第17回 四葉 (シスル視点)
「……疲れた」
「おつかれさま。かっこよかったわよ」
帰りの馬車の中。僕と義姉さんは、ぐったりとしていた。あの後、ファントム様の鶴の一声で、何事も無かったかの様に、再びパーティーが再開されるはずもなく、あんな事があった後なので、方々から心配されたり、同情されたり、質問に答えたり、アリク邸を報復に焼き討ちにすべく、火炎瓶片手に突撃しようとする家人達をなだめたり、それらの対応に忙殺された。特に最後。宴で出たワインの瓶やビールの瓶をその場で火炎瓶に改造するんだもん。参っちまう。
ローズ様とヘリオトロープさんやピンギキュラさん、ドロセラさんが代わりに応対してくれることもあったので、何とかなったが、僕はともかく、精神的に疲労困ぱいしているであろう義姉さんのケアが重要である。
「大丈夫?」
「うん。ちょっと疲れただけだから。寝れば治ると思う……。戦場に比べればこんな事……」
「無理しないで。すごく疲れているように見える。そんなに、婚約破棄がショックだった?」
「うーん。それもだけど、どちらかと言うと……」
「言うと?」
「……この状況であなたにかける言葉ってなんだろうなって思って」
「え?」
予想外の言葉に驚く。
「ほら、この前、告白してくれたじゃない。その答え、パーティーが終わってからするって言ったよね」
「ああ……」
そういえばそうだった。すっかり忘れていた。あれだけの騒動が起きたのだ。僕の頭の中は、婚約破棄の事ばかり考えていたせいだろう。……しかし、これはチャンスだ。
「……今聞きたい」
「ええっ!?ここで?」
「今すぐ知りたい。ダメかな?」
「……わかったわよ。じゃあ、ちゃんと聞いていてね」
覚悟を決めたのか、一呼吸置いてから、義姉さんが口を開く。
「私は、初めは断ろうと思っていたの……。父上のメンツを潰したく無かったし、ここで、婚約を破談にしたら、武断派文治派の協調は出来なくなる。」
「うん」
「それに、ジーン様の事は、愛してはいなかったけど、それなりに義理も情もあったし……だから、断るつもりだったんだけど、今日こんな事があったし。もうそれらの事に縛られる必要も無くなった。」
「……」
「……そうなって、改めて、私が一番大切な相手は誰だろうって思った時、私の心の中に居たのは、あなただった。……だから、今、あなたの気持ちに応えます。家の道具ではなく、1人の女の子として!」
「それって……!」
義姉さんの顔は真っ赤だった。
「私も、6歳のあの誕生日の日から、貴方がずっと好きだった! お願い、シスル、ずっと私の傍にいて!義弟としてではなく、私のパートナーとして!」
言い終わると同時に、ぎゅっと抱きしめられた。僕も、それに応えて、彼女を優しく抱き返す。
「もちろん!喜んで!これからよろしくね!義姉さん!!」
「……パートナーとしてって言ったでしょ?」
義姉さんは、少し不満そうに僕の瞳を見る。
「今後は、義姉さん呼びは禁止!ちゃんと、1人の女の子として名前で読んでね。もちろん、さん付けや様付けもいらないからね!」
冷静に考えると、本来僕らは同い年なのだ。名前呼びでも、問題は無い。血筋の高低差は……それを言うのは野暮というものだろう。
「……分かったよ。クローバー」
「よろしい」
そう満足そうに言ったクローバーは、ゆっくりと僕の唇に、自身の唇を重ねた。はじめて触れる女の子の唇は、とても柔らかかった。
第一部。婚約破棄編はこれにて終了。明日からは第二部、討ち入り編をお楽しみください。
まんま忠臣蔵からインスピレーションを受けた、というかパロディ展開だけど、最近の子は赤穂浪士とか知ってるのだろうか……(一抹の不安)
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