青年の過去
この村は長によって、一つにまとめられていた。
その長の権力は強く、それ故に大人しく村人達は従っていた。
まさしく彼らは、物理的に押さえつけられているかの如くの状況なのであった。
それでも村人は、決して不幸ではなかったのかも知れなかった。
何故なら彼らは毎日働くことにより、特に問題なく生活を営む事ができたからである。
この村の長の力によって、揉め事も大きくならずに済んでいた面があったのである。
当たり前のように生きていけるのは、この不安定な時代において非常に貴重な事なのだ。
ともかく村は、今は丁度よいバランスが保たれている。
しかしその和は、間もなく乱れることになるのだ。
ある日を境に・・・。
ある日、村人は異変に気が付いた。
気がつけば、余所者がいたのだ。
それは赤子を背負った、若い娘である。
その赤子は生まれてから、余り日が経っていないらしい。
それ故に実の母子ではないと、村人達は推測した。
そして村人達は危機感を持っていた。
その原因は赤子にあった。
その赤子は普通とは言い難いのだ・・・・。
嫌悪感しか、赤子からは感じ取れない。
まさに存在するべきではない、と皆は感じていた。
それほどの雰囲気が、この赤子から発せられていたのだ。
しかし村人達は、あえてこの事には触れなかった。
彼らは本能的に、この事について考えないようにしたのである。
それは他の何者でもない、自分自身のためである。
原因は村の長からの無言の圧力であった。
日常を守るために、村人たちは表面上の平穏を保った。
そして日々は、経過していったのである。
そして赤子は、いつしか少年になったのである。
少年は周りの子供達から、常に避けられていた。
その反面、大人達は少年に対して言葉を掛けていた。
しかしそれは実は思いやりではなく、あくまでも思いやりのない上部だけのものであった。
実は少年自信も、その事には気が付いていた。
自分が異物として、周りに認識されていることを・・・。
しかしそれでも少年は、心から幸せだった。
どうしてかと言うと、彼には心の支えがあったからだ。
それは二人・・・・。
母であるサメ、そして村の長の孫娘である菜々子。
サメは心身ともに、この少年を守り続けた。
一方で菜々子は、少年に光を照らし続けたのだ。
少年にとって友人は一人で良かったし、この状態に満足していたのだった。
そして彼は、思っていたのだ。。
このままの関係が続ければ良いのに、と。
確かに、それはしばらくは続いた。
だが永遠に継続する関係など、存在しなかったのであった。
さらに少年は、立派な青年となった。
そして菜々子も、とても美しい娘に成長したのだ。
その青年と娘の関係は、子供の頃より変わらず強いものであった。
やはり二人の関係に杞憂というものは、存在しなかったのだろうか。
だがこのままとは、いかなったのだ。
それは村の周りからの圧力であろうか。
いや決して、そうではなかったのだ。
村人は二人の関係について、決して触れようとはしなかった。
この青年自信が、このままの関係を望んでいなかったのだ。
そう、青年は関係を変化させたくなったのだ。
そして青年は、娘と人生を歩む意思を示す決心をしたのであった。
「菜々子。」
「どうしたの?」
いつもになく神妙な態度の青年に対して、菜々子は覚悟をしていた。
だが彼女のそれは青年にとって、意にそぐわない覚悟なのであった。
「菜々子、オレらの間は。」
ハッキリとした物言いを青年はしなかったのだが、もう菜々子には彼が何を言わんとしているのか分かっていたのである。
だが奈々子は、相槌を打たなかった。
「な、菜々子。」
言葉を出さない奈々子に対して、青年は距離を詰めてきた。
その彼の額には、ビッシリと汗が滲み出ていた。
それは青年の、心臓の鼓動が速まっている事を示していた。
この青年は彼女と幼馴染みの関係よりも、より踏み出したものになりたい、という意思表示をしようとしていたのだ。
「菜々子、オレ。」
もう青年は、行き詰まっていた。
そんな彼に対して、奈々子は手を差し伸べないのだろうか。
「奈々子・・・。」
彼女と至近距離のとなった彼は、奈々子の両肩をガッシリと掴んだ。
その場で二人は立ち尽くしていた。
二人には距離があった。
それは彼女が、青年を拒絶していたことを意味していた。
「・・・・・。」
青年は言葉を無くし、彼女に背を向けて歩き出した。
それは青年と彼女の精神的な決別と言えるのであろうか・・・。
そしてその夜、悲劇は起こった・・・。
何者かによって、奈々子は自宅にて、無残に身体を引き裂かれ命を落としたのだった。
しかしその事は、青年には知らされていなかった。
その翌日の早朝・・・・。
奈々子に距離を置かれ、人生を悲観した青年は村を出たのであった。
その事により村人は奈々子の死に、この青年が関わっていると推測することとなった。
この青年の名は、由太郎・・・・。




