表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
イギョウ  作者: らすく
18/33

過去5

 「くっ・・・。」

 気持が萎えたのか、少年エンサイは膝をついた。

 それは稽古とはいえ、彼の敗北を示していた。

 何故、自分の実力が叶わないのか、本当は自分自身でも分かっていた。

 そう、サワラもエンサイと同じく、薬品を投与されていたのだから。

 今までの人生において最大の屈辱を、この少年エンサイは感じていた。

 そして今日の稽古相手のサワラは、エンサイに背中を向けて去り始めた。

 それもゆっくりとした歩みである。

 もしも少年が彼女の背後から、襲い掛かれば形成が逆転する可能性はあるのではなかろうか。

 それともサワラは、エンサイの反撃を誘っているのではないのだろうか・・・。

 しかし彼女がみせた意図的とも思える行動に対して、少年は何の反応も示さなかった。

 これ以上の屈辱を重ねる事は、エンサイの誇りが許さなかった。

 

 その夜、少年エンサイは眠れない。

 その理由は明白であった。

 自身が姉と慕う、くノ一サワラに立ち合い稽古で敗北したからである。

 そのことが、最近のエンサイの自信を打ち砕いた。

 サワラからしたら、まだ成長過程の少年が薬品により、不自然な強さを手に入れることに不安を持っていた。

 だから、その戒めの為に、エンサイに敗北を教えたのだ。

 しかし、まだ精神的に幼いエンサイには、サワラの自分に対する心配は理解ができていなかった。

 ======      ======

 音はしない。

 無音である。

 だが少年にとっては、それが耳障りであった。

 かといってエンサイは、意識を持ったまま寝ていたのだった。

 目をつむったまま、少年は思った。

 ====== おまえは誰だ ======

 自分の前に、人影が立って見下ろしている。

 それは恐らく、男性であろうか。

 何も言わずに、彼は立っているままだ。

 まだエンサイは目を閉じていたが、それでも状況は把握している。

 少年は目視したいし、今すぐ飛び起きたいのである。

 しかし、それはしなかった。

 というよりも、できなかったのであった。

 「だ、誰だ・・・・。」

 いつもの威勢のよさは、どこに行ったのか・・・。

 少年エンサイには、警戒心と不安を隠そうという余裕はない。

 この世のモノとは思えない存在感に、彼はたじろぎ、身動きが取れなかったのだ。

 その様は、やはりエンサイは、まだ子供なのだと伺うには十分な事実なのであった。

 「うっ・・・。」

 その黒い影は、その場にしゃがみこんだ。

 それは影が、少年の至近距離に顔を持ってきたこと意味する。

 黒い影の吐息が、エンサイの頬にかかってきた。

 それが少年の感情が、恐れから怒りに変わった瞬間であった。

 エンサイは黒い影の顔を、グッと睨みつけたのである。


 「・・・・・っ・・。」

 蛇に睨まれた蛙、とは正に、この事なのだろうか。

 少年エンサイは、まるで何者かにガッチリと体を固められたかの如く、微動だにできなかったのである。

 実際は彼の身体ではなく、精神を束縛されている、と言った方が適切であろうか。

 「はっ・・・・・。」

 お互いの鼻と鼻が、接触する寸前であった。

 お互いの目と目が、あった・・・。

 そこには何もなかった。

 無であった・・・・。

 黒い人影の顔は、無い・・・。

 エンサイの緊張感が頂点に達するかという、その時であった。

 ====== 俺が欲しいのか ======

 その言葉は、黒い人影から発せられたのであろうか。

 しかし、少年にとっては、それはどうでもよかった事なのである。

 何故なら、その言葉は少年が臨んだことなのだから・・・。

 そしてエンサイは軽く顎を上下させた。

 それは強さを求める少年の、その黒い人影の問いに対する肯定を意味していたのであった。

 エンサイの意志が通じたのか、黒い人影の顔がさらに接近してきた。

 それはもはや接近ではない。

 ・・・・融合であった・・・。


 それから・・・・。

 エンサイは、さらに飛躍的な強さを手に入れた。 

 しかしその力を以て、サワラに再戦を挑むことは無かった。

 それは己の鍛錬によって得た力ではないという、自覚からきているのかも知れない。

 もしサワラに自分の実力を見せつけても、それは非常に空しいものであるという事が、少年には分かっていたのであろう。

 再びエンサイはサワラと組み、次々と任務をこなしていく。

 それは少年が、最近の彼女との確執を忘れようとしている為のようであった。

 そして彼らの前では、強敵も強敵とは呼べなかった。

 その間、少年が気が付いていたのだった。

 自分自身の身体に異常が起こっている事を・・・。

 しかしエンサイは、気が付かなかった。

 気が付かないふりをしたのだ・・・。

 そして、その異変の結末を迎えるには、それほどの時間は要さなかった。

 ・・・・エンサイは視力を失った。

 超人的な体術も、失った。

 だが、命は残った・・・。

 それは、このまま、この状態を続けると命を失うという危険を、少年の身体が本能的に回避したという事なのかも知れない。

 そんな少年を、変わらずサワラは見守っていた。

 

 しかし彼女には、それ以上に残酷な運命が待っていたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ