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9. 白銀騎士の初恋~伯爵の依頼~

 

「貴殿がハル・カルマンか……聞いていた通り確かに見事な白銀の髪だ」



 招聘(しょうへい)に応じた俺を見てファマスの領主ロバート・バロッソ伯爵が発した言葉がそれであった。


 訓練中に伯爵から呼び出され、何事かと不審に思いながら伯爵の屋敷へと赴いたのだが、そんな程度の事を確認する為だけに国家騎士である俺を呼び出したのか?



「まさに昔話に出てくる異郷の白銀(しろ)騎士の如き風貌だな」

「?」



 伯爵が口にした異郷の白銀騎士なるものを俺は知らないが、何やら物語の人物と俺を重ねているようだった。



「両親がもともと西方の国の出身なのです」



 そんな些事(さじ)で呼んだのかと、俺は内心で少し立腹したのだが、そんな不満はおくびにも出さずに淡々と身の上を説明した。



「行商人だった両親がこの国に到着してすぐに母が俺を身籠ったのがきっかけで、二人はこの国に定住したのだと聞かされています」


 銀の髪に白皙の(かお)……だから俺の容貌はこの国では珍しいのだ。



「そうか」



 だが、伯爵は俺の話を聞いても特に興味を示した様子もない。

 その素っ気ない態度に、自分で話をふっておいてと憤りを感じたが、そこはぐっと堪えた。



「済まないが、ファマス近郊の森に住む魔女から薬を手に入れてきて欲しい」

「は?」



 そして、いきなり話題を切り替え伯爵は小間使いの仕事とも取れる様な内容の依頼をしてきた。


 呼び出された当初はエリーナ様絡みの話ではないかとうんざりしていたのだが、予想が外れ安堵したと同時に肩透かしを食らった気分でもある。


 昨日の様に彼女は事あるごとに俺にちょっかいを掛けてくるのだ。


 だから、今回の呼び出しも伯爵を介してエリーナ様が何か俺にさせようとしているのではないかと勘ぐっていた。



「娘のエリーナが魔狗毒に侵されてしまったのだが、どうやら森の魔女がその解毒薬を所持しているらしいのだ」

「魔狗毒に!?」



 魔狗……つまり、ヴェロムから傷を負わされたということだ。


 昨日の魔獣討伐に随伴してきたあの時であろう。


 騎士団が撃ち漏らしたヴェロムは撃退したにもかかわらずエリーナ様の一団が慌てて去ったのは、彼女が魔獣に襲われ恐くなって逃げだしたのだろうと軽く考えていたのだが――



「ああ、昨日の魔獣討伐の際に騎士団が討ち漏らしたヴェロムにエリーナが襲われ手傷を負ってしまってな」



 ――どうやらあの時にヴェロムから傷を負わされたらしい。


 しかし、伯爵の言い方に棘を感じる。



「エリーナ様が不幸にも魔獣に襲われた事には遺憾に思いますが、団長から再三の退避勧告を受けていながら無視されたのはそちら側の落ち度――」



 我々は国家騎士であり、国の直轄である。

 けっして目の前の一領主の部下ではない。



「――こちらの善意の魔獣討伐に口を挟むのは如何なものか?」



 着任して日が浅いとは言え、俺もこの地の騎士団の副団長であるから、明らかな越権行為に対しては毅然な態度を示さなければ今後の職務に支障が出ないとも限らない。


 だいたい魔獣対策もおざなりにしている領主なのだ。

 ここは少し強気で釘を刺しておいた方が良いだろう。


 団長とも話し合い、昨日の事での苦情があればそう対応するよう指示も受けている。



「あ、いや、別に貴殿達を責めているわけではないのだ」



 果たして状況が自分に悪いと感じたのか、伯爵は慌てて自分の言を訂正した。



「ただ、魔女への使いなら貴殿が適任かと思ってな」

「……」



 何がどう適任なのかさっぱり分からなかったが、魔獣に襲われ心も体も傷ついた者の為と思えば騎士としての矜持が疼く。



「どうだろうか?」



 昨日の出来事を思い出し、どうしたものかと沈思していると伯爵が少し不安げに返答を促してきた。



「この依頼を受けてもらえると助かるのだが」



 国家騎士の俺に、地方領主の依頼を受ける義務も謂れもない。

 エリーナ様の負傷も我々に責任はない。



 そう、ないのだ……



 だが、目前で魔獣に襲われたか弱い令嬢を守れなかった事実には、騎士として負い目を感じたし、任地の領主の懇請(こんせい)を無下にもできないだろう。




 自分に白羽の矢が立った理由には何か不自然なものを感じたが、俺はこの依頼を引き受ける事にしたのだった……


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