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36. 薬師の本分~その想いは~

 

 それからのソアラさんは私がメリルさんに施す手技や薬剤に不満の色を見せる事なく、寧ろ積極的に協力してくれるようになりました。


 きちんと説明し、同意を得たのが良かったのか、信念を曲げてでも希望を持たせたのが良かったのか……



「な、何をしておいでなのです!?」



 右手に針を持ち、私がそれを自分の左の掌に向けて構えると、ソアラさんが慌てて止めに入ってきました。


 その針の鋭い先からぽたりと薬液が雫となって私の手に落ちました。


 メリルさんが筋痙攣を起こしたのですが、私は循環量と体温の低下による不随意の小刻みな痙攣(シバリング)だと診断しました。


 人間は体温が低下すると自衛として筋肉を痙攣させて体温を上げようとするのです。


 しかし、メリルさんの様に弱った状態では体力の消耗が著しく、このまま痙攣が持続すると命にも関わります。


 そこで、痙攣を抑制する為にヤドクガエルの毒を主成分とする筋弛緩薬をメリルさんに投薬するのに針を使用しないといけません。



「……ですので、その前にソアラさんに説明をと思ったのですが」

「分かりました、分かりました、分かりましたから、もうご自分に使って見せるのは止めてください!!」



 この様に治療について私が実演を混ぜて解説しようとすると、ソアラさんは顔を青くして止めてきたので、彼女が苦情を述べないのは、ただ私の行動に怯えてしまっただけだったのかもしれません。



 一方、ハル様は初めから協力的で、嫌な顔一つせずに私の指示に従ってくれました。


 しかも、泊まり込みでメリルさんを看護すると告げ、手伝いに感謝してお帰りいただいたのに、ハル様は翌日またひょっこりやって来られたのです。



「騎士団のお仕事は宜しいのですか?」



 てっきり騎士団へ戻られると思ったのですが。



「伯爵の依頼はまだ完了していませんから……」



 にやっ、と不敵に笑ったハル様は仕事を全て団長に押し付けてきたと事も無げに仰いました。


 それで良いのでしょうかと呆れましたが、一方でハル様がお側にいてくれると思っただけで嬉しくて、そしてとても心強くて……


 ああ、私はこんなにもハル様を頼りにしてしまっていたのですね。


 実際に治療を始める前からハル様には助けられてばかりで、感謝の言葉しかありません。


 ですが、どうしましょう……


 いつだって私は一人で大丈夫だと強がっていたのに……

 このままだと私……ハル様に依存してしまいそうです。



 そんな想いが胸中に生じた時――


「これからも俺を頼ってください」

「――っ!?」


 ――まるで私の心を見透かしたんじゃないかというハル様の発言にびっくりして、私の心臓がドキリと飛び出すのではないかと思いました。



「どうかされましたか?」

「ぁ…ぁぅ……」



 接触するのではないかと思うほど迫ってきたハル様に、なんだかとても緊張してしまい言葉を詰まらせてしまいました。


 ハル様はいつも距離が近くないでしょうか?



「ご迷惑でしたか?」

「はいっ、い、い、いえ、いえ、いえ……あ、あの……ハル様のお傍にいられて……その……とても…嬉しいです……よ、よろしく……お願い……しま…す」



 ああ、もう!……私はなんて事を口走っているのですか!

 これではまるで告白に答えているみたいじゃないですか!



「ち、ちがっ……私…そんなつもりじゃ……」



 私のあたふたする姿を見て、くすっと笑うハル様はやっぱり意地悪です……でも、とても素敵なんです……悔しいくらいに。



「ふっ、お任せください」

「は、はぅ!」



 ハル様が器用に右目を瞑ってのウィンクに、私の心臓は射抜かれてしまいました。


 うっ、本当に胸が痛いです。

 だって仕方がないじゃないですか。

 ハル様は女性と見紛うほどの美貌なんですよ。

 そんなハル様のウィンクは色香がとても凄まじいのです。


 私はハル様の色気に完全に当てられてしまったようです。



 きっとそうなんです。


 ハル様を見てこんなにドキドキするのは……

 これは、ハル様がとっても素敵だからで……



 ハル様の姿をついつい目で追ってしまうのも、ハル様に笑顔を向けられ顔が熱くなるのも、いつもハル様の顔を思い浮かべてしまうのも……



 みんな、みんな、ハル様がとても優しく格好良いからいけないんです。




 だから違うんです……

 私はハル様に懸想なんて……

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― 新着の感想 ―
[良い点] トーナ……それは、懸想です!!!!(断言)
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