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イギョウ  作者: らすく
26/33

サメの過去2

 「ほう、その子か。」

 静かに老人は、サメの背中を覗き込んだ。

 前触れのない老人に対して、サメは後ずさりをした。

 彼女の背中の赤子を見た老人は一瞬、自分の息を止めた。

 そして老人の反応が何を意味しているのか、このサメにはわかった。

 それだけサメ自身を含めた赤子の存在が、忌み嫌われるべき存在であることを彼女自身は分かっていたのだ。

 それでも頼るべき人は、目の前の老人なのである。

 もうサメと赤子に行くべきところは他には無いのだ。

 それ故に彼女は俯き、この老人にどのように接するべきか考えた。

 自分達の運命は、人に握られているのだから・・・。

 しかし・・・、それはサメの杞憂であった。

 心配とは必ずしも的中するとは限らないのだ。

 「うむ、案ずることはないぞ。」

 まるで全てを見透かしていたかのような老人の言葉に、サメはハッと我に返り顔を上げた。

 地獄に仏とは、今の状況を指すのではなかろうか。

 その台詞から案外、この老人は頼りになる印象をサメは持ったのであった。

 そして一つの確信を、彼女は抱いたのであった。

 やはり頭領は、この老人に話を通していたのだ。

 最初に動揺をみせたものの、老人は気丈な人物の様である。

 この暗闇の中、サメは一筋の光明が老人の背後から射しているのが見えたのであった。

 

 「ここじゃ。」

 それから老人に案内されたサメ達は、一軒の家の前にいた。

 その中からは、人の気配はしない。

 老人に導かれ、彼女は家に入った。

 そこは意外にも、整っていた。

 古い立屋なのだが、手入れはされていた様子である。

 それなりの村人達の手配を以て、この状況がなされているのではなかろうか。

 そしてここが、これからのサメ達の生活の場となるのであろう。

 「今日は休むがよい。」

 その一言だけを遺して老人はサメに、これ以上の何も説明せずに去っていった。

 それは誠に素っ気ないのであった。

 それでも今のサメにとっては、これは十分な持て成しだったのである。

 何故なら必要なものは全て、ここに用意されていたからである。

 そう彼女は、とりあえず止り木を得たのであった。

 ・・・・・その赤子は、サメの乳房に張り付いていた。

 実はサメは若くして、出産の経験がある女なのである。

 その子供は幼くして、亡くなってしまったのであるが・・・。

 ともあれサワラの妹にして、それだけの経験のある彼女だからこそ、この赤子を託されたのではなかろうか。

 しかし当の本人サメは、赤子を抱きかかえつつ、一抹の不安を払拭できずにいた。

 そして、そのまま夜は更けていった。

 

 そして、また日は昇ってゆく。

 サメは赤子の世話をし、自身の朝飯も炊いた。

 もっとも彼女らに取って今は、ここで迎える初めての朝である。

 それでもサメは、このままジッとはしていなかった。

 彼女は朝飯を食べて、それほどの時間を置かずに赤子を背負った。

 そして扉を開け、外に出たのである。

 天気は良く日差しは眩しいが、それほどサメは空を見上げなかった。

 そのような事は、彼女にとって小さな問題なのである。

 サメの興味の対象は、そこにはあった。

 早朝から村人たちは、畑仕事に精を出していた。

 それは彼らにとって、いつもと変わらない日常であろう。

 少しの間、彼女は村人達の様子を眺めていたが、ふと違和感を覚えた。

 忙しそうに仕事に打ち込んでいるのであろうが、流石に気が付くのではなかろうか・・・・。

 よそ者の存在に・・・・・。


 それでも村人たちは黙々と仕事を続けていた。

 明らかに今の彼らの行動は、サメたちの存在に気が付いている上でとしか思えない。

 しかし彼女は、現状を打開する方法を思いついた。

 すぐさま彼女は家に戻り、仕事の支度をした。

 そして赤子を背負ったまま、鍬などを抱え再び外にでた。

 するとサメの目論見通りに、事態は動いたのであった。

 一人の村人が、彼女達に歩み寄ってきた。

 中年の男性である。

 「ここがアンタの畑だよ。」

 そう男性が言うのは、サメ達の傍にあった。

 ここが彼女の仕事場なのだ。

 村人たちは、サメを試していたのかも知れない。

 彼女の行動は、間違ってはいなかった。

 サメは耕具を持ってくることによって、畑仕事をするという意思表示をしたのだ。

 彼女は周りを見回した。

 皆がサメに向かって、頷いているように見える。

 それは彼女が村人たちに、受け入れられた事を意味していた。

 これに対してサメ自身も、今までの自分を捨てる決心をしたのだった。

 彼女は畑に入り、耕作をはじめた。

 勿論、背中には赤子を背負っていた。

 サメは思った。

 彼女に取って、もうこの赤子は自分自身の子なのだ・・・・。

 くノ一・サメは、一人の村人として生きていくことになった。

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