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イギョウ  作者: らすく
7/33

ゆっくりと歩いて去ってゆく

 彼に右腕を掴まれた少女は、流石に足を止めていた。

 それでも彼女は、表情ひとつ変えない。

 「なっ・・・!」

 そこで男は、詰まりながらも動揺の声を上げた。

 (この女、本当に平気なのか・・・?)

 それは何故かというと、この男は腕力には自身があったからなのである。

 そして今まで彼は、喧嘩では負けことがなかった。

 そんな屈強な男が、少女の細腕を加減なしに掴んだ筈なのだが・・・。

 勿論、彼は少女が叫び声をあげるものと思っていた。

 その様になるのを、男は楽しみにもしていたのである。

 しかし彼女は平然と澄ました顔をしていて、この男に目を合わせようともしない。

 側にいるもう一人の男も、彼女が常人で無いことを感じ取り冷や汗を垂らしていた。 

 「うおっ!」

 再び男達は、驚きの声を挙げた。

 今まで、まるで彼らを無視をしている感じだったマトは、急に男の方に顔を振り向いたのだ。

 そして男達は恐怖の為、思わず後ずさりをしそうになった。

 何故なら、その少女の眼は全てを飲み込まんとする位の深さが、存在していたからなのである。

 ===== 一瞬 男達の 目の前が真っ暗になった =====

 そして次の瞬間、強烈な衝撃が、彼等を襲った・・・。

 「・・・・ひ・・!」

 その男は余りの驚愕で、痛みを感じる余裕もなかったのであった。

 それは、ゴロンと転がっていた。

 彼女の右腕を強く掴んでいたそれは、彼の足下に落ちている・・・。

 それを見ても、男は何もできずに全身は硬直していた。

 「お、おい・・・。」

 もう一人の男も、目の前の事に何をして良いのか分からなかった。

 ===== しかし =====

 実は、もう一人の男にも、重大な異変は起こっていた・・・。

 「う・・・く・・・!」

 もう一人の男の足下に、パラパラと紅い液体がバラ撒かれた。

 その液体は、もう一人の男の喉笛から発生していた。

 「か・・・・。」

 もう一人の男は、意識を失い身体を崩れ落とした。

 そして彼の側には、右腕を失い悶絶し、藻掻きながら転げ回っている男がいる。

 まさに地獄絵図とは、この事であろう・・・。

 ~~~~~~ しばらく 時が流れた気がする ~~~~~~

 「う・・・。」

 「大丈夫か・・?」

 その男が目を冷ますと、彼の相方が顔を覗き込んでいた。

 「あ・・? あれ・・・?」

 一端正気を戻したはずの彼は、目の前の状況が信じられなかったのある。

 「お・・・、お前右腕は・・!?」

 すぐさま男は、相方の安否を気遣った。

 「あ、ああ・・、ついているよ。」

 相受け答えをすると、彼は心配なといわんばかりに肩を張った。

 (あれれ・・・。)

 先程右腕を切り落とされたはずの男は、何故かシッカリと右腕がついている。

 「おまえこそ・・。」

 相方は彼の喉元を、見つめていた。

 「えっ!?」

 (本当だ・・・。) 

 男は、自分自身の喉をさすっていた。

 先程、彼も喉笛を引き裂かれたはずなのに、全く喉に傷は無かった。

 (こ、これは一体・・・。)

 危機を脱したのかどうなのか、二人の男は、その場にへたり込んだ。

 (ああ・・・。)

 そして道の向こうを、ゆっくりと歩いて去ってゆく、少女の背中を見送るのであった。


 ===== 場面は変わり 村を見下ろす由太郎 =====

 (やはり行こう・・・。)

 迷っていた由太郎は、村に帰る決心をした。

 彼は村を見下ろして、人通りを確認した。

 村人は疎らに見え、いつも通りの農作業をしていた。

 もう何も、躊躇する事はあるまい・・・。

 そのまま彼は、山から麓に降りていった。

 それほどではないはずなのだが、由太朗は永いこと村を離れていた様な気分がした。

 というか、ここで居ることに違和感を感じていた。

 そして彼は奇妙な空気を、自分の肌に浸透させていた。

 その感覚は、極めて正しかった。

 「由太郎・・・、お前・・・。」

 農作業をしていた知り合いの親父おやじが、驚いた顔で由太朗をみていた。

 しかしすぐさま、彼は気を取り直していた様子だった。

 「帰ってきたのか、由太朗。」

 気遣ってくれているのか由太朗は、それが精一杯の言葉に聞こえた。

 「うん・・・。」

 そこで、由太郎は気づいた。

 これ以上、この人と話をすべきではないと・・・

 この親父おやじは村人の中でも、かなり由太郎に対して優しく接していた方だった。

 それ故に、彼は思ったのである。

 ===== この人を傷つけたくない・・・ =====

 自分でも理屈は語れないが、由太郎の本能が、そう言ったのである。

 そして、それが正しかった事が、後に判明するのであるが・・・・

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