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イギョウ  作者: らすく
31/33

涙が流れていた。

 マトは、あるものを眺めていた。

 イギョウの元から去った彼女は、くノ一としての刺客を失った。

 任務を放棄したマトに、最早帰る場所はないのだ。

 そしてその後始末を、彼女は自分自身でつけるつもりなのだろうか。

 (このために、これがあるのかも知れない・・・・。)

 彼女は思った。

 イギョウに対して使用しなかった薬品は、自分自身を終わらせるのにうってつけの品物だったのだ。

 (そうなんだ・・・。)

 その容器の封印を解き、少女は中身を覗き込んだ。

 どす黒い液体である。

 その状況を知らない人物であろうとも、それが危険な液体であることは容易に想像できるであろう。

 だがむしろ今の少女にとって、この危険さは彼女の求めていたモノであったのだ。

 薬品をもった右手が小刻みに震えていた。

 心が求めていても本能が、それから逃避しようとしているのかも知れない。

 マトは自分の襟元を、左手でギュッと自身の首を絞めんばかりに引き締める。

 両脚もグッと力が入り引き締まっていた。

 カタカタと擬音が聞こえないかと思うほど、ぎこちない手つきで少女は薬品の入った容器に口をつけた。

 そこからは障害は無かった・・・。

 ===== コクン =====

 何のためらいもなくマトは、その薬品を飲み干したのだった。

 「うっ・・・・うぐぐ・・・・。」

 たまらず少女は、その場に蹲った。

 両手で自分自身の襟を強く引っ張り続け、胸元は完全にはだけていた。

 そして両脚もまるで、別個の生き物の様に痙攣をしていた。

 「あぐぐ・・・。」

 ついには彼女は白目をむき、泡を吹いていた。

 しかし・・・・。

 もがき苦しんでいるもののマトの心中は、また違ったモノであったのだ。

 (これで兄さに・・・。)

 これが少女の望みだったのである。

 兄貴分エンサイの後を追う事を、マトは選択したのだ。

 全てを溶かすという薬品・・・・。

 それは勿論、少女のすべてを無に帰すことであろう。

 今後の事については、彼女は何も憂える必要はない。

 マトは意識を失った・・・・。

 

 大きな屋敷が燃えている。

 彼にとって、そこが目的地である事は明白であった。

 なんの躊躇もなく、その屋敷に彼は入った。

 ===== ヒュン =====

 風圧のようなものを感じた。

 気がつけば、彼の頬は細い切り傷が付いていた。

 頬から鮮血が滴る。

 恐らく手裏剣によるものであろう。

 「待っていたぞ。」

 その声に振り向くと、鎖帷子を纏った忍びが立っていた。

 小柄ながら屈強な忍びである、と彼は感じた。

 しかも彼の屋敷への侵入に対して、全く動じていない様子である。

 この忍びは完全に、此処に彼が来ることを分かっていたかのようであった。

 「はっ!」

 甲高い声ともに、忍びは彼に鎖分銅を用いた攻撃をかけてきた。

 その攻撃を彼は瞬時の判断で、かわしていた。

 忍びの攻撃は続く。

 しかし彼は反撃をしなかった。

 まさに彼は、この戦闘事態を回避しようとしている。

 それでも忍びは、彼に対して容赦ない。

 しかし彼の動きは、真に俊敏であった。

 とことん忍びの刃をかわし続ける。

 勿論このような事が、永遠に継続するはずはなかった。

 次第に忍びの息があがってきた。

 そして、この忍びは突然攻撃を止めた。

 忍ばせている武器をさらに取り出している。

 それから、息を整えている様子であった。

 彼は直感した。

 この忍びの次の攻撃が、間違いなく最後であることを。

 そして彼が攻撃を回避するだけでは、決して許されないことを・・・。

 「死ね!」

 最後の力を振り絞り、忍びは彼に攻撃をかけた。

 彼も全力をだし、忍びの攻撃に応えた。

 二人の肉体が交錯する。

 ==== ハア ハア ====

 両者とも肩で息をしていた。

 「ぐうう・・・。」

 彼は脇腹に攻撃を受けていた。

 それでも彼は立っていた。

 そして・・・・。

 その忍びは、崩れ落ちるように倒れこんだ。

 勝敗は着いた・・・・。

 倒れている忍びは、まさしく虫の息であった。

 それは間違いなく、死を迎える寸前の状況であろう。

 倒れている忍びに、彼は駆け寄る。

 そして彼は忍びを抱き起した。

 「おっかあ・・・・。」

 「由太郎・・・・。」

 彼と忍びの眼には、涙が流れていた。

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