サメの過去1
彼女の姉は優秀な、くノ一であった。
もっとも彼女自身も、忍びの素質はあった。
だが余りに優秀な姉の為に、彼女の生い立ちは文字通り姉の影なのであった。
忍びの里で生を受けた姉妹は、幼少期より厳しい”くノ一”の訓練を受けた。
そして彼女達は素質があったのである。
それほど時間は掛からずに、サワラとサメは忍びとしての才能を開花させた。
まさに生まれついての忍びの卵である。
忍びの里において、彼女達が将来の戦力の核として認知されるまで、そう時間は掛からなかった。
姉妹の将来は、開ける事が容易であるように思えた。
ところが、そうは上手くいかなかったのだ。
サワラもサメも一流の遺伝子を以て、命を授かったのだが・・・・。
度を過ぎれば・・・、とはこのことかも知れない・・・。
何故な彼女達の才能の開花は、決して平等ではなかったのだ。
姉のサワラの能力の向上は、常軌を逸していたのである。
その成長の軌道は、間もなく彼女の妹を置き去りにせざるを得なくなった。
忍びの里の者たちは皆思った。
~~~~ このサワラは自分達とは全く異なる存在なのではなかろうか・・・。 ~~~~~
自分達を同じの人間とは到底思えない、正に別の種の生物なのでは無いのであろうか、と思う位なのである。
もはや妹のサメの才能と努力の成果は、極めて小さなものとなったのだ。
同じ姉妹で、この様な差は余りにも残酷なのではなかろうか。
もし神が何処かに存在するとすれば、尊敬に値するのであるか甚だ疑問である、
もしくは神とは、そのようなものなのかも知れない。
考えてみれば世の中とは、不条理である。
そして状況は、その通りに進行してゆく。
姉妹の才能の不平等は是正される事は無く、むしろ日に日に増していったのであった。
サワラの急激な戦闘力の成長により、彼女は幼くして任務にも抜擢されるようになったのである。
神は忍びの才能を、姉のほうに多く振り分けた。
姉のサワラの存在が、サメの評価を相対的に下げていったのだ。
ここまでくれば妹のサメは、ねじ曲がった人格の少女に成長したとしても、誰も責めたりはしないのかも知れない。
それほどにサメの状況は、忍びの里に置いて過酷なものであった。
実際サメは地味で尚且つ身体的に負荷のかかる仕事を、多く振り分けられていったのである。
もはやそれは、今の時代でいう虐待と言っても過言ではないのだ。
しかし少女サメは、非常に強かったのである。
この境遇から、彼女は逃げたいとは微塵も思っていなかった。
それどころか、サメは誰も恨んではいなかった。
少女は生まれた頃から、これが日常だったのだ。
ただ努力する事しか、サメの進み道はなかったのだ。
そして彼女は、決して自分自身の事を不幸とは思っていなかったのである。
彼女は自分の姉は誇りに思っていたし、自分自身も姉に準じていこうという思っていた。
そんな彼女の気持ちを、姉も承知していた。
だが彼女は、あえて姉に甘える事はしなかった。
サメはサワラとは別に修行をし、任務を共に当たることはなかった。
サメは頭領の屋敷に住んでいた。
そして頭領はサメが幼少期の頃より、可愛がっていた。
そんな彼女は頭領からの信頼を得る忍となり、サワラとはまた違った地位を獲得していたのだった。
そう、サメが耐え忍んだ事は、無駄では無かったのだ。
そしてサメは今まさに、頭領の密命を受けていたのだった。
サメの背中には赤子がいた。
その赤子は男の子である。
そして赤子は泣かなかった。
時折、寝たり起きたりしていたが、特に騒ぐ様子はない。
それは赤子が安心しているということなのか。
それともサメがサワラと同じ匂いがするのか。
もっともサメも、赤子が自分の甥であるので責任感は持っていた。
そしてその責任感は、次第に愛おしさに変わっていくのである。
目的地までには難関は存在しなかったのか。
いや、あったのかもしれない。
道中にて暴漢に襲われたかも知れない。
それでもサメの前では、なんの問題にもならなかったのかも知れない。
元々、彼女の使命の前には、並大抵の困難は織込み済みである。
実際サメは赤子と共に、無事なのであった。
やがてサメは、目的の場所にたどり着いた。
まだ未明のとき、薄暗く人通りはなかった。
しばしの間、彼女はその場に立ち尽くした。
そして、一定の動きを示す人影が確認された。
サメの方に向かってくるのは、その足取りから明白なのであった。
そしてその歩みは、あまりしっかりとはしていなかった。
それでも彼女は不安を感じない。
何故ならその人影には、きちんとした意志が備わっていると感じられるからである。
「待っておったわ。」
人影は言葉を投げかけてきた
その人は、見るからに老いていた。
どうやら事前の連絡はあり、この老人はサメを迎えてきた様子であった。




