過去4
「覚悟しろ、坊主・・・。」
そういった主犯格の忍びは、自分の目の前で鎖鎌を振り回していた。
後の三人も、各々が得意とするであろう武具を手に持っていた。
「おっさん・・・。」
この四人の忍びとは、家族同然の間柄だった。
しかし、その関係を壊したのは、外ならぬ少年エンサイ自身だった。
チラッとエンサイは、この忍び達の顔を一巡に見回した。
そして少年は、再確認したのである。
この四人とも全員の肉親を、自分が稽古の最中に殺害した事を・・・・。
許されるはずがない・・・。
少年エンサイは、許されない・・・・。
自分を大切に育ててくれた人たちを、不幸のどん底に叩き落してしまったのだから・・・。
「おっさん・・・。」
少年は、自分の背中の忍び刀を握りしめた。
エンサイは、どちらかが死なねば、この場が終わらないことを悟った。
===== ポタポタ =====
それは赤い液体が地面に、したたり落ちる音である。
その場には、少年が一人で立っていた。
彼は傷を負っていたものの、致命傷では無かった。
恐らくエンサイ自分自身の、自然治癒力で回復できるであろう。
エンサイは四人の忍びを殺害した。
手練れの忍び四人がかりでも、この少年を葬り去ることができなかったのだ。
このことにより、頭領がエンサイに投与した薬品の効果により、飛躍的な戦闘力の向上が起こったことが示された。
そして恐らく今回の少年エンサイによる殺害も、この忍びの里は不問にするであろう。
何故なら、これは頭領の薬品の研究の過程には、必要不可欠な犠牲なのだから・・・。
「・・・・。」
特に呼吸を乱すこともなく少年は、この現場を去って行った。
しかしエンサイは、ここにあった、もう一人の気配を見抜けなかったのである。
「エンサイ・・・。」
その若い女性は、少年の名を呟いていた。
そして、その眼には涙が溢れていた。
その人通りの少ない路地での戦闘の翌日・・・・。
勿論、四人の忍び達は、里の住人に発見された。
彼らは仲間の屍をみて、恐怖した・・・。
その感情は、過去ではなく未来に向けてのモノだった。
それは、無残にも葬りされれた四人に対してではない。
仲間に対して、それは薄情だとは住人達自身は承知だ。
しかしそれでも、そのようにしか思考ができないのだった。
明日は我が身、であるという事を・・・・。
そして皆の予想通りに、その殺害の下手人探しは行われなかった。
数々の犠牲者を出しながらも、連日の稽古は続けられていた。
忍びの里の頭領が、その様子を真剣な眼差しで眺めている。
そして、その経過に彼は目を細めた。
今日は、これまでにはない、取り組み合わせなのだ。
いや、むしろ、これまで二人が殆ど取り組まなかったことが、不自然だったのかも知れない。
最近までのエンサイは、あくまで子供であり、その年齢に相応な評価でしかなかった。
少年エンサイに対しては、その相手は稽古をつけてあげる、といった感じだったのだ。
しかし、ご存じの通り、その状況は一変した。
頭領による薬物の投与により、超人的な戦闘力を手に入れたのだ。
そして、その代償は非常に大きなものであった。
稽古であるにも関わらず、そのエンサイの殺傷能力の余りに高さに、稽古相手の死傷が連日発生した。
それでも頭領は方針を全く変えずに、少年エンサイに稽古を取らせた。
そして、いつしかエンサイの相手にされる忍び達は、気が付いたのだ。
自分たちは、頭領と少年にとっての、実験台に過ぎない事を・・・・。
だから忍びの里の住人は、もはやエンサイと戦闘を交えようとは思わなかった。
もう、この少年との稽古は、いわゆる公開処刑と、里の住人は認識していた。
しかし、今回は勝手が違っていた。
このことにより、頭領だけではなく、里の住人達も大きな興味を持ち、稽古の展開を見守っているのだった。
「はあっ!!」
威勢の良い声を上げるも、思い通りにいかない。
今度の稽古相手は、今までの様には事は運べない。
少年エンサイの攻撃は、全て少しのところでかわされ、致命傷を与えることは出来ない。
エンサイが、手を抜いているわけではない。
それがたとえ、少年が好意を寄せている相手であったとしても・・・。
激しい動きをみせるエンサイの額に、粘度の高そうな汗がダラダラと滲む・・・。
自分の思い通りにならないことで、苛立っている少年の姿は、その本人だけではなく周囲も戸惑わせた。
まさか、である。
里の住人たちは、誰しも信じられない、と言った表情である。
そして皆、思った。
====== エンサイが敗北する =======
しかい冷静な表情で一人だえ頭領は、その様子を眺めていたのであった。




