過去6
自分の弟分であるエンサイが視力を失い、サワラは一人で与えられた任務をこなしていた。
少年は視力だけでなく、体力も失っていた。
エンサイの不幸は瞬く間に、忍びの里の住人の皆が把握することとなった。
それはまさに、稽古でエンサイに殺された者達の家族にとって、復讐の好機と言えるのであった。
だが、そう簡単には、彼らの都合良く事は運ばなかった。
結果的に、彼らは少年に対して一切の制裁を加えなかったのだった。
それに関しては、一体どうゆう背景があったのであろうか。
実を言うと、みえない力が働いていたのだ。
エンサイには加護があったのだ。
頭領による、いやむしろサワラからの、無言の圧力が忍びの里に行き渡っていたのだ。
しかし、その事は少年を、さらに深く傷つけることとなったのである。
いままで、その強さで思いのままの振る舞いを、このエンサイはしてきた。
そして何人もの里の住人の命を奪い、その周りの人間も傷つけたきたのだ。
だが彼は、その強さを失った。
本来なら、もはや少年は忍びの里においては、虐げられる存在・・・・。
そんな自分に何の手も出さない、里に人間に対して、猶更エンサイは嫌悪感を持つのだった。
・・・・むしろ今までの恨みを受け止めたいとさえ、彼は思っていたのである。
任務を解かれ、少年は何の目的もなく里をフラフラと歩いていた。
「・・・・。」
「姉御か・・・・。」
視力は失っていていても、エンサイはサワラの姿を、その眼で捉えていたのだった。
二人は対峙していた。
「エンサイ・・・。」
少年の指摘通り、彼の目の前には姉貴分のサワラがいたのだ。
「あんた、何をしてるんだい。」
彼女の言葉は、今のエンサイには何も響くものは無かった。
「な、何も・・・。」
少年の相槌には、気持ちがこもっていない。
「忍びの務めをするんだよ。」
サワラは非常に抽象的なセリフを、エンサイに投げかけた。
しかし、その意味を少年は理解をしていた。
「今の俺に何が・・・・。」
エンサイは自分自身の未来について、全く悲観的であった。
そこで思わぬ行動を、くノ一は少年の忍びに対して、起こしたのだった。
====== ビュッ =======
エンサイの右の頬に、切り傷が現れる。
勿論、負傷を意味する赤い液体が、少年の頬を伝っていた。
「あ、姉御・・・・。」
流石に少年エンサイは、この状況に困惑していた。
「・・・・。」
くノ一サワラは、言葉を発さない。
くノ一サワラは、その表情を変えない。
くノ一サワラは、攻撃をする。
くノ一サワラは、盲目の少年に対して危害を加えようとする・・・・。
「ふ・・・・、ふう・・・・。」
エンサイは傷だらけになっていた。
「な、何故だ・・・。」
少年は、自分の姉貴分に問いかける。
しかし、それに対しての返答はない。
さらにエンサイは続けた。
「何故、一思いにオレを殺さない・・・・。
姉御なら、簡単にできるはずだ。」
少年の額から、粘度の高い汗が噴き出てきた。
「・・・・・・。」
それでもサワラは、何もエンサイに語らない・・・。
====== ビャッ ======
さらに彼女から、少年に対して攻撃が加えられた。
「ぐっ・・・。」
また一つ切り傷が、エンサイの身体に刻み込まれた。
「お、俺をなぶり殺しにしようってのか!?」
少年の興奮が、まさに頂点に達した。
そして結果的に、その事は彼の投げやりな行動を誘発したのだ。
「っふ・・・。」
何とエンサイは、その場に仰向けに寝っ転がったのだった。
「・・・・・。」
相変わらず、サワラは無言だ。
「さあ、殺れ。」
少年は、この状況を打破・・・、いや終局させるために、この行動をとったのである。
それも、自分自身の命の終了という形を望んで・・・・。
====== グビュウ =======
次の瞬間、鈍い音が地面に響いた。
無情にも、このくノ一サワラは、戦意を失った少年に追い打ちを加えたのだ。
その結果であるが・・・・。
彼女の表情は変わらない。
それはサワラには、分かっていたという事なのだろうか・・・・。
彼女の攻撃を、少年が瞬時にかわせるという事を・・・・。




