表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/71

16. 白銀騎士と黒い薬師~白銀の後悔~

 

「ハル様、もうよいのです」



 それは彼女の優しさや慈愛の精神(こころ)から出た言葉ではなかった。



 それはただの諦め。



 トーナ殿は芯の強い女性である。


 それでもなお彼女は打ちのめされてしまったのだ。


 今まで彼女が受けてきた仕打ちを思うと、何にも希望と期待を持てない彼女の姿にやるせなくなった。



「よくはありません」



 だから、俺は……俺だけでも彼女の隣に立ちたい。

 傍に寄り添い、彼女を支えてあげたいと思うのだ。



「領主は税を徴収する権利を持ちます。ですがそれは同時に民を庇護する義務を負うのです。その任を放棄するなど……あまつさえ入市税まで払えとは、どこまでも道義に反する蛮行です」

「カルマン様、相手は魔女ですぞ!」

「そうです。それを他の領民と同じに扱うなど……」



 まだこの門衛達は(ふざ)けたことを抜かすのか!

 この領はこんなにも異常だったのか!



 トーナ殿に冷水を浴びせられた俺の怒りが再び燃焼した。



「そ、それに税に関しては領主の裁量権が……」

「馬鹿者!」



 尚も言い訳を口にしようとした門衛を叱り飛ばした。



「確かに各地の税には領主に裁量権がある。しかしそれにも限度がある。税を徴収しながらも領民を庇護する義務を放棄し入市税まで搾取するのは、外国人に納税を強要しているのと同じだ。明らかに国法を犯しているぞ」



 バロッソ伯爵は苛政もなく手堅く領地を治め、お膝元のファマスは良い街だとの評判に派遣されたのを幸運と思っていたのだが、とんだ名君がいたものだ。


 しかも、道々トーナ殿から聞いた話で、どうしてバロッソ伯爵が自分の配下を使わず、なんで国家騎士である俺にわざわざ頼んでまで使者としたのか、不思議に思っていたその謎が解けた。


 その理由(わけ)と言うのが、この国に伝わる昔話の魔女を討伐した白銀(しろ)騎士に(あやか)ったものとは……どこまでトーナ殿を愚弄しているのか。



 彼女がエリーナ様の治療を渋った理由も頷ける。



 エリーナ様の治療の正否を問わず、トーナ殿には厄介な目に遭う未来しか想像できない。

 彼女としては、できれば関わりたくなかっただろう。


 これでは領主ぐるみで迫害を受けているようなものではないか。


 心配になってきた。


 この街にトーナ殿をお連れするべきではなかったかもしれない。



「そ、それでは今回はもういいです」



 こいつらは!!



「今回は、だと!!」

「「ひぃぃぃい!」」



 顔面蒼白の門衛達。

 こいつらだけが悪いのではないとは分かっている。


 だが、もう許せん。



「もし他国から黒髪、赤目の要人が来訪したらどうするつもりなのだ。髪と瞳の色だけで差別する我が国の心象は最悪だぞ!」

「え?」



 目を点にする門衛達に俺は頭を抱えたくなった。



 こんな簡単な事も分からないとは……



 他国には黒い髪も赤い瞳も珍しくはない。

 そんな特徴の要人が訪れる可能性は決して皆無ではないのだ。


 こんな理不尽を許していたら、いつか取り返しのつかない事態を招くとも限らない。



「そ、それは……」

「わ、我らはただ言われた通りに……」

「成る程、言われた通りなのか……つまり、領主が主導になって行なっているのだな?」



 圧を掛けた脅迫まがいの台詞(セリフ)に門衛達はタジタジだ。


 その状況にトーナ殿も困惑を隠せないでいる。


 本当なら彼女に嫌な思いはさせたくないが、ここはしっかり釘を刺さなければならない。



「この件は国に報告させてもらうが、いいか?」



 二人の門衛は震え上がって抱き合っているが……まさかそこまで大事になるとは思っていなかったのだろう。



「それが嫌なら今まで搾取した市民税か入市税どちらかを返還せよ。上にはそのように通達しておけ」

「「は、はい!」」



 本当にこの領地は大丈夫なのか?

 それとも、この国の魔女に対する忌避感ではこれが普通なのか?



 心配になってきた。



 このまま彼女を連れていって大丈夫だろうか?

 今からでも彼女を帰すべきではないだろうか?



 しかし、門衛達に彼女が街へ来たのは見られており、ここで帰しても後々難癖をつけられるのではないかと思うと引き返すのも(はばか)れる。



「後で必ず確認させてもらうからな!」



 どうするか迷ったが、けっきょく俺はそう捨て台詞を残してトーナ殿を守るように彼女の肩を抱き寄せ門を抜けた。



 せめて俺だけは彼女を全力で守ろう、そんな決意を抱いて……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ