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イギョウ  作者: らすく
16/33

過去3

 「ふっ!!はっ!!」

 その体の切れは、抜群のモノであった。

 前回の任務の時よりも、格段に戦闘能力は向上していた。

 大きく体調を崩した後の、病み上がりにも関わらず・・・。

 「うおっ!」

 少年の相手が、体制を崩し、その場に倒れ込んだ。

 この男は、忍びの里でも1、2番を争うほどの手練れである。

 その少年の実力に対して、周りの忍び達は、正に驚愕の感情で体が凍り付いていた。

 しかし、その集団の中にあって、全く異なる解釈をしている人物が二人いた。

 その一人は、非常に満足げな表情で腕を組んでいた。

 言うまでもない・・・。

 その彼は、この忍びの里の頭領である。

 彼は、自分が少年エンサイに投与した薬品の効果に対し、予想以上の効果を感じていた。

 「ふ・・・。」

 頭領は不敵な笑みを浮かべ、ほんの少しだけ声を漏らす。

 「どうだ!!サワラ!!」

 手練れの男に実力を示した少年エンサイは、得意げに右こぶしを上げ、サワラの方に自分の身体を見せつけるように向けた。

 そんな少年を見つめサワラは、とても寂しげな笑みをみせていた。

 これから起こる悲劇を、すでに彼女は予感していたかも知れない。


 「はっ!!」

 「ぐはっ・・・。」

 その少年は、とても鮮やかな動きで、目の前の敵を地面に這いつくばらせた。

 「どうだい!」

 「ぐ・・・。」

 少年エンサイは自慢げに、うつ伏せに倒れ込んだ敵の顔を右足で踏みつけていた。

 「この・・・!」

 屈辱を受けた敵は、地面から体制を立て直し、再びエンサイに襲い掛かろうとした。

 「ムダ!」

 「・・・・か。」

 その敵の喉笛から、赤い血しぶきが宙を舞った。

 あっさりと敵は、再び倒れ込み絶命した。

 「っふっふふ・・・。」

 赤い水滴を顔に受けた少年は、それを、まるで気にする雰囲気もなく自信に満ちた表情で立っていた。

 まさしく相手の痛みを想像する事など、彼にとっては皆無なのであろう。

 もし悪魔が実在するとしたら、この少年の様な顔なのだろうか。

 元来、純真無垢であった少年が、悪意に満ちた存在に変わっていくことを、彼女は見続けていた。

 その名は、くノ一・サワラ・・・。

 彼女自身もエンサイとともに、薬品を投与されている・・・・。

 その効果が少年の方が顕著なのは、エンサイの方が、よし幼く成長期であり、薬品に体質を変化させられたからなのかもしれない。

 そんな変わり果てた少年エンサイと、ともに任務にあたっていたサワラは、その居た堪れない気持ちを必死にこらえていた。

 日に日に薬品に毒されている、自分の弟も同然の少年を傍で見つめながら・・・。


 彼が通ると、人は道を開ける。

 誰しも彼とは、もめ事を起こす事を適切だとは思わない。

 それが忍びの里という、戦闘集団であったとしてもだ・・・・・。

 そんな周囲の態度に、少年エンサイは得意げな表情を隠そうともしなかった。

 もはや、里の大人たちに可愛がられていた、かつての少年はもういない。

 そこを歩いているのは、少年の外見をした殺人機械だ。

 もともと少年なので、余計な事は考えない。

 彼は、純粋なのだ。

 その無邪気な故の残虐さを、周囲の人間は恐れを抱いているのだ。

 もうエンサイは、最近の稽古で数人の忍びを死に至らしめている。

 そして、そんなエンサイに対して、特にお咎めは無かった。

 忍びが殺されて、その裁きを求めるなど、道理に合わない。

 忍びにとって、殺害という行為は、任務の一つなのだから。

 だから皆、エンサイに対して心中で憎しみは抱いても、決して口には出さなかった。

 たとえ大切な肉親を、少年に殺された、としてもだ。

 それが稽古という形式を、成している以上は・・・。

 

 「ん?」

 エンサイは異変に気が付いた。

 今ここは、人通りの少ない場所である。

 その通り、人の姿はない。

 しかし・・・・、少年は気づいていた。

 「一人、二人・・・・。」

 エンサイは呟いた。

 「四人というところか・・・。」

 それは少年らしくない、極めて落ち着いた口調であった。

 「ちっ・・・!」

 一人の忍びが、少年の前に姿を現した。

 よく見ると、この忍びはエンサイを幼い事から、よく世話をしてくれた男だ。

 しかしエンサイからすると、まるで今までとは別人かと思う雰囲気であった。

 その忍びからは、憎悪しか発せられていなかった。

 「おっさん・・・・。」

 少年は分かっていた。

 何故この男から、憎しみを買っているのかは、エンサイは承知していた。

 エンサイは、数日前の稽古で男の息子を殺害したのだ。

 そして、その男の息子も、またエンサイに対して日頃から家族の様に接していたのだった。

 そんな兄弟同然の相手を、エンサイは加減もせずに死に至らしめた。

 「エンサイ・・・・死ね・・。」

 先ほどの、少年の推測通りの人数・・・。

 気が付くとエンサイは、四人の忍びに取り囲まれていた。

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