過去2
「ぐぐ・・・。」
薬品を飲み終えたエンサイは、まだ苦悶の声を漏らしていた。
サワラも声こそは出さなかったものの、眼をつむり腹部を押さえジッとしていた。
「・・・・・・・。」
少しだけ痛みが和らぎかけたサワラは、薄目を開けた。
彼女に目の前には、誰も立っていなかった。
そしてサワラは、少しだけ視界を動かした。
その先には、ゆっくりとした足取りで頭目が去って行く姿が見えた。
「・・・・・・・・。」
彼女は沈黙のセリフを吐いた。
それは限りなく、絶望に近いモノであった。
そのうちサワラは、些細な異変に気が付いた。
自分の手が湿って生きていることを・・・。
そして、その水分は己の瞳から出でる液体であるのも、ほどなく悟ったのである。
その訳は、サワラが信じていた愛情が、自分の一方的なものであるという事を知ったからなのであった。
彼女の相手が、人間性の欠片も存在していない事は、先ほどから明白なのである。
くノ一・サワラは、自分の身体の涙を出す機能を存分に使用したのであった。
勿論、彼女の傍にいた少年エンサイが、何もできずに居た堪れない状態にいたのは言うまでもない・・・。
「ぐっ!!」
「はあっ・・・・!」
次々と手練れのモノたちが、体制を崩し倒れていく。
するとそこには、若い女性と少年の二人組が立っていた。
そう、サワラとエンサイなのである。
各々に得意とする武具を持った屈強な男たちが、姉弟かと思える二人に対して完全な敗北を喫したのであった。
もともとの天性の格闘センスを持つサワラとエンサイだが、目の前の結果は決して彼らの力によるものだけでは無いことが、明白な状況である。
それはまるで、獣・・・、いや身長が軽く2メートルを超えるような大男が行った所業なのかと、誰もが思うのではなかろうか。
まさしく力による蹂躙というものを、このサワラとエンサイは成し遂げていたのである。
「す、すげえ。」
倒れている大人が達を前にして、少年は両腕をブルブルと震わせていた。
それは恐れから来るものでないのは、彼の様子からは明白であった。
そう、それはこれからの自分自身の成長に対して、底知れない期待と好奇心が同居している恍惚の表情・・・・。
つまりエンサイは、自分自身の戦闘の結果に狂喜していたのである。
しかし彼とは対照的に、俯き加減に黙り込む女の姿があった。
「頭領・・・。」
彼女の頭領に対する不信感は、疑問から確信に接近していた。
サワラは自分が人としては、異質なものになっていくのを肌で感じていた。
そして彼女は薄々と、気づき始めていた。
これは初めから自分に対して義務付けられた、いわゆる宿命というものではないのか、という事を・・・。
サワラは過去を思い出した。
妹のサメとともに、両親を失い彷徨っていた日々を・・・。
行く当てもなく、いつまで自分たちは生きていけるのだろうか、と思っていた。
しかし、ある日、彼女達は保護をされた。
とある忍び、にである。
その忍びは、今の頭領であった。
その忍びは、幼いサワラとサメを、特段に可愛がった。
それ故に、サワラは忍びに、とても懐いていた。
そう、彼女なりに幸せな環境で、成長していったのだ。
たとえ厳しい修業に日々、耐えなければいけないとしても・・・。
うれしい事も、つらい事も、全ては無償の愛情によるものであると、サワラは信じていたのだった。
しかし・・・・、それは彼女の希望的観測・・・・。
何もかも打算的な下心による、その忍びから少女への仕打ちなのかもしれない・・・。
「う、うう・・・。」
「・・・・!」
一瞬にしてサワラは、ふと我に返った。
「エンサイ!?」
少年は顔を押さえ、その場に蹲っていた。
「くっ・・。」
もはや彼女は、躊躇している場合では無かった。
サワラはエンサイを抱きかかえ、必死の速さで忍びの里に連れ帰った。
その道中、彼女は感じていた・・・。
自分が身も心も、侵されていることを・・・・。
自分自身は勿論、この幼い少年も、薬品なるものに身体が蝕まれている最中であることを・・・・。




