過去
===== 過去 =====
この物語の登場人物の一人である、盲目の男の過去について語ることにした。
彼は戦災による孤児であった。
家族を失い、行く当てもない・・・・。
この時代は統一国家としての体を成してなく、弱者への救済などは不可能だったのだ。
そして幼かった少年は、忍びの里に拾われた。
そのままであったら恐らく、そう遠くない時期に、彼の命は絶えていたことであろう・・・。
しかしそこで、か弱く幼い少年に救いの手が差し伸べられたのだ。
それは哀れみからではなく、利己的な理由によるものであったのだが・・・。
まず食の面から、少年は施しを受けた。
いままで干からびそうだった彼の身体は、みるみるうちに回復していったのであった。
そこでは栄養学的には何不自由もなく、彼は育てられていったのだった。
さらに人格の形成においても、彼は大きな問題もなく成長したのである。
忍びの里には同世代の子供たちも何人かおり、対人関係でも他人から吸収し学べる要素が大いに存在した。
いつしか彼は、忍びの里では希望の星となっていた。
成長した少年は、まさに群を抜いた身体能力を持っていたのだった。
しかしその事が、彼の運命を狂わす結果になるとは、当の本人は勿論、周りも想像だに得なかった・・・。
「エンサイ」
「姉さ・・・。」
少年の名は、エンサイである。
お互いを呼び合う二人は、本当に実の姉弟の様であった。
その少年は、まだ成長途中であったが、忍びの役目を果たすようになっていた。
そして彼が姉と慕う女性は、非常に美しい伊手達であった。
この忍びの里で、もっとも器量に優れているであろう女性ではなかろうか。
そして、この女性は、くノ一としても優れていたのである。
女性ながら、この忍びの里では、最強と言われる忍びの内の一人であった。
「サワラ、エンサイ。」
どうやら彼女の名は、サワラである。
「お、親方・・。」
少年エンサイは、恐れに近い敬意を含んだ声を発した。
二人の前には、忍びの頭目が立っていた。
この男が、後に長老と呼ばれる事になるのだ。
サワラとエンサイは、先ほども触れた様に、実の姉弟ではない。
二人とも戦災の孤児であり、幼い時に忍びの里に保護されたのだ。
無論、全面的な善意ではなく、のちの戦力と考えての事であったのだが・・・。
そして忍びの頭目の考える計画は、次の段階へと移行していくのだった。
そして、その事はサワラとエンサイにとって、不幸な結果をもたらすのであった。
「これじゃ。」
頭目は二人に、あるものを差し出した。
それは一見、団子の様なもので、何が入っているのか全くわからない・・・。
外見上は、食すために作られたものに見える。
しかし、それがただの食べ物では無いことは、サワラとエンサイには分かっていた。
無論、特に裏付けはなく、彼らの直感によるものなのだが・・・。
サワラとエンサイは、頭目から渡されたそれを、言われるがままに食していた。
~~~~~~~~ グググ グイ ~~~~~~~~
「うっ・・・。」
「ぐ・・・。」
たまらずサワラとエンサイは、声を漏らしてしまう。
頭目に対する、気遣いから来るのだろう・・・。
それでも頭目は、腕を組みサワラとエンサイを眺めていた。
苦しそうにする彼らを見ても、頭目は眉一つ動かさなかった。
頭目は二人が異常な状況であることが、まるで当たり前の様に受け止めているのである。
それは若い女性と少年に対しては、余りにも無慈悲な仁王立ちであった。
~~~~~~~~~ ビギツ ビギギイイイ ~~~~~~~~~
それは多くな力で、人体が絞られているの音なのだろうか・・・。
「グヒッ!!」
たまらずエンサイは、限りなく悲鳴に近い声を上げる。
傍のサワラも、苦痛に顔を歪め膝をついている。
~~~~~~~~ グギギヒ グイ ~~~~~~~~
耳に来る音が、変化したのか。
それが何からくるものであるのか、我々には判別がついたようだ。
それはサワラとエンサイの体内から、発せられているのである。
では、その内容は何なのであろうか。
・・・・彼らの筋肉が、引き締まる音なのであった・・・。
それは明らかに、食したものによる作用である。
「ふ、ふうっ。」
サワラが溜息をつく、そして全身が汗ばんでいる。
そしてエンサイも同様の状態であった。
それは疲労とも体調不良とも違った、極めて特殊な変化である。
二人の肉体は何者かに侵されているかの如く、ピキピキと小刻みに震えていた。
そんなサワラとエンサイの姿を眺め、頭目は満足げな笑みを浮かべていたのであった。




