沈黙は、すぐさま破られた
「菜々子・・・。」
彼女は由太郎にとって、母と同じく大切な人・・・。
そして自分を人間として、認めてくれた人・・・。
今、菜々子はどうしていることだろうか・・・。
相変わらず、元気にしているのだろうか。
そうだ・・・、そうに違いない・・・。
・・・やはり彼は、今すぐ村に帰りたいと思っている。
しかし・・・、由太朗の本能が許さなかったのであった。
自分の故郷に対して、何故か危機感を覚えるのである。
その感情の正体は何なのであるか、今の由太郎には分からなかったのある。
====== 老人は回想していた ======
先程にマトに渡した薬は、この頭領自身が開発したものであった。
そして長老の才能は、そのようなものでは止まらなかったのだ。
彼には、天才的な薬学の才能があった。
一般的な効能の薬品の調合方法は、この忍の里の頭領は熟知していた。
そんな才能を持った彼は、自然とその力を生かそうと思うようになった。
そう、過去に彼は、壮大な計画を立てていたのだ。
自分の薬学の知識をもってして、最強の忍びを作ろうとしていたのだ。
だが結果的にその目論見は、失敗に終わったのである。
そしてそのために、封印された事実が、この忍びの里には存在していた。
いくつもの黒い闇が・・・・。
「サワラ・・・・。」
そうして老人が口にしたその名は、かつて忍びの里に居た伝説的な強さを持つクノイチであった。
彼女は超人的な戦闘力をもっていた。
それは女性であるとは考えられない、いや人間であるとは考えられないレベルであった。
華々しい戦績を、サワラは重ねていった。
そしてその強さが、くノ一・サワラを破滅へと導いてしまったのだ。
「サワラ・・・、すまん・・・。」
頭領は自責の念を込めて、呟いた。
=========== 旅立った少女のくノ一 マトは ============
「兄さ・・・・。」
呟いたマトは、兄を案じていたのであった。
優れた忍びではあるが、マトの兄は身体が悪く、長期日数の旅は不安である。
「兄さは、大丈夫かな。」
それでも少女は、兄の無事を信じている。
マトの兄は、知能の高い男である。
彼女は、きっと兄は何処かで無事にいる、と思っていた。
しかし、そこで異変が起こった。
少女が道の先に、とある人影が見えた。
それは二人の男が、立っているように見えたのであった。
彼らはボロボロの服を着ていたが、その他に危機感を覚える理由があった。
男たちは、武器といえるものを持っていたのである。
そう・・、一人は鎌、もう一人は包丁の様な刃物を・・・。
そして明らかに彼らは、マトに対して注目していた。
それは決して好意的なものではない。
大の男二人が、一人の少女に向けるのには余りに冷徹な視線・・・。
明らかに彼女に危害を加える事、明白なのであった。
それでも彼女は脚を、止めたりはしなかった。
彼らの間に入り、マトは構わず、その場を通り過ぎようとした。
男二人に対して、全く動じない少女の様に、少々、男達はたじろいだ、がしかし・・・。
その沈黙は、すぐさま破られた。
「おい、まてや!」
非常に恫喝の入った男の声にも、やはりマトの表情は動かないのである。
その様を確認するや否や、男たちの感情は沸騰した。
「こら!」
もう一人の男が、彼女の右腕を握りつぶさんばかりに強く掴んだ・・・。




