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イギョウ  作者: らすく
10/33

その夢が、ただの夢とは、彼には思えなかった。

 (こ、これは・・・。)

 由太郎は、やっとの事で掠れるような声で呟いた。

 目の前のことを、まだ現実として受け止められない。

 まさか、こんな事になっているとは。

 その石でできたものは、墓標・・・。

 そして、それに刻まれた名は、・・・な・な・こ・・・。

 何も言えず、何も考えられず、ただ立ち尽くす男、由太郎。

 しかし、その静寂は極めて短かった・・・。


 気配がした。

 (ひっ・・・!)

 それ程大きくない、女性の驚きの声が挙がった。

 その人は、とても弱弱しい物腰である。

 そして、そこには菜々子の母が立っている。

 この家は、村の庄屋・・・。

 勿論、菜々子の母親とは小さい頃からの面識はあった。

 もっとも自分と菜々子が仲良くしているのを、心良くは思っていない、と昔から子供心に由太郎は感じてはいたのだが・・・。

 哀れな事に、菜々子の母は、恐怖で全身がカタカタと小刻みに震えている様子だった。

 その感情が、たとえ自分に対して向けられたもの、と分かっていても彼は腹立ちは微塵も感じなかった。

 か弱い中年の女性に敵意を向けるほど、由太郎は分別のない男ではない。

 もう彼の取るべき行動には、選択の余地はなかったのである。

 ただ立ち尽くしている菜々子の母親に背を向けて、由太郎は速やかに場を去って行った。


 (・・・。)

 もう、ここまでくれば大丈夫であろう。

 見下ろすと村の方には、まだ松明の灯がチラチラと見えていた。

 先ほど松明の灯は、由太郎の実家に向かったのである。

 それ故に由太郎は、自分の母の身を案じた。

 しかし、それほど時間もかからずに、問題ない、と彼は思った。

 何故なら、母は由太郎を見るなり、「出ていけ」と言った。

 思い返せば、既に松明の集団が家に来ることを、母は把握していたと思われる。

 それは、どうしてなのかは、彼には分らないのだが・・・。

 由太郎は、確信している。

 自分の母親は、少なくとも無事である事を。

 由太郎の心は、時折に超人類的な振る舞いをする、母との過去の思い出が張り巡らされた。

 もう青年になる、成長した男子である。

 由太郎は自分の母親が、ただの村人ではないことを悟っていた。

 但し、彼女が何者なのかは、全くわからないのだが・・・。

 あの母が、どうかなるはずはない・・・。

 だから母は由太郎に、すぐに実家を去る事を勧めたのに違いない。

 由太郎は自分自身に、そう言い聞かせた。

 ・・・本当にそうなのだろうか・・・。

 彼の、一人よりの願望なのかもしれない。

 都合の良い、妄想なのかもしれない・・・。

 しかし彼は、ひとまず母親の事を考えるのをやめた。


 彼は、考えている・・・。

 一体どうして、菜々子は死んだのだ・・・。

 今、思い返しても、間違いない。

 あの石碑には幼馴染の、菜々子の名が刻まれていた。

 ・・・考えても、間違いなく答えは出ない。

 由太郎だけの力だけでは、恐らく真相にたどり着けない・・・。

 そう思ったから、彼は歩いた。

 由太朗は村から距離と取って、野宿をすることにした。

 再び、彼は自問する。

 菜々子は、どうして死んだのだろうか。

 考えに考えて、脳内を一周回っても、止めようとはしない・・・。

 いつかは、疲れるに決まっている・・・。

 そして、疲れた・・・。

 自然と、由太朗は眠りについたのであった。

 そのことが、手掛かりを目覚めさせる事となるとは知らずに・・・。


 ==== な、菜々子 ========

 彼女は、無惨な死体となっていた。

 「ぎゃああ!!」

 叫び声を上げる、奈々子の母。

 ======= ・・・・ ============

 (はっ・・・。)

 そこで由太朗は、目が覚めた。

 考え抜いても、出てこなかった答え・・・。

 (そうだ、菜々子は殺されたのだ。)

 その夢が、ただの夢とは、彼には思えなかった。

 あの奈々子は、妄想などではない・・・。

 しかし、一体誰が・・・。

 (・・・・。)

 由太朗は自身の記憶を頼りに、疑問を解決する決心を誓ったのである。

 

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