その墓標は誰が建てたのであろうか
この夜は、由太朗は娘と二人でいた。
先ほども言ったが、はっきり言って由太朗は、この娘に対して女を感じていなかった。
彼女が、ガサツすぎるからなのだろうか。
今この娘は地べたに腰を下ろし、胡坐をかいていた。
色気と呼べるものは、何も存在しない。
実際に娘は可愛らしい顔をしているものの、少女というか妹というか、近所の子供の様な感じにしか思えなかった。
それに娘も、由太朗に対して警戒している様子もない。
「なあ。」
「なに?お兄さん。」
娘は、焼いた肉を頬張りながら、相づちを打ってきた。
もう由太郎と、打ち解けたのであろうか。
「お前、誰か探しているのか?」
「わかるの?」
「大体な・・・」
「兄さ・・・。」
「兄さ?」
「兄さを探しているんだ。」
彼女は、兄と呼ぶ男を探している。
「でも・・。」
はしたなくも、娘はあぐらを掻いた太ももに両手を置いていた。
もし我々が、その場にいれば目のやり場に困るであろう。
「でも、何だ?」
「ううん・・・。何でもない・・・。」
娘は由太朗から目を背け、うつむいていた。
そして、その表情は、とても悲しそうだった。
「お兄さん、いい人だけど・・・・。」
スクッと、少女は立ち上がった。
もはや脚の痛みは、気にしていない様子だった。
「うん?」
由太郎が、彼女を気にしたのも束の間である。
娘は短刀を振りかざし、由太郎に襲い掛かったのだ。
由太郎は素早く身をかわした。
そして二人の間に、数秒の時が流れた。
「くっ。」
少女は、由太郎に背を向けて去って行った。
勿論、由太郎の能力をもってすれば、彼女を捉えることは容易であろう。
しかし彼は、そのまま立ち尽くしていた。
「・・・。」
由太郎は少女の敵意が何のことであるか、考えていた。
由太郎の元から逃亡したマトは、その場に立っていた。
「兄さ・・・・。」
実はすでに、マトは見つけていたのだ・・・、自分の兄を。
そして兄は少女の希望に反して、生きてはいなかった。
少女は両拳に力を込めていた。
彼女の手から血が滲み出ていた。
マトが掘り返した中に、兄と呼ぶ男はいた。
少女はエンサイの頬に、自分の掌を当てた。
兄の顔は、とても冷たかった。
「・・・・。」
実を言うと、エンサイの顔は原型ではない。
口は引き裂けれていた。
それでも・・・・、マトにとっては兄と慕う男の姿である。
「あっ、兄さっ・・・・。」
それが彼女の感情が、憎しみから悲しみに変わった瞬間であった。
「うっ、うっ・・・。」
彼女の両手に滲み出ていた血は、彼女自身の涙で清められたのである。
マトは、くノ一である前に、一人の少女である。
その娘は、変わり果てたエンサイの亡骸を抱き、その場に身体を崩した。
長い時間が経過し、いや、本当はそれほどの時は経ってはいないのかも知れない。
精神的に、マトは少女から一人の女の顔つきになった。
そして彼女は、目的を果たす決心がついた。
ふと見ると、マトは衣服と整えて横になっていた。
そして彼女は身体を転がし、その空を見上げた。
天候は、非常に安定していた。
その夜空は、綺麗な光沢を放つ黒であった。
だから一面に散りばめられたであろう星が、恐らく隅々まで良く見えたのである。
もっとも当時の人間であるマトには、星座などという概念は全く無かった。
それでも少女は、夜空を舞う星々に対して、好意を抱いていた。
マトにとっては、これはまさに至福の時間である。
「・・・・・・・。」
娘の精神は安定感を増し、考えが整ったのであった。
====== その墓標は誰が建てたのであろうか =====
いや、もうマトには十分わかっていた。
きっと、それは間違いない。
彼女が兄と慕っていたエンサイを殺害したのは、まさにイギョウといえる存在である。




