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イギョウ  作者: らすく
15/33

過去2

 「ぐぐ・・・。」

 薬品を飲み終えたエンサイは、まだ苦悶の声を漏らしていた。

 サワラも声こそは出さなかったものの、眼をつむり腹部を押さえジッとしていた。

 「・・・・・・・。」

 少しだけ痛みが和らぎかけたサワラは、薄目を開けた。

 彼女に目の前には、誰も立っていなかった。

 そしてサワラは、少しだけ視界を動かした。

 その先には、ゆっくりとした足取りで頭目が去って行く姿が見えた。

 「・・・・・・・・。」

 彼女は沈黙のセリフを吐いた。

 それは限りなく、絶望に近いモノであった。

 そのうちサワラは、些細な異変に気が付いた。

 自分の手が湿って生きていることを・・・。

 そして、その水分は己の瞳から出でる液体であるのも、ほどなく悟ったのである。

 その訳は、サワラが信じていた愛情が、自分の一方的なものであるという事を知ったからなのであった。

 彼女の相手が、人間性の欠片も存在していない事は、先ほどから明白なのである。

 くノ一・サワラは、自分の身体の涙を出す機能を存分に使用したのであった。

 勿論、彼女の傍にいた少年エンサイが、何もできずに居た堪れない状態にいたのは言うまでもない・・・。


 「ぐっ!!」

 「はあっ・・・・!」

 次々と手練れのモノたちが、体制を崩し倒れていく。

 するとそこには、若い女性と少年の二人組が立っていた。

 そう、サワラとエンサイなのである。

 各々に得意とする武具を持った屈強な男たちが、姉弟かと思える二人に対して完全な敗北を喫したのであった。

 もともとの天性の格闘センスを持つサワラとエンサイだが、目の前の結果は決して彼らの力によるものだけでは無いことが、明白な状況である。

 それはまるで、獣・・・、いや身長が軽く2メートルを超えるような大男が行った所業なのかと、誰もが思うのではなかろうか。

 まさしく力による蹂躙というものを、このサワラとエンサイは成し遂げていたのである。

 「す、すげえ。」

 倒れている大人が達を前にして、少年は両腕をブルブルと震わせていた。

 それは恐れから来るものでないのは、彼の様子からは明白であった。

 そう、それはこれからの自分自身の成長に対して、底知れない期待と好奇心が同居している恍惚の表情・・・・。

 つまりエンサイは、自分自身の戦闘の結果に狂喜していたのである。

 しかし彼とは対照的に、俯き加減に黙り込む女の姿があった。


 「頭領・・・。」

 彼女の頭領に対する不信感は、疑問から確信に接近していた。

 サワラは自分が人としては、異質なものになっていくのを肌で感じていた。

 そして彼女は薄々と、気づき始めていた。

 これは初めから自分に対して義務付けられた、いわゆる宿命というものではないのか、という事を・・・。

 サワラは過去を思い出した。

 妹のサメとともに、両親を失い彷徨っていた日々を・・・。

 行く当てもなく、いつまで自分たちは生きていけるのだろうか、と思っていた。

 しかし、ある日、彼女達は保護をされた。

 とある忍び、にである。

 その忍びは、今の頭領であった。

 その忍びは、幼いサワラとサメを、特段に可愛がった。

 それ故に、サワラは忍びに、とても懐いていた。

 そう、彼女なりに幸せな環境で、成長していったのだ。

 たとえ厳しい修業に日々、耐えなければいけないとしても・・・。

 うれしい事も、つらい事も、全ては無償の愛情によるものであると、サワラは信じていたのだった。

 しかし・・・・、それは彼女の希望的観測・・・・。

 何もかも打算的な下心による、その忍びから少女への仕打ちなのかもしれない・・・。

 

 「う、うう・・・。」

 「・・・・!」

 一瞬にしてサワラは、ふと我に返った。

 「エンサイ!?」

 少年は顔を押さえ、その場に蹲っていた。

 「くっ・・。」

 もはや彼女は、躊躇している場合では無かった。

 サワラはエンサイを抱きかかえ、必死の速さで忍びの里に連れ帰った。

 その道中、彼女は感じていた・・・。

 自分が身も心も、侵されていることを・・・・。

 自分自身は勿論、この幼い少年も、薬品なるものに身体が蝕まれている最中であることを・・・・。

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