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イギョウ  作者: らすく
22/33

今生の別れである。(過去9)

さあ、どうやって屋敷に入るべきか。

その様に、少年は思案した。

見るからに、強固な門である。

策を張り巡らせつつ、エンサイは屋敷の門を撫でる様に触った。

するとその時、全く労せずに屋敷の門は開いたのである。

これは全くの拍子抜けという状況なのだが、少年は思った。

そして感じたのである。

まるで屋敷の方から、彼を招き入れていれようとしている事を。

その想像は恐らく間違ってはいないのかも知れない。

まず門の向こうに、彼は脚を踏み入れた。

それから確かめる足取りで、さらに中に侵入をしたのだ。

神経を集中させて、少年は庭を歩く。

しかしエンサイの行動を妨げる者の気配はない。

果たしてそれは、何故なのか。

それでは、先ほどの門番の役割は意味がないではないか。

無意味な戦闘を繰り広げ、救いのない犠牲者を出したことになる。

空しい・・・・。

そのうち少年忍者は、その訳を考えるのを止めた。

何故なら、この先にいけば何らかの結論に達すると思っているからである。


そこには屋敷の正面玄関があった。

もうこれから、建物に入れるのだ。

余りにも無防備な庭である。

これは罠で、屋敷屋内に入った瞬間に攻撃にさらされるのではないのか。

そういった杞憂もありうる。

しかし、この少年忍者エンサイは気がついていたのである。

自分に対して害をなすものが、そこには存在しないことに。

もう彼は邸内にいた。

キシキシと床がきしむ音が、静けさに包まれた中を切り裂いて行く。

本当に無反応な建物である。

しかし、それでも少年には戸惑いは無かった。

構わずに彼は、廊下を歩き続ける。

そして間もなく、その歩みは終わることになるのだが。

少しの間を置いて、エンサイの脚は止まった。

どうやら、お目当ての気配は、そこにある。

「入れ。」

部屋の中からの、年配の男性の呼び掛けがあった。

どうやら少年の行動は、この声の主に全て把握されているようだ。

言われるがままに、彼は襖を開けた。

だが、そこには先ほどの声の主はいなかった。

「エンサイ。」

「姉御。」

もはや、少年には声の男性の事など、どうでもよかった。

エンサイとサワラの二人は、ここで再会を果たしたのである。


少しだけ二人は、お互いに無言で見つめ合う。

「・・・・。」

少年忍者は、そう反応すればよいのか・・・。

目の前の彼女は、噂通りの様子であった。

自身の中に、新しい命を宿している事がエンサイにも分かる。

そしてサワラの表情には、以前の面影はなかった。

そう、もはやサワラは、娘ではないのだ。

今の彼女は穏やかな、これから母になる女性の顔である。

それはエンサイにとって、サワラとは同じ目線で会話することが二度と出来ない事を意味していた。

「何で?」

今の少年が発する言葉は、これが精一杯であった。

「仕方ないんだよ。」

それに対するサワラの返答もまた、これが精一杯なのであった。

「姉御、俺は・・・・。」

もう少年には、わかっていたのである。

既に自分の姉貴分とは、袂を分かつべきで運命である事を・・・。

「ご免、エンサイ・・・。」

そう言うと彼女は、とても申し訳なさそうに眼を瞑ったのであった。

「う・・・・。」

もうこれ以上に彼女を問い詰めることは、年端も行かぬ少年には酷な話である。

それにエンサイは、子供ながらに全てを悟っていたのである。

そして少年はサワラに背を向けて、屋敷を去ったのであった。

エンサイとサワラの、今生の別れである。

砂を風に浴びながら、エンサイは顔を俯かせて姿を消した。


「辛かったな。」

「・・・・。」

サワラの背後から、人影が現れた。

そして、それは具体的な姿を見せた。

「お前には、大事な役目がある。」

頭領は、彼女の両肩を背中から、自分の身体を覆いかぶせるようにした。

「・・・・はい・・・。」

「これがの・・・・。」

頭領は、サワラの腹を摩った。

しかし彼女からの抵抗の素振りはない。

「何せワシからの命と、研究の成果じゃからの・・・。」

そう言いながら、頭領は背後からサワラを抱きしめた。

しかし彼女は一切、その表情を変える事は無かった。

そして微笑を浮かべる頭領にも、また心が無かったのである。

そこにあるのは、結果への執着のみであった。

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