彼は絶句した
いま由太郎の目の前にいる女性・・・、確かに母である。
しかし、なんだか彼は、彼女の態度に対して違和感を感じた。
なにか、由太朗に隠しているものがあるのか・・・。
「留守にしてごめん。」
適切な言葉は、浮かんでこなかった。
とにかく母を置いて村を出た事を、彼は謝罪した。
「・・・。」
しかし少しの間を置いても、母親からの相槌はなかった。
しかも明らかに、彼女の由太郎に対する態度は、高圧的な雰囲気がある。
さらに彼にとって予想外の言葉が、母から発せられたのであった。
「なんで、ここに戻ってきたんだい?」
「え!?」
もちろんここは、由太郎の実家である。
それゆえに、彼は自身の耳を疑った。
それでも彼女の目は、本気であった。
そして、由太郎は分かっていた。
自分の母が、冗談を言うような人間ではない事を。
「誰かとは、会ったのかい?」
極めて厳しい口調で、母は由太郎を問いただした。
そこで由太郎は、近所の親父1人だけに会い、言葉を交わしたことを母に伝えた。
それを聞いた母は、少しの間だけ目を閉じた。
数秒の緊張が走る。
「おっかあ・・・。」
とても由太郎は、不安そうな様子である。
「由太郎・・・。」
相変わらず母の口調は強かった。
「この村を出ていくんだよ。日が暮れないうちにな。」
「おっかあ・・・。」
その母の言葉には、由太郎の身を案じての事である、と感じられるものがあった。
すぐさま彼は、母親に背中を向けた。
そして、これ以上何も言わずに、由太郎は実家を後にしたのである。
本能的直感である
先ほどの母の言葉の意味を、彼は自分なりの考えた。
由太郎はひと目に触れないように、遠回りに目的の家に向かった。
そして彼の目の前に、その屋敷はあった。
この村で、一番立派な造りの家である。
「菜々子・・・。」
この村の庄屋の一人娘、菜々子の家なのである。
無論、ここに来た理由は明白であった。
由太郎は、彼女に会うために、ここに立っている。
しかし・・・、気配がない・・・。
正確に言うと、菜々子の気配がないのだ。
と言うのは、彼女以外の家族がいるのはわかるのだ。
理屈抜きで、それは由太郎には把握できている。
しかし、彼女だけはいない。
由太郎には、菜々子がいるかいないかは、判別できる。
それだけ彼の、彼女に対する想いは強いのだ。
・・・・胸騒ぎがする。
「ん・・・。」
もう日が暮れたのに、微弱な明るさを自分の背中に感じた。
遠目に見える。
それは、火の明かりだ。
いくつもの松明が、ゆらゆらと歩いていくのが見えた。
それらは、由太郎の実家に向かっていた。
とにかく、異常な状態である事は、彼には理解ができた。
そしてもう、この村で許された活動時間は、極めて残り少ないことを。
「おっかあ・・・。」
由太郎は、母の身を案じた。
しかし母親の声が、彼の頭に響いてくる。
(戻ってくるな。)
考えている余裕などない。
とにかく由太朗は、行動を開始したのである。
彼は密かに菜々子の家を除く・・・。
「菜々子・・・。」
彼女はいない。
菜々子の母親がの姿があった。
この村の庄屋の家らしく、良い身なりである。
もう日が暮れているにもかかわらず、部屋の中をウロウロと歩き回っている。
そしてそれは、無意味な動作であることは確実である。
「・・・・。」
その奈々子の母親の様子から、由太郎は結論を導き出した。
===== 奈々子の身に 只ならぬことが起こっている =====
「・・・・!!」
とある変化に、彼は気が付いた。
いままでに、彼女の家の敷地に見られなかったのもの・・。
恐らく縦長の石でできている・・・。
由太郎は恐る恐る、それに近づいた。
「・・・・・!!!!!」
彼は絶句した。




