片蝉
片蝉
「お願いですから席についてくださいよ」
ヒズミは苦労して潮風にユラユラ揺れている弥栄子を席に座らせた。これで六席亭の席は埋まった。
この六席亭を用意したヒズミとテオン、弥栄子、マヌエット、灯士男に依子。
「私のこの席に座ってた人が殺されたの?」マヌエットが気味悪そうに声を上げた。
ヒズミは肯いた。
六人が何となく黙った。
「幽霊線路に入った人なの?」マヌエットが少し腰を浮かせて椅子を見た。
ヒズミは軽く肯いて、「ここで明らかにしたいのはアリソン・ジョンを誰が殺したか、それに、幸せな宇宙人の正体です」
「それは・・」マヌエットは口ごもった。
「まずは灯士男さん、あなたの記憶を話してください」
「待って、この人は記憶喪失なの」
「いや・・」灯士男は手で依子を制した。
「僕の記憶は・・」灯士男が話し出した。
確か、父がこれを言ったら罰金と言ったのだ。それを兄がうっかり言ってしまった。1000円。
兄は悔しくて泣いていた。自分の部屋に行って何も言わず千円札を父に出した。兄の目が充血していた。
「何こいつ、泣いてやんの」父はせせら笑った。
まさか取ることはあるまいと僕も見ていたが、父がちゃっかり兄の手から千円札を抜き取ったのを見た。
「それをイレイザーの洞窟に置いてきたんですね?」ヒズミが聞いた。
灯士男は肯いた。
「それじゃ、アリソンさんを殺したのは一体誰なの? 私、すっかり灯士男おじさんを疑っちゃった」
「自分から轢かれに行ったか」ぽつりと灯士男が呟いた。
家が沈んでいく。
一番、出口に近かったマヌエットだけが家から飛び出したが、残りの五人はそのまま地の中へ沈んでいった。幽霊線路はどこにでも走っているらしい。
マヌエットは「セミのお墓」を作った。
それから、半分沈んだままの六席亭のドアを祈るようにノックした。




