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イギョウ  作者: らすく
24/33

マトの過去

 そしてサワラの死から、数年が経過した。

 「兄さ。」

 その時、少女は少年にしがみついていた。

 それはまだ少女が少年よりも幼いからなのであった。

 少年は、そんな少女に対して特に咎めはしなかった。

 別の言い方をすれば、彼女の行動に特に気をとめていないのかも知れない。

 「マト。」

 そう言ってエンサイは、少女の頭を優しく撫でたのであった。

 少年にとって、この少女は実の妹同然なのである。

 少女の名はマト。

 そう、この物語の序盤から登場しているくノ一である。

 彼女はエンサイと同じく、戦乱によって身寄りを失った孤児であった。

 同じ境遇という事もあり、自然とエンサイとマトは行動を共にするようになったのである。

 この少年と少女は、血のつながっていない兄妹となった。

 エンサイはマトの姿を知らない。

 何故なら少女に出会う前から、もう彼は盲目だったから・・・。

 それでもエンサイは知っている。

 マトの声・匂い・手の温もりを・・・。

 誰よりもエンサイは自分の妹の事を知っている。

 そんなエンサイに対して、マトも絶対の信頼を寄せていたのだった。

 

 「う、うわああああ!!」

 通りすがりの里のモノが、マトから逃げ出した。

 その顔に恐怖が宿っていた。

 残されたマトは、一人ポツンと立ち尽くしている。

 少女には動揺の跡は無かった。

 その状況からして、恐らくなにかの揉め事があったと推測される。

 そしてその結果が、これなのであろう。

 「マト・・。」

 そのやり取りに気が付き、駆け付けたのであろう。

 エンサイはマトに、声を掛けた。

 しかしその口調は、何故か腫れ物に触わるかの如くである。

 これはどうゆう事なのか。

 実はすでにエンサイは勘づいていたのである。

 マトが普通の童女とは異なる、という事を・・・・。

 彼女の瞳から発せられる圧力を・・・・。

 エンサイには見える・・・、暗闇の中に輝く少女の原石が・・・・。


 先ほどの話の通り、マトは他人から見て、非常に不思議な少女だったのである。

 それは彼女の眼の事なのである。

 人はマトに見つめられ、その眼にとらえられると、その者は幻覚に近いモノに襲われるのだと言う。

 その幻覚の行き着く先は、その人物にとっての恐怖である。

 しかしその恐怖は、対象の人物にとって身体的な実害はない。

 いわゆる精神的なダメージである。

 現代的に解釈すると、それは催眠術に近いものなのだろうか。

 もっとも、そんな自覚は彼女には無いのであろうが。

 使い方によれば自分の身を守る手段となりうる能力なのであるが、それは逆にマトを苦しめる原因となっていたのであった。

 自らの能力によって、マトは忍の里では常に疎まれる存在となっていたのである。

 幼くして、その様な境遇にあれば、通常から著しく逸脱した人格に成長してしまうのかも知れない。

 しかし、彼女はそうはならなかった。

 どうしてなのかと言うと、マトには支えとなる存在があったからである。

 その存在の人は、他ならぬエンサイである。

 どれだけマトが得体の知れない者だと、忌み嫌われようと、彼には全く関係がなかった。

 少なくとも自分だけは少女の味方、いや兄で在るべきである、という姿勢は動かない。

 それは自分と同じくマトは、どこから来たのかも判別がつかぬ、出目も分からぬ者であるからこそなのか。

 かといって、エンサイは安心はしていなかった。

 彼は里で孤立するマトの将来を、心から憂えていたのである。

 このままでは、この少女は自分以外誰も頼る存在も無しに生きていかなかれいけない。

 そしてエンサイは、意を決したのであった。

 

 「マト。」

 「何?兄さ。」

 エンサイの何かの意図を秘めた表情を、少女は読み取っていた。

 そして変わった。

 マトはエンサイ共に、厳しい忍術修業に入ったのであった。

 芯が強いのだろう。

 決して少女は弱音を吐かなかった。

 そして・・・・、そう遠くはない時期にマトは、くノ一として認められた。

 盲目とはいえ凄腕のエンサイを組み、彼女は数々の任務を成し遂げていった。

 忍びの里の欠かせない存在となったのである。

 もはや、くノ一・マトを蔑む者は、この忍びの里にはいなくなった。

 彼女には、そしてエンサイにも、憂いは解消された。

 しかし二人には、残酷な運命が待っていた。


 ~~~~ さらに数年後 ~~~~

 エンサイは立派な青年となっていた。

 マトも幼さは残るものの、美しい娘に育っていた。

 「兄さ。本当に一人で行く?」

 「そうだ。お前は残って里を守れ。」

 マトはエンサイを案じていたが、彼女には分かっていた。

 彼女に兄は、一人で任務にあたる覚悟なのだ。

 マトが口をはさむことは出来ない。

 「では、あとは頼むぞ。」 

 「うん・・・、兄さ・・・。」

 名残惜し気なマトであったが、エンサイは彼女の方を振り返らずに旅立った。

 これが今生の別れとなるとは、その時の二人には知る由も無かった。

 

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