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43. 常闇の魔女は恋をする~急変~

 

 ドンドン、ドンドン!



 ――激しく扉を叩く音。


 夢と(うつつ)境界(さかい)で聞いたその音は、果たして夢からのものか現実からのものなのか……


 その音に無理矢理に起こされた頭はまだ覚醒しきっておらず、未だに私は夢と現の狭間の住人だったのです。



「う……ん?」



 それでも、上手く開かずしょぼしょぼの目を(こす)りながら、なんとか寝台から上半身を起こしました。



「大変です!」



 まだ軽い倦怠感と眠気にまだ悩まされている最中でしたが、入室の許可もなく扉を破る勢いでソアラさんが部屋へと乱入してきました。


 乱暴に扉を叩いていたのは彼女なのでしょう。


 こんなに酷く取り乱して……まさか、メリルさんの容態が急変したのでしょうか?



「落ち着いてください。メリルさんの病状が悪化したのですか?」

「い、いえ、メリルは順調に回復してきております」



 良かった。

 私はほっと胸を撫で下ろしました。



「それではいったい何事なのですか?」

「エリーナ様のご容態が悪化したそうなのです!」

「エリーナ様が?」



 メリルさんとほぼ同時に魔狗(まく)毒に侵されたようですが、彼女の病状を教えてもらっていません。


 ただ、メリルさんが身を呈して守ろうとしたそうですから、彼女よりは軽症で済んだかもしれないと思っておりました。


 もしそうなら、ガラックさん達の胆薬でも大事はないかもしれないと、淡い期待をしていましたが……やはりそんなに甘くはなかったようです。



「かなり危険な状態らしく、伯爵はガラックさんとオーロソ司祭を呼びつけたみたいです」

「そうですか……」



 呼びつけた……その言葉に私は事情を全て飲み込みました。


 つまり、ガラックさん達は誰もエリーナ様の側で看病はされていなかったのですね。



「エリーナ様が危篤だというのに随分と冷静でいらっしゃるのですね?」



 私がエリーナ様の状況を思案していると、突然ソアラさんの形相が険しいものに変化しました。



「そう……ですか?」



 私が素っ気なく返事をしたのが気に入らなかったのか、ソアラさんはむっとされました。



「エリーナ様は下々の者にもお声を掛けてくださるとても慈悲深く素晴らしい方ですのに……薄情な方ですね」



 ソアラさんの物言いに、私の方も腹に据えかねて少し表情に出たかもしれません。


 エリーナ様は、まだ十六歳だと聞き及んでおります。

 うら若い少女が危篤とはなんとも痛ましい限りです。


 ですが、私は街から締め出されて森で一人ひっそり暮らしているので、エリーナ様とは面識がないばかりか、彼女の事について何も知らないのです。


 言わば全くの赤の他人なのですが、私は全ての人の不幸に対して胸を痛めなければいけないのでしょうか?


 だいたい、私が街から締め出されている原因を作っているのは、そのエリーナ様の父親であるバロッソ伯爵ではないですか。


 私は自分を虐げている相手でさえ慮らねば薄情と詰られるのですか?

 そんな現状を傍観するのがエリーナ様の私への慈悲なのでしょうか?


 まあ、単にエリーナ様は私の事など知りもしないだけなのかもしれませんが。


 ……その可能性の方が高そうですね。


 とは言え、エリーナ様に直接的にも間接的にも何かをされたわけではありませんし、彼女に非があるわけでもありません。


 だから、殊更にエリーナ様が悪いとは思いませんが、逆に言えば今まで何の関わりも持っていない彼女に対して私が感慨を抱ける筈もないではないですか。


 もし、私がエリーナ様と同じ状況に陥ったとして誰が私を心配してくれるのでしょう?


 一方的に迫害をしておいて、自分達には同情を要求するのは横暴ではありませんか?


 私は感情まで搾取されねばならないのですか?




 この時、こんな仄暗(ほのぐら)い感情を抱き始めた私は本物の魔女になり始めていたのかもしれません……


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