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第十六話 片腕の彼女

マリアナ視点

しばらく続きます。

第五話の話と繋がっています。








その日の朝も日課のように森の中に散歩に行きました。散歩中の気分は爽快感と憂鬱感が入れ混ざっています。


道端に少女が倒れているのを遠くに見つけました。決して駆け寄ることはしません。ここで急いでも無駄だからです。


近づいてから声をかけます。

応答はありません。

よく観察します

この少女は片腕しかありませんでした。他の手足は獣に食べられてしまったのか、と思いましたが傷は完全に塞がっていました。

「スー、スー」

よく聞けば寝息が聞こえました。このケースは今までにありません。大抵息をしておらず、していても虫の息か息苦しそうにしています。この状態を見るに命に別状はなさそうですね。


もっとよく観察すると服は獣に噛まれた跡が残っていますが、体には傷が一切ありませんでした。通りすがりに誰かが治癒したのかもしれませんね。この状態で治して放っておくとは優しいようで無責任な方です。


状態を確認できたので家に連れて行きます。


家に着いたら一度ベットに寝かせます。先ほども確認しましたが土の汚れはあっても傷は一切ありませんでした。

しっかりと少女の体を拭いてる時に気づいたことがあります。彼女には目玉がありませんでした。これまでひどい状態の方々を見てきましたが瞼を開けた時に空洞というのは驚いてしまうものですね。

体も拭き終わり服を着替えさせます。彼女はすやすや穏やかに寝ていました。しばらくは起きないでしょう。一度仕事場に向かうことにします。

命に別状は無さそうなので、仕事をするかどうかはテリーさんに尋ねてみましょう。



テリーさんにお話したところ起きるまでそばにいるように言われました。それまではお休みだそうです。これまでは看病が必要な方ばかりでしたのでただ寝ている方が起きるのを待つのは初めてです。……彼女は朝と同じようすやすやと穏やかに寝ています。四肢欠損に盲目、彼女はこれから先どれだけ辛いでしょうか。起きた時に絶望してしまうかもしれません。どうか彼女が幸せだと思えるようにと願いながら彼女の左手を握ります。ギュッ…握り返されました。

「ふふっ、まるで赤子のようですね。」


「んーん、むにゃぁ」


思わず声に出して言えば、それを彼女は寝言で返事をしてくれました。

こんなに愛らしい彼女を酷い目に合わせたアスパリの人間への憎悪が膨らんできます…しかしそれも一瞬のこと、私に出来ることなど森の中を散歩するぐらいです。どれだけ憎んでも嫌っても直接害する勇気などありません。





お昼頃、未だ彼女は目覚めず、私はそばで編み物をして暇を潰していました。


ボフッ

彼女の腕が布団を叩きます。寝相かと思いましたが、彼女の腕は何度も確認するかのように布団を叩きます。


「起きましたか?おはようございます。」


返答がありません。寝言での返答もありません。死んでるんじゃ無いかと少々心配になります。気づいた頃には数刻まで温かった人間が冷たくなっているということもこれまでにあったので。

再度声をかけると返答があり森で倒れていたところまでしっかりと記憶があるようです。そして自身の身体の状態について何か驚いたり戸惑ったりしている様子はなく、全てをわかっているということでいいのでしょうか。

彼女の精神状態がわからないので、状況を把握する時間をとってもらえるよう昼食の準備をすることを伝えてその場を離れました。

しかし彼女の態度には驚きます。これまでも彼女には色々と驚かされていますが…。

これまでの方々は峠を越え体は良くなっても精神状態は全く良くなりませんでした。自分の殻に閉じこもって、食事も取らず、仕舞いには自害までしてしまう……仕方がありませんが虚しい、と感じてしまいます。

彼女は起きたばかりですが、比較的落ち着いていて、感謝の言葉も言っていただきました。それも初めてです。彼女と他の方々を比べるべきでは無いのでしょうか。過去は詮索するという事を普段ならしないのですが彼女のことは気になってしまいますね。



お昼を準備し彼女に食べさせようとしたら自分で食べれると言われました。唯一のベッドを汚されるわけにはいけません。少し酷い言い方かもしれませんが、はっきり言わせてもらいます。


なんと目がないのに物体の位置を把握出来るとのこと、実際にこぼす事なく食べれていたので本当のことなんでしょう。

彼女には何度驚かされるのでしょうか。



全てが異例な彼女についこれまでの事を聞いてしまいました。

自身が聞かれれば嫌だとわかっているのに、後悔先に立たず。言葉にしてからなんで聞いてしまったのか、ここからどうやって話を変えるか頭をフル回転させました。


そんな私を放って、彼女は嫌な顔もせずこれまでの事を淡々と語るのでした。









【小話】

・移動の仕方

マリアナさんはリサーナをお姫様抱っこして家に連れて帰りました。

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