奈々子の最後
奈々子は、村の長の孫娘であった。
生を受けた彼女は、村中で祝福されたのである。
村長の権力は、村では絶対であった。
その為、比較的裕福な育ちを、長の一族である菜々子は約束されていたのだった。
勿論、周りの誰もが彼女は幸せな人生を送る、と考えていた。
しかし必ずしもその通りにならないのが、この世というものではなかろうか。
そしてあることを境に、彼女の運命の歯車は狂うこととなる。
いやむしろ異変は、奈々子が生まれた時点で始まっていたのかも知れない。
それでも時間だけは、乱れることなく経過していく・・・・。
奈々子が産まれてから、数ヶ月。
まだ、乳飲み子である菜々子。
そんなときに、この村は新しい住民を受け入れた。
それは赤子を連れた、まだ若い女である。
この村は今までに、他所から来た者を受け入れる事は殆ど無かった。
村は閉鎖的な空間だったのだ。
だが、村は赤子連れの女を受け入れた。
それは、村の長の意志であるからである。
だがそれだけではなく、村に順応する適性が女にはあった。
彼女はよく働き、村には早く馴染めた。
しっかりと赤子の世話も、怠らなかった。
その勤勉さを、村人たちも評価していたのだ。
村には平穏な日々が流れた。
しかしそれは意図的に仕組まれたものだったのかもしれない。
そして数年後、彼女は可愛らしい童女に育った。
奈々子には、そこにいるだけで空気を和ませる魅力があった。
だから村の権力者の一族とはいえ、村人たちは彼女に対して好感を持っていた。
常に奈々子の周りには、誰かがいた。
そんな彼女は、日頃から仲よくする同じ年頃の男子がいた。
回りの子供達は、その男子を避けていたが、菜々子はそうはしなかった。
それ故に彼女が、その男子といるときは誰も近寄ってこなかった。
そのようしていると、菜々子はいじめられたりはしないか、という不安が彼女の家族にはあった。
しかしそのように危惧する事は、決して起こらなかった。
それは菜々子が村の権力者の一族の人間であり、その加護を受けているお陰なのかもしれない。
周りの人間の態度を気にする事は無く、よく二人は一緒に遊んだ。
本当に二人は心の底から楽しんでいる事が、その様子からも分かった。
猶更、外の人間が彼らの中に割って入ることは、できないのであった。
お互いに彼らは好意を抱いたいた。
これから先に大人になっても、二人は一緒なのかも知れない。
そのように周囲の人間は思っていた。
しかしその様に、世の中は回らないのである。
運命に歯車のほころびは、確実に広がっているのであった。
そして更に、この二人に時は流れた。
時間の流れは、人を変える。
その人の外見も、中身も・・・・。
とても美しい姫の様な姿に、菜々子は成長していた。
今が彼女にとって、最も綺麗な時期であろう。
しかしその美しさが、さらに運命の逸脱を加速させていくのだ。
村人達の菜々子に対する見方は、確実に変わっていった。
権力者の一族の娘であるという事よりも、村一番の美人である、という事の方が事実として優先された。
故に彼女は村の若人からは、常に羨望の眼差しで見られた。
もっとも若人達にとっては、奈々子は高嶺の花であった。
周りの目よって、彼女の振る舞いも次第に、その容姿に相応しいものとなった。
奈々子は村全体の、憧れの娘となった。
そして彼女は、その事を決して拒絶しなかった。
つまり彼女自身も、その状況に気持ちが順応していったのである。
なのでこれまでの男子との関係も、次第に特別なものではなくなってきたのである。
それは幼き頃よりの絆の崩壊を意味していた。
さらに若干の時は流れる。
もう奈々子は年頃である。
村の長の家系の人間という立場上、彼女には自由が無い。
奈々子自身、その事は理解していたし、そんな自分の宿命に逆らうつもりはなかった。
それが自分が平穏に生きる術である、と彼女は思っている。
そして周りの皆の為である、と信じている。
そう、彼女は恋愛は実らないと分かっていた。
それから奈々子にとって最大の、そして最後の人生の転機が訪れた。
奈々子は婿養子を迎えることが、決まったのだ。
それは勿論、彼女が将来の村長の嫁となるためである。
トントン拍子に事は進んだ。
しかし事態は急転を迎える。
婚礼の前日、奈々子は何者かに殺害された。
それも無残に引き裂かれた姿で・・・・。




