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弱肉強食とバランス

 外で洗濯物を干している時にふと上を見ると、思わず声を上げてしまった。

 カマキリが壁に張り付いていた。褐色型のカマキリで、ほとんど壁と同化している状態だったし。なんだたったらカマキリは私の方に気がついて、じっと見ているじゃないか。


 忍者か、君は……


 私の頭より上にいるため判別は難しいが大きさ的にオオカマキリ、もしくはチョウセンカマキリだと思われる。メスかオスかも判別しにくい、お尻を覗こうとするも角度的に見えないがお腹はぺったんこだ。

 まだ食にありつけてないのか。またメスであるならまだ卵を抱えてないのかもしれない。


 狩りの待ち伏せなのか、それとも気まぐれなのか……何にせよドキドキするので、そんなところにいるのはやめてほしい。

 先ほどカマキリを忍者か、と表したが。カマキリの翅は大きく、あの体でもかなり遠くまで飛べる。本当に忍者らしく身軽な跳躍を見せる。


 そしてカマキリといえば独特な腕。昆虫には珍しく上半身を起こす虫で、その姿はさながらボクサーだと思うが。地域によっては拝み虫とも呼ばれるらしい、言われて見れば両腕を合わせているようにも見える。

 しかし虫の前脚と思っていると痛い目に遭う、あの強靭さは最強の凶器だ。鎌に返しがついており、捕まえた獲物に食い込む。そして腕の力はとても強く一度捕まってしまえば、逃れることはできない。


 ならば捕まらなければいい、と思いたいところだがそうはいかない。彼らは忍者、隠れることもプロだ。じっと動きを止めて、目の前を通っただけの獲物を瞬時に捕まえる。

 気がついた時にはもう遅い。暴れても逃れることはできず、生きながらにして食われる。


 カマキリはまさに弱肉強食という言葉が相応しい言葉なのかもしれない、ただカマキリは絶対的な強者というわけでもない。強者になるのも一握りということだ。


 生まれたてのカマキリはとても小さくて可愛い。一回の産卵で二百匹が生まれる光景は虫が苦手な人からしてみれば地獄だろう。だがあれら全てが成虫になるわけではない。彼らは生まれながらにして強者ではないのだ、最初はアブラムシや小蝿のような小さな虫から食べ始める。

 それだけ体が小さいのだ、自分よりも大きな外敵はまだまだ多い。運悪くカエルやトカゲになんて出くわせば、一瞬で腹の中だ。


 成虫になるためには脱皮を繰り返さなければならない。脱皮をしている時はとても無防備で、体が固まるまでの時間が(じれ)ったい。

 それに死の危険はカエルやトカゲ、鳥、他の虫だけではない。病気だって、脱皮不全だって命を落とすこともある。


 あれだけ生まれた子供カマキリたちは、どれだけの個体が成虫になれるのだろう。

 まさに一握りだけが生き残って、あの強い姿を見せているのだ。


 そしてカマキリがカエルやトカゲの体格を超えると、弱肉強食の立場が逆転する。大きくなったカマキリに捕まり生きながらに食われるカエル。トカゲの鱗だってなんのその。獲物だと認識して捕まえたら、食べられる物ならなんだって食べる。

 食べることは子孫を残すための全てだ、腹が膨れるほどに食べる。そして子を作る。

 そしてまた子が生まれた時、またカエルやトカゲに食われる。強者のバランスはこうして取られているのだろう。


 残酷で非情、食うか食われるかの環境に見えるかもしれないが。このバランスが崩れてしまえば、草食の昆虫たちの均衡が崩れてしまう。カマキリが増えすぎても、カエルが増えすぎても、トカゲが増えすぎても困る。

 繊細で複雑、そして切っても切り離せない。それが自然なのかもしれない。


 ところで、あの子はいつまで壁に張り付いているのだろう。


 先ほど洗濯物を取り込む頃、まだあそこにいた。取り込んだ洗濯物の動きにちょこちょこ、こちらを見ている。西日を避けるように止まっているので、実は涼みに来ただけなのだろうか。


 可愛いから良いのだが、あの大きさの体で自分の頭より上だとドキドキするので。本当にやめてほしい。


 ***


 記事を投稿したら、干したてのシーツに寝転んだ。干したてのシーツの匂いは子供の頃から好きだった。童心のような呟きが思わず出てしまう。


「カマキリいいな、飼いたい」


 カマキリの飼育の難しさはやはり餌の確保だ。生き餌が必要になると、その管理スペースも必要になる。


「難しいなぁ。やっぱり、巡り合うだけでいいか」


 たまにこうして出会って、遠くから見るぐらいで丁度いい。そんなことを思いながら、干したてのシーツの匂いに微睡む。



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