあるまいし、いちいち首を切り取って持ってこなくとも、とも思うが、このやり方が、個々人に恩賞を与えるのに一番効率が良いやり方なのも間違いない。グロテスクな、血まみれの生首を確認する作業にもいい加減、慣れてきた。


 そんな中、最後の方に少女が現れた。姉さんだった。姉さんは、抱えていた首桶を置くと、その中から、生首を取り出した。


 見分役の家人(けにん)が、それに驚愕の声を出す。


「……っ!? 辺境伯様、この者は、ジョン・ソギウル少将です! ホウン防衛隊の指揮を取っていた者です。まさに文字通りの大将首でございます! 」


 それを聞いた辺境伯様(父上)は、膝を叩いて喜んだ。


「我が娘ながら見事! 今日一番の手柄はお主だ! 」


「勿体ないお言葉。敗走する部隊の後ろの方で、律儀に撤退の陣頭指揮を取っていた所を襲い、討ち取りました。代表して私が持ってきましたが、我が乳母姉との共同戦果です。彼女にも、何か恩賞をお与えください」


「うむ。約束しよう」


 満足げに言った辺境伯様(父上)は、それから僕の方に視線を移した。「お前の戦果はどうだった? 」と顔に書いてある。


「……僕が、今回は討ち取ったのは、雑兵首が1のみです。姉さんの部隊の一員として、近くにはいましたが、ソギウル少将まで肉薄したのは姉さん達2人だけで、敵の反撃も激しく、名のある者の首は取れませんでした」


 僕がそう言うと、辺境伯様(父上)は、少し残念そうにしつつも、笑みをくれた。


「……まぁ、雑魚でも戦果を挙げたのは事実だ。そう気落ちするものではない。功を焦り過ぎるのも良くない。怪我が無くてなによりだ」


「ははっ。身に余るお言葉」


 僕の言葉に満足したのか、辺境伯様(父上)は、言葉を続けた。


「時に、クローバー。恩賞は何か希望はあるか? 」


「……」


 姉さんは少し、無言であったが、静かに口を開いた。


「何をおねだりするか、少し考えさせてもらっても良いでしょうか? 」


「うむ。まぁ良いだろう。早めに言えよ」


「ははっ! 」


 それから、辺境伯様(父上)は、姉さんに近づき、肩を叩いた。


「……お前が強いのは良い。助かっている。が、あまり、お転婆すぎるのも考えものだ。来るべき婚姻に備え、令嬢としての勉強も進めておけよ? 」


「……はっ! 」


婚約者(婿)殿とはどうだ? 仲良くやれているか? 」


「……」


 姉さんは一瞬、少し、迷った様に目を泳がせたが、すぐに肯定の返事をした。


「……はい! 大変良くさせてもらっています」


「うむ。宜しい! ……あまり、めでたい場で小言を言うのも野暮だったな。2人とも、今日の所は、存分に勝利の美酒を味わってくれ」


「「ははっ! 」」


しょっぱなから首桶が出てくる鎌倉時代系婚約破棄もの

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