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第13回 夜会 (シスル視点)

 12月6日。


「クローバーちゃんのエスコートが出来な~い? 婿殿はそう言っているの~?」


「はい、ローズ様」


 僕、シスル・ソードフィッシュは、義母(はは)上にそう報告した。


 ヨルヴィーク家で行われる戦勝記念パーティー。当日になって、ジーン・アリクは、義姉さんのエスコートを拒否してきた。


「直前に言ってくるなんて~……ちょーっとマナーがなってないわね~」


 義母、ローズ・ソードフィッシュは、基本的に血の気の多い人間が多い、ソードフィッシュ家の中でも、ぽややんとした、のんきな性格をしている。だが、怒ると、辺境伯様よりも恐ろしい人だという事も、僕は知っている。実際、ある程度の恐ろしさが無いと、斬った張ったの中で生きている武人達をまとめられないという事情もある。今彼女はマナーがなっていない婿に、少しむっとしていた。


 義姉さんのドレスの着付けの、最終チェックを行っていたローズ様は、少し考えて、代役を立てる事を判断した。


「シスル、貴方が、クローバーちゃんのエスコートに立ちなさい~」


「えっ!? ぼ、僕がですか? でも……」


「貴方なら大丈夫よ~。しっかりリード出来るでしょ? それに、将来、ソードフィッシュ家の人間として、お嫁さんを貰う練習にもなるし~。」


「は、はぁ……。義兄さんを呼ぶという手もありますが」


 僕がそう言うと、優しい義母上の顔が、一瞬で悪鬼の様な恐ろしいものに変わった。


「論外。あの化け物ストーカー女の生まれ変わりに、クローバーちゃんのエスコートを頼むくらいなら、その辺の冒険者にでもやらせた方がマシよ」


「そ、そうですか……」


「母上、兄さんの事、嫌い過ぎでしょ。事情は分かるけどさぁ……仮にもお腹を痛めて生んだ子なんだし、もう何十年も前の事なんでしょ?『紺碧薔薇の魔女』事件って。兄さんにも、少し向き合ってあげたら?……こんな事言いたくないけど、実の子よりも、養子の方を可愛がってるってどうなのよ?」


 義母上は、僕の頭を撫でながら、義姉さんの言葉に返答する。


「何~? クローバーちゃん。貴女まで、あの化け物ストーカー女の肩を持つの~?確かにあの件は、まだ若かった私にも原因はあるし、ちょーっとやり過ぎたのは認めるけど……アレは、クロード様を殺そうとしたのよ。絶対許さないわ。勿論、その生まれ変わりと関わる気も無い……。それに、シスルは良い子よ~?頭も良いし、腕っぷしも強いし。あの紺色毛虫より、よっぽど育て甲斐があるわ~」


「うわぁ、まったく怒りがおさまっていない。怖いわー。女同士の確執怖いわー。いじめるとかじゃなくて、関わりたくない、っていうのがガチで嫌ってる感あるわね……」


「……まあ、あの紺色毛虫の事は放っておいて。とにかく頼んだわよ。クローバーちゃんの事」


 こうして、僕は、急遽、義姉さんのエスコートをする事になってしまった。


「……はあ、緊張してきた」


「大丈夫だって。私が付いているから。最悪、何かあっても私が守ってあげる」


「はは……ありがとう。義姉さん。男としては情けない気もするけど」


「そんなこと無いって。私が強すぎるのよ」


「……うん。ありがとう。それで、この前の話の続きだけど……」


 義母上もいるので、この前の告白の答えを、あくまでそれとなく催促する。


「その話は……パーティーが終わってから、答えを聞かせるわ」


「……分かった」


 そして、僕達は会場へと歩き出した。


 会場に入ると、既に沢山の貴族達が談笑していた。僕達が入ると、貴族達の視線が一斉にこちらに向く。……やはり、婚約者と不仲というのは噂になっている様だ。


「……ねえ、あれが例の?」


「ああ、ソードフィッシュ家の。最近、婚約者と仲が悪いっていう」


「エスコート役は養子の弟君の様だな。アリク殿でないという事は、まぁ『そういう事』なのだろう」


「ふーん。可哀想にねぇ。それに、弟と言ったって元捨て子というじゃない。ソードフィッシュ家の令嬢ともあろう方が、捨て子にエスコートされるとはねぇ……」


 そんな風に、ひそひそと陰口を叩く声も聞こえてくる。


 正直、気分の良いものでは無いが、義姉さんをエスコートする立場である以上、堂々と振る舞う必要がある。そうだ、僕は吉弔(きっちょう)なのだ。龍を守れないでどうする。


 僕はなるべく気にしない様にしながら、義姉さんの方をチラリと見る。


 今日の義姉さんの格好もとても可愛らしい。胸元にシロツメクサの花をあしらった、青いマーメイドラインのドレス。真紅の髪と対照的で、大人っぽい雰囲気を醸し出している。


「……どうしたの? 私の顔に何か付いてる?」


「いや、綺麗だよ。凄く似合っている」


「……ッ!……ありがと」


 照れた顔もまた可愛い。


 一通り、挨拶回りを終えて、少し息をついた僕達。だが、休憩時間は、思わぬ相手によって中断せざるをえなかった。


 その原因は、入場してきたジーン・アリクである。なんと、彼は噂の男爵令嬢、エイプリル・ブラインダーをエスコートして入場してきたのだ。


お待たせしました。お約束の婚約破棄でございます。

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