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第12話:烏丸茶人のブラコン02


 教室そのものには早めに着いた。とはいえ他人に畏怖する紅蓮はATフィールド全開でもある。素早く小説を取り出して読書に励む。視線は感じるが、少なくとも話しかけてくる人間は……居た。


「おはよ。紅蓮さん」


 是空無明。茶髪にパーマをかけている今風の女子高生。声は溌剌としており、社交性もある。概ねに於いて人間力の高い人物だが、少し感情にズレを覚える。少なくとも紅蓮の妙見を以てすれば……という前提で。


「おはようございます是空さん」


 本から目を離さず挨拶を返した。他者に対しては未だに冬模様の紅蓮である。


「何読んでるの?」


 覗き込まれる。


「あ、ブラコン……」


 サクッと把握された。ブラコン。文字通り兄妹愛を描いたライトノベルである。


「何巻?」


 自覚的なのか非自覚的なのか。わざとなのか無頓着なのか。紅蓮は把握できなかったが、心理的に無視も怖いので会話に乗る。


「九巻です」


 栞を挟んで表紙を見せる。


『無頼の根源は妹に在り』


 略してブラコン。そのヒロインである主人公の妹……理論がカラーイラストでウィンクしていた。巻数が題名の終わりに『9』と書かれている。


「あれ? もう売られてるっけ?」


 是空は疑念に首を傾ける。


「摩訶不思議」


 評するならばそんな表情。それから表紙を見て、


「サイン本?」


 首をさらに捻る。他意のない茶の瞳がことさら疑問に光を宿す。


 表紙に、


「烏丸茶人より愛すべき神通紅蓮様へ」


 と書いてある。


「どこで買ったの?」


 当然の質問だろう。


「いえ、まぁ」


 紅蓮は言葉を探す。


「縁がありまして」


 苦笑した。あるいは苦笑いの領域だ。社交辞令の究極である。


 そもそもにして、


「烏丸茶人より愛すべき神通紅蓮様へ」


 とサインされてる時点で大凡の把握は可能だろう。


「見本本なんですよ」


 見本本。要するに発売される完成された本の見本だ。紅蓮は烏丸茶人からソレを一冊受け取っている。


 是空には驚愕の事実。


「烏丸先生と知己なの?」


 笑って誤魔化すつもりだった紅蓮に、むしろ是空は食いついた。


「ええと……」


 再度言葉を探すが適切な文句は出てこない。


「見本本を渡されて直筆サインって……」


「仲良くさせて貰っています」


 しょうがないのでぶっちゃけた。


「紅蓮さん」


 ヒシッと紅蓮の片手を是空の両手が包む。


「な、何でしょう?」


 自身のパーソナルラインを踏み破ってくる是空に紅蓮は動揺を隠せない。声から悪意は読み取れないが、それでも尚である。一朝一夕で解決できるなら紅蓮とてもう少し要領よく浮世を渡れるだろう。ともあれ是空が距離を詰める。


「私を烏丸先生に会わせてください!」


「えーと……」


 困惑。焦燥。だいたいそんな思い。


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