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イギョウ  作者: らすく
23/33

最後の別れ(過去10)

 その後、事態は急展開した。

 噂は瞬く間に、忍びの里を駆け巡った。

 当然エンサイにも、その話は舞い込んできた。

 そしてその内容は、あまりにも少年には残酷な事実だったのである。

 「・・・・・・。」

 里の人間からの噂を聞いた少年は、驚愕の余り絶句した。

 (な、なぜ。)

 何とサワラは亡くなったというのである。

 彼女は出産時に体調が急変したのだという。

 そして新しい命と、つまり母子共々の命が失われたのだった。

 そんなことは少年には信じられなかった。

 あの強いサワラが、出産で命を落とすとは。

 だがエンサイは、噂のみで納得する男では無かった。 

 それ故に少年は、再び動いたのである。


 そして再びエンサイは、頭領の屋敷の前にいた。

 「エンサイ・・・。」

 前回の門番の男は、そこに立っていた。

 だが、もはや彼には少年に対しての敵意は存在していなかった。

 「入れ・・・。」

 門番の男は、エンサイが屋敷に入ることを許した。

 まるで少年の訪問を、予測していたかのようである。

 その事をエンサイも悟っており、速やかに以前サワラと会った部屋に辿り着くように目指した。

 そして・・・、目的の部屋の前に少年は立っていた。

 襖を開ける手が震える。

 気がつけば、エンサイの顔は数本の汗が伝っていた。

 それでも少年は、次の瞬間に部屋に入った。

 「待っておったぞ。」

 まさに彼は待ち構え居ていた。

 この忍びの里の頭領である。

 

 「知りたいか。」

 そう言った頭領の眼を、少年はカッと見た。

 「・・・・!」

 エンサイは気が付いた。

 頭領の傍らに布団に寝かされている人を。

 もはや聞くまでもあるまい。

 この人は・・・・。

 「確かめに来たのじゃろう。」

 頭領は極めて落ち着いた表情である。

 目が見えなくともエンサイには、それが判別できたのだった。

 「・・・・・!」

 しかし少年には、この目の前にいる男の態度が理解ができないのであった。

 「サワラは亡くなったのじゃ。」

 ハッキリと頭領は言った。

 「・・・・。」

 エンサイは説明の続きを求めるかの様な眼で、頭領を見つめる。

 その求めに答えたのか、頭領は続けた。

 「薬物投与した体に、出産は耐えられなかったのじゃ。」

 少年は信じられない。

 あの屈強なサワラが、数々の戦闘を勝ち抜いたサワラが、出産で命を落とすとは・・・・。

 「お前には分からないかも知れぬが、子を産むという事は命を懸けるという事なのじゃ。」

 少年であっても、頭領のいう事はなんとなく察しがついた。

 しかしサワラの子は、どうしたのだろうか。

 「子は・・・。」

 エンサイは、いつもと違い、とても細い声をだした。

 「・・・・子は無事じゃ・・・。」

 歯切れの悪い言い方であるが、頭領の言葉に恐らく嘘はない、と少年は直感した。

 

 頭領の側の人は、顔に白い布が掛けられていた。

 少年には、臭いで分かるのだ。

 その人はサワラなのである。

 「良いぞ。」

 頭領は気遣ってくれたのだろうか。

 そう言うと彼はスクっと立ち上がり、部屋をあとにしたのだった。

 そしてエンサイは、彼女の傍にいた。

 「姉御・・・・。」

 名を呟いた少年はサワラの布団の中の、もう冷たくなった彼女の手を持ったのであった。

 死後時間は経過しており、もう柔らかさも失われつつある。

 視力を失っていても、エンサイにはわかる。

 彼女は紛れもなくサワラだ。

 それだけ確認できただけで、少年にとっては、もう十分なのであった。

 自分の姉貴分であるサワラを、永遠に失ったことを。

 少なくとも彼女が何者かに殺害されたわけではないことは、分かった。

 薬物投与をした身での出産により、サワラは命を落としたのであろう。

 勿論、薬物を与えた頭領に対しての怒りはあるのだ。

 しかし今は、姉貴分への別れの祈りを優先させた。

 実際その方が少年にとって、幸せな道だったのかもしれない。

 どれほどの時間なのだろうか、エンサイはサワラの手の感触を以てして、最後の別れを告げたのであった。

 

 その頃、忍の里から旅立った者達がいた。

 その二人は、極めてサワラに近い匂いを持っているのであった。

 その内の一人は女人・・・・。

 その女の名は、サメ・・・。

 サワラの妹である・・・。

 背中には赤子がいたのであった。

 それは悲劇への旅立ちだった・・・。


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