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イギョウ  作者: らすく
21/33

怯えている男の命令など聞くはずも無かった。(過去8)

 そして少年はは動いたのである。

 エンサイは、通りすがりの人間に接触を試みた。

 「おい。」

 「なんだ、お前。」

 流石に実力を認め直したとはいえ、里の人間は少年に対して好意的な感情は持ち合わせてはいなかった。

 それでも少年の忍びは怯むこともなく、会話を続けたのであった。

 「姉御は?」

 「ほう。」

 エンサイからの質問は予想通りだったのか、里の住人は落ち着いている様子だった。

 それ故なのか、誠に明快な回答が出されてきたのである。

 「サワラは身重だ。」

 「みおも?」

 身重とは、いわゆる妊娠の状態にあるということである。

 いわゆる、新たな命が誕生する兆しだ。

 その明かされた事柄について、エンサイは言葉がでなかった。

 それは無理もない話である。

 最近まで、自分と一緒に日常的に行動していた姉貴分なのだから・・・。

 だから少年にとって、その事実だけでも衝撃である。

 エンサイの気持ちは、もろくも崩れていた。

 だから少年は何も言わずに、その里の人間の目の前から姿を消した。

 里のモノも、エンサイに対してこれ以上何も語ろうともしなかった。

 

 その夜、少年は考えを張り巡らせていた。

 そして彼は、自分自身の考えを整理するのに、それほどの時間は要さなかった。

 というのも、エンサイは薄々気がついていたのだ。

 現在、この忍びの里が置かれている状態を・・・・。

 いわゆる圧力が掛けられているのだ。

 そして、その圧力の震源が何者なのであるのかも、少年は悟っていたのである。

 それには理由があった。

 当のサワラが、頭目の屋敷で養生していることが、その根拠の一つである。

 (・・・・・・。)

 少しの間を置いた。

 もう迷うことはない。

 エンサイは行動を起こる事を決断し、翌日の備え眠りに就いた。


 「なんだ、エンサイ。」

 その屋敷の前で、少年は男に呼び止められた。

 少年に声を掛けた彼は、頭目の取り巻きと言える立場の人間であった。

 この屋敷の警護の役割を担っている。

 かつては恐れ知らずだったエンサイ少年でも、一目を置いていた存在である。

 ましては盲目となった彼にしてみれば、到底実力的に叶う相手ではなかろう。

 男もエンサイが薬品に侵され、身体を壊していたことは承知だったので、態度と言動に聊かの余裕が感じられた。

 その様な状況であったとしても少年忍者エンサイは、これを打ち破らなければいけない訳がある。

 「頭領に会わせろ。」

 躊躇の様子は微塵もなくエンサイは、屋敷の門番に対して要件を伝えた。

 「・・・・なんだと・・・・。」

 少年の強気な態度に対して、警護の男は明らかに想定外、と言った様子なのであった。

 そして男は、ある違和感に気が付いたのである。

 「お、お前・・・・。」

 男は何かを言わんとしていた。

 そんな彼の言動にも、エンサイはお構いなしであった。

 「頭領はどこだ。」

 その少年の言葉には、極めて強く重い何かが込められているのは間違いが無かったのである。


 「まさか、お前・・・・。」

 男は相変わらずである。

 「まさか、何だ?」

 エンサイは動じない。

 それは心理的な力関係が、逆転した事を意味するのであった。

 「・・・・見えているのか・・・。」

 門番の男は気が付いていたのだ、少年の異変を・・・。

 「俺が見えているのか・・・。」

 そう男が言う通り、エンサイは見えているのだ。

 しかし男は本当の事までは、理解していなかった。

 見えているという意味を・・・・。

 

 「帰れ・・・。」

 門番は文字通り少年に、門前払いの宣告をした。

 しかし、その言葉には力強さが無かった。

 むしろ、そこには恐れが含まれていた。

 そしてそれは、男が少年に勝てない事を意味していたのである。

 当然エンサイは、怯えている男の命令など聞くはずも無かった。

 「帰れ・・・。」

 そのセリフを吐くや否や、門番の男はエンサイの前から瞬間的に姿を消した。

 それは戦闘開始の合図であった。

 風と風が鋭い音を立てる。

 肉と肉が歯ぎしりをする。

 しかしそれは対等では無かった。

 正に一方的な、肉体の研削であった。

 「ぐはっ・・・。」

 その声を立てた、次の場面に片方の人物が姿を現した。

 というよりも、人物の動きが止まったのだ。

 「ぐ、ぐぶぶぶ・・・。」

 門番の男は仰向けに倒れ込み、悶絶していた。

 「入るからな。」

 男が会話できる状態でない事を悟ったエンサイは、そのまま屋敷に入る事を選択した。

 「ぐぶぶ・・・。」

 敗北し少年を屋敷の中に入れたことにより、自分の命が脅かされると知っている男は、声にならない呻きを上げてもがき続けていたのだった。

 そして彼が気づいたことは合ってはいたが、ある意味違っていた。

 少年忍者エンサイは、今も変わらず失明状態である。

 しかし門番の男の動きは見えている。

 そう・・・エンサイは、飛躍的に自分自身の感覚を向上させ<心眼>というものを手に入れたのだった。

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