とにかく彼女は、強い女だった。
結局、由太郎は自分の家に帰ることにした。
自分が居なかった間に、母はどうしていたことだろうか。
そのような重いが、彼の脳裏を駆けめぐった。
そう考えると、自然と由太朗の脚を運ぶ速度は速くなった。
そして彼は、自分の家の前に立っていた。
・・・気配がない・・・。
そのまま由太朗は、家の中に入った。
やはり、予想通りであった。
そこに母は、いなかったのである。
まだ今の時刻は、昼間なのである。
おそらく母は、まだ農作業をしているのだろう。
このように考えると、親を残して村を出ていた自分自身に罪悪感を感じるのであった。
そして自分は余り村を、歩き回るらない方が良いと思った。
(うーん・・・・。)
なにげに由太朗は、ゴロンと寝っ転がった。
山中の生活で、彼は十分に休養と睡眠をとれていないのだ。
あんまり無理するのは、自分の身体にとって得策とは言えない。
だから母が戻るまで、しばらく家で待つことにした。
疲労が蓄積していた彼は、間もなく意識が薄れていったのであった。
======== 彼の意識は過去に遡っていた ========
どうも由太郎は、この村の生まれではないらしい。
しかし出生地は、知らなかった。
そして母からも、そのことについては聞いていない。
そして由太郎からも、積極的に知ろうとはしなかった。
実は母がただならぬ理由があり、この村に流れ着いた事は、彼はヒシヒシと感じていたのだった。
由太郎が物心がついた頃には、すでに今の村で生活していた。
流れ着いた村で、母子は他の人達と同じく、農業で生計を立てていた。
幼い由太朗も、それなりに母を手伝っていた。
よそから来たとはいえ、まじめに母子は働いていた。
よその家にも、迷惑を掛けるような事は、していないつもりだった。
しかし周囲の雰囲気は、普通とは違っていた。
何やら母に対して、他の村人たちは特別な態度を取っていたのである。
かと言って、嫌がらせをされている、と言うわけでもなかった。
どちらかどう言うと、恐れを抱かれている、という方が正しかったのあった。
幼い由太郎を連れて村に流れ着いたときは、まだ母は若い娘だった。
何故か余所者の母子を、問題なく村は受け入れた。
それには違和感があるのであった。
何か外圧的なものが・・・・。
疎外感はあるものの、村八分・いわゆる嫌がらせをされた覚えはない。
そして村長は母子の世話を、親切にしてくれた。
それに由太郎の母は、村の中では堂々とした態度であった。
当時の母は、まだ若い娘であったが、悲壮感というか、弱音を吐いたりはしなかった。
とにかく彼女は、強い女だった。
それを考えると、また一つの興味が湧く。
由太郎の父親は、どの様な人物だったのだろうか。
母子が、この村に辿り着いたのも、恐らく彼が原因では無かろうか。
余りに幼かったので、由太郎は村に移り住むまでの記憶はない。
・・・由太郎は危機感を覚えた。
(はっ・・・)
明らかな殺気を覚えた。
それに反応した由太郎は、即座に起き上がった。
(ああ・・・)
彼の側には、恐ろしい雰囲気の女が立っていた。
彼女に対しては、たとえ屈強な男でも、怖気づくのではないだろうか。
しかし由太郎は、よく知っていた。
その彼女が、その様な女性であることを・・・。
「おっかあ・・・。」
呟くように由太郎は、彼女の事を呼んだ。
「由太郎・・・。」
この女性は、由太郎の母である。
今まで消息を断っていた彼を、まるで全く心配していなかったかの様な口振りである。
「いつ帰ったんだい?」
まるで尋問の如くの口調で、彼女は由太郎に発言した。




