過去3
「ふっ!!はっ!!」
その体の切れは、抜群のモノであった。
前回の任務の時よりも、格段に戦闘能力は向上していた。
大きく体調を崩した後の、病み上がりにも関わらず・・・。
「うおっ!」
少年の相手が、体制を崩し、その場に倒れ込んだ。
この男は、忍びの里でも1、2番を争うほどの手練れである。
その少年の実力に対して、周りの忍び達は、正に驚愕の感情で体が凍り付いていた。
しかし、その集団の中にあって、全く異なる解釈をしている人物が二人いた。
その一人は、非常に満足げな表情で腕を組んでいた。
言うまでもない・・・。
その彼は、この忍びの里の頭領である。
彼は、自分が少年エンサイに投与した薬品の効果に対し、予想以上の効果を感じていた。
「ふ・・・。」
頭領は不敵な笑みを浮かべ、ほんの少しだけ声を漏らす。
「どうだ!!サワラ!!」
手練れの男に実力を示した少年エンサイは、得意げに右こぶしを上げ、サワラの方に自分の身体を見せつけるように向けた。
そんな少年を見つめサワラは、とても寂しげな笑みをみせていた。
これから起こる悲劇を、すでに彼女は予感していたかも知れない。
「はっ!!」
「ぐはっ・・・。」
その少年は、とても鮮やかな動きで、目の前の敵を地面に這いつくばらせた。
「どうだい!」
「ぐ・・・。」
少年エンサイは自慢げに、うつ伏せに倒れ込んだ敵の顔を右足で踏みつけていた。
「この・・・!」
屈辱を受けた敵は、地面から体制を立て直し、再びエンサイに襲い掛かろうとした。
「ムダ!」
「・・・・か。」
その敵の喉笛から、赤い血しぶきが宙を舞った。
あっさりと敵は、再び倒れ込み絶命した。
「っふっふふ・・・。」
赤い水滴を顔に受けた少年は、それを、まるで気にする雰囲気もなく自信に満ちた表情で立っていた。
まさしく相手の痛みを想像する事など、彼にとっては皆無なのであろう。
もし悪魔が実在するとしたら、この少年の様な顔なのだろうか。
元来、純真無垢であった少年が、悪意に満ちた存在に変わっていくことを、彼女は見続けていた。
その名は、くノ一・サワラ・・・。
彼女自身もエンサイとともに、薬品を投与されている・・・・。
その効果が少年の方が顕著なのは、エンサイの方が、よし幼く成長期であり、薬品に体質を変化させられたからなのかもしれない。
そんな変わり果てた少年エンサイと、ともに任務にあたっていたサワラは、その居た堪れない気持ちを必死にこらえていた。
日に日に薬品に毒されている、自分の弟も同然の少年を傍で見つめながら・・・。
彼が通ると、人は道を開ける。
誰しも彼とは、もめ事を起こす事を適切だとは思わない。
それが忍びの里という、戦闘集団であったとしてもだ・・・・・。
そんな周囲の態度に、少年エンサイは得意げな表情を隠そうともしなかった。
もはや、里の大人たちに可愛がられていた、かつての少年はもういない。
そこを歩いているのは、少年の外見をした殺人機械だ。
もともと少年なので、余計な事は考えない。
彼は、純粋なのだ。
その無邪気な故の残虐さを、周囲の人間は恐れを抱いているのだ。
もうエンサイは、最近の稽古で数人の忍びを死に至らしめている。
そして、そんなエンサイに対して、特にお咎めは無かった。
忍びが殺されて、その裁きを求めるなど、道理に合わない。
忍びにとって、殺害という行為は、任務の一つなのだから。
だから皆、エンサイに対して心中で憎しみは抱いても、決して口には出さなかった。
たとえ大切な肉親を、少年に殺された、としてもだ。
それが稽古という形式を、成している以上は・・・。
「ん?」
エンサイは異変に気が付いた。
今ここは、人通りの少ない場所である。
その通り、人の姿はない。
しかし・・・・、少年は気づいていた。
「一人、二人・・・・。」
エンサイは呟いた。
「四人というところか・・・。」
それは少年らしくない、極めて落ち着いた口調であった。
「ちっ・・・!」
一人の忍びが、少年の前に姿を現した。
よく見ると、この忍びはエンサイを幼い事から、よく世話をしてくれた男だ。
しかしエンサイからすると、まるで今までとは別人かと思う雰囲気であった。
その忍びからは、憎悪しか発せられていなかった。
「おっさん・・・・。」
少年は分かっていた。
何故この男から、憎しみを買っているのかは、エンサイは承知していた。
エンサイは、数日前の稽古で男の息子を殺害したのだ。
そして、その男の息子も、またエンサイに対して日頃から家族の様に接していたのだった。
そんな兄弟同然の相手を、エンサイは加減もせずに死に至らしめた。
「エンサイ・・・・死ね・・。」
先ほどの、少年の推測通りの人数・・・。
気が付くとエンサイは、四人の忍びに取り囲まれていた。




