女教師vs真夜中のイタ電
女教師という言葉に魅力を感じます。たまらんですばい。
1
「うーん……、結構な時間帯まで残業してしまったかなぁ〜〜」
腕時計と職員室の壁掛け時計の針を見合わせながら、私は独り言を漏らす。ノートパソコンで期末テスト問題の製作をしていて、あーでもないこーでもないといった感じで、問題文を削っちゃあ付け足し削っちゃあ付け足し削っちゃあ付け足しを繰り返していた。おっと、自己紹介が遅れたみたいね。私は笹山沙織、歳は二九の独身。教職員生活を送って三年目になる。
私だって好きで中学校へと就任したわけじゃないんだから。高等学校にしたかったんだからね。そして、ハンサムな高校生とロストヴァージン……。―――はっ!? 私ったら、ちょっとばっかし別世界を視ていたみたい。危ない危ない。
そろそろ帰る準備を、しなくっちゃ。あとで印刷したプリントに、間違いがないか目を通さないとね。勿論、日頃からお世話になっているノートパソコンにお茶をこぼさないように、丁寧に片付けないと。ウィンドウ画面上にログオフの指示を送った時に、職員室にある黒電話からベルの呼び出しが高鳴った。
「ひっ!」
年甲斐もなく声をあげて驚いてしまった私。ちょっと、おおお驚かせないで。全く、なんだろうか? こんな時間に? 黒電話はしつこくベルを鳴らしている。私は、不愉快になっていたりして。無視してやれとは思ってはみたものの、あまりにもしつこく鳴りっぱなしな黒電話だったから、横着に受話器を取って私はぶっきらぼうに言葉を吐き出した。
「はい、長崎県立鶴港中学校ですが」
「私、メリー。今日の貴女は何色?」
はぁ?! イタ電? なんで、電話口から聴こえるアンタの声が可愛いわけ? メリーって誰? 何のつもり? 貴女は何色って私のインナーの事を訊いているつもり?
「み……、水色だけれど……」
あー、やだやだ。顔が熱くなってきたじゃないか。
「そう、貴女の水色は未だ汚れを知らない透明感にあふれる水色ね」
「あ、ありがとう」
「何も照れることじゃないから」
「は……?」
「第一、貴女これがイタ電かどうかも分からないんじゃない? そして、私がメリーっていう女かどうかも、疑ってはみないわけ?―――貴女のお仕事は何? 年は? 男はいる?」
ムカ……。何だこれ?
間違いなくイタ電じゃねぇーかよ。
2
「あのさ、やめてもらえるかな?」
「はいそうですかと云ってやめる訳にもいかないでしょ?」
「迷惑だよ」
「迷惑なんかじゃないってば。ね、貴方、歳は? 仕事は? 男はいる?」
「おととい来やがれ!」
なんてヤツだ!
腹を立てて受話器を本体へと叩きつけて、イタ電相手の通話を強引に切った。全く、なんというイタ電なんだろうか。内容的なものは、エロといったものでもないらしいが、しかし、どこかそこはかとなく遠回しにエロい。電話の相手が女だったというのも、私は引っかかっていた。
兎に角、今の私はとっても不愉快だ。そして、再びベルの呼び出し音が鳴り響く。釈然としない気持ちで、私は受話器を取る。
「はい、こちら長崎県立鶴港中学校です」
「私、メリー。今、スクールゾーンに入ったところ」
「ああ、そうですかい」
「待って、切らないで!」
「な……なに?」
ムッとしながら言葉を吐く自分自身が大人気ない……。すると、『メリー』と名乗る女のクスクスとした笑い声を電話口から聴いた。
「ひょっとして、貴女ってツンデレかしら?」
「馬鹿だろ! お前は!」
「まあまあ、そうカリカリしない。ちょっと付き合ってくれるだけでいいんだからさ〜〜」
メリー、アンタ、少し上から見てない? 女は構わず会話を続けてきた。
「ねぇ、ねぇ、でさ。貴女って独身? 男はいる? と―――」
ガチンと鳴り響くほどに力強く通話を断ち切って、腕を組んでしまう私。あーーっ、もうっ! イライラくる! 畜生っ、帰る!
また再び黒電話から呼び出し音。勿論、無視を決め込む。荷物をまとめて上着を羽織って肩にバッグをさげた丁度、その時に私の携帯電話から着信音楽が鳴りだした。着信相手の表示を確認したら、姉からだったので電話に出る。
「もしもし、お姉ちゃん。あとは帰るだけだから」
「お疲れ様。私、メリー」
「……」
「私、今、校門の前にいるよ」
そうですかい、見てやろう。職員室の窓から校庭を通して校門を覗いたものの、メリーとやらは居らず。
「居ねぇーじゃんよ」
「居るよ。だって私は今、校舎に入ったところだから」
「……」
「で、で、貴女には男はいる?」
私から通話を切る。
またまた携帯電話から着信。どうして、出てしまうものか。無視を通せば早いものなのに。
「私、メリー。今、職員室の前にいるよ」
3
職員室の扉を思い切って引き開けて、メリーと名乗る女と対峙した私。
か……っ、可愛いっ!
兎に角、可愛いかった!
目の前に立つ女の見た目は、十五から十六歳と思われる少女だったものだからさ、私がイタ電を受けて溜め込んでいた怒りがどこかへと飛んでしまったわけよ。メリーという女の子は、色白で卵の輪郭を持っていてその上に黒くて丸い瞳。清潔感の溢れる純白のワンピースと白いサンダル。そして、鍔の広い麦藁帽子。本当に、育ちの良いお嬢様みたいだもの。だが、イタ電はいただけないなぁ。
メリーは私から真っ直ぐと見つめられているのに気がついて戸惑いの顔を表すと、しどろもどろに声を出した。
「あ、あの……。私、メリー」
「んふふふ、メリー。こぉんな時間に何をしていたのかにゃあ〜?」
「うう…っ、にに人間たちを驚かせようとしていたんだけれど……」
「メリぃー、おイタは許しませんよぉーっ」
「ひっ……っ! みみっ、見逃してください……」
メリーが私の指関節鳴らしに、怯えを示す。んもうっ、見逃すわけないじゃんメリーたん。そして、構えをとった私は、メリーを狙って踏み出した。
「悪い子には、お仕置きです!」
「ひゃあっ!!」
「あひゃひゃひゃひゃ! くすくすくすくすぐったい、くすぐったい! やめてやめて、いやいやいやいや! あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ!」
「ほぉうら、ほぉうら、メリーたーーん。一体どこがくすぐったいのかにゃあー? こちょこちょこちょこちょこちょぉーっ、お仕置きですよ〜〜」
私はメリーのあらゆる場所を、くすぐってゆく。逃れられることがないように、知る限りの関節技と寝技とを駆使して取り押さえて、足の裏に膝に内股と太股。腰回りに脇腹と背中。首筋に顎の辺りに耳の周辺。メリーの体中を、くすぐりまくった。執拗に攻めて攻めて攻めまくる。その内、メリーがヒーヒーと息を切らして私の手を軽く叩く。ダップのサインだ!
「も、もう……勘弁して……」
疲れきったメリーは、校舎の廊下に仰向けで大の字になる。私の勝利だ。
「今後、このようなことはしないかな?」
「は……はい……、もう……二度と致しません……」
「よし、お利口さん。帰ろっか」
「はい」
『女教師vs真夜中のイタ電』完結
変なお話を最後までお読みしていただきまして、ありがとうございました。メリーさん出したかったのですよ。しかも、女教師と絡ませて。しかし、イタ電はしてはなりませんよ。