肝が据わった俺は、不良の集まった学校でヤンキー女子を惚れさせたかもしれない
短編書いてみました。好評なら連載版書くかもです。
俺の名前は安藤剛。それなりに頭の良かった俺は高校受験も上手くいくと思っていた。
だが後々になって自分で勉強している方が有意義だと感じた俺は、真面目に行かなくてもいいだろうと勝手に思い、偏差値の滅茶苦茶低いと噂の高校を受験した。名前を書けば受かるようなその高校ではあっさりと合格して、入学式までの日は適当に生活していた。
そして入学式の日になって登校していると、学校の近くでは髪を金髪に染めていたりピアスをしていたりする学生だらけだった。制服も俺が来ている服と同じなので、この不良に見える奴等がみんな同じ高校だと理解した。
「うーん……受験する高校やっぱ間違えたかな……」
よくよく考えたら、偏差値が低い高校に行けば、不良が集まって来るのは周知の事実だ。それを適当に考えて受験した俺は人生転落コースを歩んでるかもしれない。
「でもまあ、俺みたいな陰キャの見た目した奴に構う奴はいないだろ」
男子や女子の殆どが髪を染めている中、俺は何もいじっていないただのボサボサ黒髪の男。俺に構う奴は時間の無駄である。
「体育館に行って……その後は教室でHRか」
予定表の紙を見ても、不良ばかり来ることが分かっているからか、入学式の時間がやたら短い。中学の時から入学式や始業式の時の校長先生の話が長くてウザいと思っていたので、こちらとしては好都合だ。
「早く行こ」
早めに行って休憩したかった俺は急ぎ足で体育館に向かった。
◆
入学式が終わり、教室に向かう。俺のクラスである一年二組の教室に入ると、俺は遅めに体育館から出たのにも関わらず一人も教室にいなかった。
「えぇ……まさかもう帰ったとか?」
確かに廊下を歩いている時に、教室に向かわずに下駄箱の方に向かっていた奴が結構いた。まさかここまで自由な奴等がいるとは思っていなかった。
そんな事を考えながら席についてしばらく待っていると、HRの時間ギリギリになってようやく教室の扉が開いた。俺と友だちになってくれる奴はいないかなとか思っていた俺の幻想は、ぞろぞろと入ってくるヤンキーっぽい雰囲気の男女によって打ち砕かれた。
結局HRの時間になって集まった生徒は、ギャルやヤンキーの見た目の奴だけで、一人も俺みたな真面目そうな格好の人はいなかった。
「……あは」
何か面白くなって笑っちゃったよ。ここじゃあちょっと憧れてた青春ってやつが出来なくなるじゃないか!
「よっし、席につけー」
ガラガラと扉が開いて入ってきたのは、これまた金髪に髪を染めた小綺麗な顔をした鋭い目つきの女教師だった。あんな見た目で何故教師になれたのかが分からない。
「そんじゃ、私が担任の中川梓だ、よろしくな。それで、今日は五時間目までテストだから、まあ適当に解いてくれ」
なる程……こんな学校でも一応学力テストみたいなのあるのな。周りは、「はあ? 怠すぎだろ」「まじテストとか怠すぎなんですけど」「んなもんやってられっかよ」とか聞こえてくる。
だが、どうせテストなんぞ入学試験の時みたいに、自分の名前をローマ字で書けとか、256×321=□とかの簡単なテストだろ。
「十分後にテストだから、各自なんかしておいてくれ」
適当に言い放った中川先生は教室を出て行った。すると、途端に生徒達は席を立って友達らしき奴とぺちゃくちゃ喋り始めた。
「……話すやつ一人もいないんだけど」
中学で一番馬鹿だった奴でも、こんな高校よりは偏差値の高い高校に行っているので、ここでは俺は完全に友達のいないぼっちになってしまった。
「……ここは人間観察でもしとくか」
出来るだけ面倒事を避けたい俺は、生徒を観察してどんな性格なのかを予想する。あれ、ギャルやヤンキーなのはそうだけど、割と顔面偏差値高くね?
「……あいつも……あいつも……みんな顔は可愛いぞ。……そう言えば男も何かイケメン多い……」
何故こいつ等はこの顔があってモデルやらにならずに道を踏み外してしまったのだろうか。せっかく可愛いのにヤンキーぽく振る舞ってる為、見た目が怖く見えてしまう。
「どっかに真面目そうな人は……いた」
俺の窓際の一番前の席から見て、同じ列の一番後ろ。金髪に染めていながら誰とも話さずにぼーっと窓の外を見ている美少女がいた。ここから見ていてもスタイルが良さそうで、机に乗っている大きな胸には視線が吸い寄せられる。
だが、そんな視線に気が付いたのか、その女子は俺を鋭い眼光で睨みつけてきた。
「あ、どうも、すんません」
ここは素直に謝っておいた方がいいだろう。何がともあれ、俺はあの美少女をいやらしい目で見てしまったのは確かなんだから。しばらくは目を向けない方がいいだろう。
「ほら、席につけよ。テスト始めんぞー」
人間観察をしているといつの間にか十分が過ぎていて、中川先生がテストの問題と解答用紙が入った封筒を持って中に入ってきた。
「テストは四十分だ。カンニングはすんなよ」
問題と解答用紙が配られ、チャイムの音と共にテストが始まった。
一つ一つ問題を確認していくが、やっぱりレベルが低過ぎて、解くのには十分もかからなかった。
「……暇だな〜」
簡単すぎたのと時間が余りすぎたのが相まって、思わず声が出てしまった。
それに中川先生は反応して、
「おいお前、何喋ってんだ」
意外とこういうの見逃さないのな。見た目に反して真面目な人だな。
「あ、すみません」
「テストは喋らねえのが常識だろ!」
「いや、あまりにも簡単だったので思わず……」
そう言うと中川先生は俺に近づいてきて、俺の解答用紙をぶん取った。
「……なんだ、全部できてんじゃねえか。そういやお前、安藤剛だな」
「そうですけど……」
何か俺悪い事でもしたのか? この学校ではヤンキーの格好をしなければいけないとか?
「入試全部満点だったんだろ? なんでお前みたいな奴がこんなとこにいるんだよ」
中川先生がそう言うと、周りは、「満点だと……化け物だ……」「なんて奴だ……おい、お前入試のテストどうだった?」「いやあんなん無理だろ。難しすぎだべ」とかテスト中にも関わらず喋り始めた。
「おいうっせえぞ! 静かにしろ! ……安藤、どうせ満点だからこれもう持っていくぞ」
「あ、了解です」
この後の昼休みまでのテストも、中川先生が言ったのかは分からないが、全て十分ぐらいして解答用紙を回収された。
昼休みになると、俺は弁当を持ってきていないので学食に向かう。ネットでこの高校を調べた時に見たのだが、この高校は意外と学食の設備が立派なのだ。メニュー表もあったので確認したが、豊富な品数で、写真を見ても美味しそうなものばかりなので、学食には期待している。
俺は千五百円を握り締めて廊下を歩いていると、
「おい! そこのお前!」
誰なのか分からないが、後ろから声が聞こえた。俺は腹が減っているのでスルーして行くのだが、
「お前だっつってんだろ! そこの黒髪!」
……どうやら呼ばれているのは俺っぽい。こんな陰キャになんの用だよ。
「……何?」
後ろを向くと、金髪の男と赤髪の男がオラついた感じで俺に近付いてくる。
「お前みたいな奴が何でこんなとこにいるんだよ!」
「ヒョロヒョロした体のやつがくる場所じゃねえだろ! ぶっ飛ばされてえのか?」
何もしていないのに何故かキレられている。もしかするとお腹でも減っているのか?
「もう…、なんだよ。俺腹減ってんだよ。これやるから放っといてくれ」
俺は持っていた五百円玉を金髪の男に投げ渡した。
「じゃ」
「おい待て!」
待たねえよ。俺は腹が減るとすぐ苛つくタイプだから、早く飯食いたいんだよ。
「……なんかあいつ凄えな」
「ああ、普通にビビるだろ。何とも思ってなさそうだったな」
「肝据わってんな……。なんか金くれたしよ」
「そうだな、これでなんかパン買おうぜ」
うんうん、どうやら見逃してくれるようだ。案外良い奴らじゃん。
しばらく廊下を歩いていると学食の場所に着いた。
ここの学食は予め作られている品を取って、その品を最後に精算してから席に持っていくスタイルだ。
俺は鯖の塩焼きと豚汁、ライスは大盛りにしてもらい、値段は四百円。豚汁に関しては一度金を払えばおかわりが自由なのでかなり良心的だ。
「……うまうま、これが五百円しないんだからめちゃ安い」
学食は当たりの高校を引いてしまったのかもしれない。これなら飽きずに毎日でも通えてしまう。
そんな事を思っていると、前の席に見た事のあるやつが座った。
「……あ」
こいつは、同じクラスにいた巨乳の姉ちゃんじゃねえか! ちなみにテストの時に、解答用紙を前に送っていくスタイルだったのでその時に名前は確認済みで、前島希というらしい。
なんでこいつも顔もスタイルも抜群に良いのにこの道に進んでしまったんだ?
「……勿体ないな」
「ああ? 何か言ったか?」
おっと、口に出てしまっていたようだ。
「てかお前、さっき私の事見てたやつじゃねえか」
「あ、そうだな」
怒らせちゃったかな……やっぱりいやらしい目をしていたのがいけなかったのか……。
「何だよさっきからジロジロ見やがって。ぶっ飛ばされてえのか!」
飯食ってるときにそんな物騒な事言わないでほしいな。と言うかぶっ飛ばされてえのかってさっきも聞いたな。何、この高校それ流行ってんの?
「いや、顔もスタイルも良いのにヤンキーなの勿体ないと思ってさ」
「なっ!? いきなり何言い出すんだ……」
予想していた反応とは違い、前島は恥ずかしそうに顔を赤らめる。
何だよ、ヤンキーの割に心は純情乙女かよ。
「だから、可愛いのになんでヤンキーになったのかなって」
「お、お前に関係ないだろ! ……ンな事言われたの初めてだ……」
前島の周りには目の悪い奴が多いらしい。こいつが可愛くなかったら、世界の可愛いの基準が高すぎだ。
「てか、何でお前がこんなとこにいるんだよ」
それもう今日で三回も聞かれたんだけど……。
「何でって飯食うからに決まってるだろ」
「ここはいつも私が一人で座ってたんだよ」
「そうか、この席は端っこの方で割と好きだからこれから二人だな」
普段ここに座っているのなら、前島も飯を食うときは静かに食べたいタイプだと予想した。俺もどちらかと言えばそうなので、同じ考えな筈だから別にいいだろ。
「何だよ! どっか行けよ!」
「え〜……俺が先に座ってただろ……」
「いつもはみんなここに座らねえの! 分かれよ!」
「……ん? そう言えば、ここに来たの初めてな筈なのにおかしくね?」
「うっ……し、仕方ねえだろ。……留年したんだから……」
おいおい、マジかよ。ここの学力レベルで留年してたらお先真っ暗じゃねえか。しかも留年してるって事は年上じゃん。
「そうですか、それは悪い事を聞きました」
「何で敬語で喋ってんだよ! 舐めてんのか?」
「だって留年してるんですから年上なんでしょう?」
「敬語で話されるのは気持ち悪いんだよ。普通でいい」
「そうか、ならそうさせてもらう」
俺も堅苦しいのはあんまり好きじゃないからな。前島が敬語じゃなくていいって言うんだから、これには素直に従わせてもらおう。
「切り替え早いなお前……」
「さっきからお前って言うなよ。俺には安藤剛って名前があるんだから」
「何でもいいだろ!」
「お前って呼ばれると俺なのか分かんねえだろ。それに、前島だってお前って言われたら嫌だろ。そんな感じするし」
あくまでイメージだけで言ってるから本当にそうかは分からないが、
「……まあ、そうだけど」
「だろ? だから前島も俺の事は安藤か剛かのどちらかで呼べ」
「……ったく、じゃあ安藤でいいだろ」
「ああ、それでいい」
「くそ、調子狂うな……」
前島は席を立ち上がり、まだ料理を食べ終わっていないのにトレイを持って返却口に向かう。
「おい、まだ食べ終わってないぞ」
「うっせ! 安藤といると調子狂うんだよ!」
前島はムスッとした顔のまま、食器を返却して食堂から出て行った。
「勿体ないな、ちゃんと食べろよ……」
しかし、前島も案外素直なやつだな。てっきり殴りかかってくると思ってたけど、そんな素振りもなかったしな。やっぱり本当は良い奴なのかもしれない。
◆
入学式から二週間が経ち、俺は一応平穏な日々を送ることが出来ている。
入試と学力テストの点数がどちらも満点だということで、何故か俺はこの学校で地味に凄いやつ認定されている。
偶に俺が気に食わないのか喧嘩を売ろうとしてくる奴もいるが、俺は喧嘩なんぞ面倒くさいので、ジュース代や昼のパンを買えるぐらいの金を渡してさっさと退散する。
ヤンキーばかりの学校で見た目が完全に陰キャの俺が、絡まれても平然と対応するその姿に、何故か「肝据わ」の二つ名がつけられていて本当に訳が分からない。
そして、あれからも食堂では向かいの席に座って食べる事は許してくれた前島だったが、朝に挨拶をしても全然返してくれない。この高校に来てからまともに話したのが前島だけなのに、挨拶を返してくれないのはちょっと悲しい。
「前島、おはよう」
「……」
ほら、今日だって挨拶してくれない。俺何か悪い事でもしたかな?
「……ん?」
自分の席に座って机の中に入れてあるラノベを読もうとしたら、謎の紙が入っていた。
何やら文字が書かれているので読んで見ると、『放課後屋上に来い。来なければ殺す』とある。いわゆる果たし状ってやつか?
「てか思ったより字が綺麗だし……」
ここで何故か俺の勘が何かを掴んだのか、俺は前島の方を向いた。すると、俺の方に顔が向いていた前島は、すぐに窓の外の方に顔を背けた。
「……前島だな」
この後、何故前島に殺されなければならないのだろうと授業中も考えていると、あっという間に放課後になってしまった。
俺は仕方なく屋上の扉がある方に向かい、扉を開ける。
「来たな」
「ああ……それで、なんの用だ?」
「こんな用だよっ!」
前島はいきなり俺に殴りかかってきた。それを俺は飛び退いてあっさりと避ける。
「お前はっ! いつもうざいんだよ!」
顔面に蹴り、鳩尾に突き、転ばせようと足を払う、そんな前島の攻撃をことごとく受け止めて避け続ける。
「何で当たんないんだよ!」
「いやまあ……勘」
「勘で私の蹴りが受けれる訳がない!」
「だって遅いんだもん」
ラノベ大好きで妄想に浸り続けた俺からすれば、前島の攻撃など遅すぎた。どうやら俺は現役ヤンキーよりも強くなってしまったようだ。
「……何でだよ」
前島が殴るのをやめて、膝から崩れ落ちた。
「何でお前はいつも話しかけてくるんだよ」
「はあ?」
「私なんて……こんな学校でも留年して……見た目だってこんなので……変わろうと思っても変われない……誰も話しかけようとしないのに……何でっ!」
……こいつは何を訳の分からない事で泣いているのだろうか。
「……変わろうとした?」
「え……?」
「笑わせんなよ。本気で変わろうとしたならとっくの昔に変わってんだよ。留年して? お前が努力してないからだろ」
「ふ、ふざけんな! 努力したに決まって」
「してないね。この程度の偏差値の高校で留年してて努力したとかほざくな。そんなもん甘えてるだけだ」
「───っ!?」
多分こいつは元から勉強が出来なかったのが理由で、挫折していったのだろう。それで自分を強く見せる為にヤンキーのように振る舞っている。
「本気で変わろうとしてみろよ」
「そんなもん……どうやって……」
「さあな、自分で考えろ」
俺は屋上から出る為に扉に手をかける。
だが、
「……ま、待てよ!」
「ん? 何だ?」
「……私に、勉強を教えてくれ!」
「えぇ……無理、怠いし」
「なっ!? お前が言い出したんだろ! 本気で変われって……助けてくれるんじゃないのかよ! 見た目だって変えてみせるから!」
確かに言ったけど俺が助けるって訳じゃないんだけど……。
それに、
「いや、まあ、見た目は別に変えなくても可愛いんだしそのままでもいいんじゃね?」
「な、なな、何言って……!?」
また顔赤くしてるし……可愛いかよ。
「てか、勉強教えるにしても俺にメリットが無いし」
「……分かった。言う事一つだけ何でも聞くから」
「ようし、言ったな。録音したぞ。絶対だからな」
ふっふっふ……これで前島の弱みを握る事が出来たぜ。
ちなみに屋上に入る前からポケットに入れていたスマホの録音機能は音にしているので、今までの会話は全て録音済みである。
「なっ!? 消せよ! 何でもは嘘だからな」
「無理無理。じゃあ俺の願い事は……」
「……っ!?」
「……毎日俺に弁当を作ってくれ」
「……はぁ?」
前島はエロい事を要求されると思っていたのか、俺が願い事を言うと、拍子抜けしたような顔をする。その後、自分が想像していたことがエロい事で恥ずかしいのか、顔を真っ赤にする。
「何だ、襲ってほしかったのか?」
「───っ!? うっせ! 黙れ!」
「まあまあ、いいじゃん。じゃ、頑張れ」
「ま、待てよ! 私弁当なんて作った事……」
「だから、自分を変えたいなら努力しろ。料理ぐらい出来るだろ?」
それに、女の子が作ってくれた弁当を食べるなんてシチュエーションは今しか味わえないかもしれないからな。
「あれ? それとも前島には無理か?」
「……分かったよ、やってやるよ!」
「じゃあ、契約成立だな。勉強教わりたかったらいつでも言ってくれ。じゃ、また明日」
俺は今度こそ屋上の扉に手をかけ、扉を開けて屋上から出ようとした時に、
「安藤」
前島から呼ばれ、俺は顔だけを後ろに向けた。
「何だ?」
「……ありがとう」
前島は今までで一番の笑顔を浮かべた。この笑顔はかなりレア物かもしれない。
「毎日その顔してろ」
「……うっせ……馬鹿」
あーやっぱ可愛いわこの子。
しかし、我ながら結構イキって説教みたいな事をしてしまったが、あいつが変われるのならそれでいい。
「帰ろ」
この後、一緒に勉強したりしているうちに前島が俺に惚れてしまう事を、今の俺はまだ知らない。
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