その夢が、ただの夢とは、彼には思えなかった。
(こ、これは・・・。)
由太郎は、やっとの事で掠れるような声で呟いた。
目の前のことを、まだ現実として受け止められない。
まさか、こんな事になっているとは。
その石でできたものは、墓標・・・。
そして、それに刻まれた名は、・・・な・な・こ・・・。
何も言えず、何も考えられず、ただ立ち尽くす男、由太郎。
しかし、その静寂は極めて短かった・・・。
気配がした。
(ひっ・・・!)
それ程大きくない、女性の驚きの声が挙がった。
その人は、とても弱弱しい物腰である。
そして、そこには菜々子の母が立っている。
この家は、村の庄屋・・・。
勿論、菜々子の母親とは小さい頃からの面識はあった。
もっとも自分と菜々子が仲良くしているのを、心良くは思っていない、と昔から子供心に由太郎は感じてはいたのだが・・・。
哀れな事に、菜々子の母は、恐怖で全身がカタカタと小刻みに震えている様子だった。
その感情が、たとえ自分に対して向けられたもの、と分かっていても彼は腹立ちは微塵も感じなかった。
か弱い中年の女性に敵意を向けるほど、由太郎は分別のない男ではない。
もう彼の取るべき行動には、選択の余地はなかったのである。
ただ立ち尽くしている菜々子の母親に背を向けて、由太郎は速やかに場を去って行った。
(・・・。)
もう、ここまでくれば大丈夫であろう。
見下ろすと村の方には、まだ松明の灯がチラチラと見えていた。
先ほど松明の灯は、由太郎の実家に向かったのである。
それ故に由太郎は、自分の母の身を案じた。
しかし、それほど時間もかからずに、問題ない、と彼は思った。
何故なら、母は由太郎を見るなり、「出ていけ」と言った。
思い返せば、既に松明の集団が家に来ることを、母は把握していたと思われる。
それは、どうしてなのかは、彼には分らないのだが・・・。
由太郎は、確信している。
自分の母親は、少なくとも無事である事を。
由太郎の心は、時折に超人類的な振る舞いをする、母との過去の思い出が張り巡らされた。
もう青年になる、成長した男子である。
由太郎は自分の母親が、ただの村人ではないことを悟っていた。
但し、彼女が何者なのかは、全くわからないのだが・・・。
あの母が、どうかなるはずはない・・・。
だから母は由太郎に、すぐに実家を去る事を勧めたのに違いない。
由太郎は自分自身に、そう言い聞かせた。
・・・本当にそうなのだろうか・・・。
彼の、一人よりの願望なのかもしれない。
都合の良い、妄想なのかもしれない・・・。
しかし彼は、ひとまず母親の事を考えるのをやめた。
彼は、考えている・・・。
一体どうして、菜々子は死んだのだ・・・。
今、思い返しても、間違いない。
あの石碑には幼馴染の、菜々子の名が刻まれていた。
・・・考えても、間違いなく答えは出ない。
由太郎だけの力だけでは、恐らく真相にたどり着けない・・・。
そう思ったから、彼は歩いた。
由太朗は村から距離と取って、野宿をすることにした。
再び、彼は自問する。
菜々子は、どうして死んだのだろうか。
考えに考えて、脳内を一周回っても、止めようとはしない・・・。
いつかは、疲れるに決まっている・・・。
そして、疲れた・・・。
自然と、由太朗は眠りについたのであった。
そのことが、手掛かりを目覚めさせる事となるとは知らずに・・・。
==== な、菜々子 ========
彼女は、無惨な死体となっていた。
「ぎゃああ!!」
叫び声を上げる、奈々子の母。
======= ・・・・ ============
(はっ・・・。)
そこで由太朗は、目が覚めた。
考え抜いても、出てこなかった答え・・・。
(そうだ、菜々子は殺されたのだ。)
その夢が、ただの夢とは、彼には思えなかった。
あの奈々子は、妄想などではない・・・。
しかし、一体誰が・・・。
(・・・・。)
由太朗は自身の記憶を頼りに、疑問を解決する決心を誓ったのである。




