表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/31

第二章 素晴らしき? 学園ライフ⑤

お昼になり、俺はいつも通り、食堂のテラスに来ていた。

あのあとリルムは俺に近づいてこない。

いつもベッタリだったので、あいつがいないと少し寂しいかも……気のせいだと思うけど。

ちょっとビンタはやり過ぎたかも知れないと反省していた。

「ロイ」

クライスが声をかけてくる。

今日はいつもとは違って、女子の誘いを断って、俺の側にいてくれている。

「気にしない方がいいと思うよ」

さっきの経緯をクライスには話してある。

「ロイはリルのことを心配して叱ったんだから、リルだって分かってくれるって」

「そうかな……」


リルムは教室に戻った後、ものすごく落胆していた。

その様子に気がついた女子たちは、励ましたり、俺に敵意をむき出しにしてきたが、

そんなことはどうでもよかった――

ただ……あんなリルムの泣き顔を見るのはとても久しぶりだ。

俺の記憶の中の彼女はいつも笑っていて、いつも明るい――

でも、俺はあの泣き顔を見たことがある……


「ロイもやっぱり変わったんだね」

クライスは少し笑みを浮かべ、俺を見てくる。

「昔はリルに振り回されっぱなしだったのにね」

「今でも十分振り回されていると思うんだけど」

俺は苦笑した。

「あのリルに言うことを聞かせるなんてね」

クライスはポツリと言う、その表情には少し不思議なものを感じた。


放課後までリルムは機嫌を取り戻さなかった。

いつもならば俺と一緒に帰るところなのだが、彼女はさっさと一人で帰ってしまったようだ。

さすがにここまでになると俺も罪悪感が込み上げてくる……

今日もクーナは律儀に俺のクラスまで来てくれた。

「あれ? リルムさんはいっしょじゃないの?」

「ああ、ちょっとな……」

俺はクーナに授業のことを話してみた。

「うーん……お兄ちゃんのしたことは間違いじゃないと思うけど、女の子に手をあげたのは……」

クーナは少し怒ったような顔で俺を見てくる。

「やっぱりまずかったかな……」

こんなことなら、もう少し別の方法を考えればよかったと思う。

「そんなに仲直りしたい?」

「まあ、な……幼馴染だしな」

「ふーん。幼馴染だから……か」

クーナは怪訝そうに俺の顔を見る。

「じゃあ、クーナが仲直りさせてあげる」

クーナは俺の手を引っ張って、道を進んでいく。

彼女はいつもの自分の帰路通りに歩く。当然ながら終点は女子寮である。

「じゃあ、がんばってきてね」

クーナは俺をある部屋の前まで案内すると、その場を去っていった。

この部屋の番号は以前リルムが自分の部屋と言っていた番号に一致した。


「何が仲直りさせてあげる……だ」

部屋に入るのはためらうが、ここに一人でいるのは怪しい。

男子禁制ではないにしろ女子寮だし。俺は覚悟を決めて扉をノックした。

「はーい」

部屋の中からは効き覚えがある声がし、扉はすんなりと開いた。

「よお」

俺はできるだけ自然に挨拶をしてみる。

「ロ、ロイちゃん?」

リルムは俺の登場にとても驚いていたようだった。

「あの、朝のことで話が……」

「中に入って……」

リルムは俺を部屋の中に入れると、扉を閉じた。

彼女の部屋はとても可愛らしい装飾で、

俺と同じような部屋の作りなのにとてもオシャレに見える。

部屋中からは何かいい匂いがして、いかにも女の子らしい部屋だった。

俺をソファーに座らせると、リルムは向かい側のベッドに腰かけた。

「急に来て、ごめんな」

「うん、大丈夫だよ」

一応笑っているが彼女の表情は硬い。

「えっと、とりあえずごめん。殴って悪かったよ」

俺は頭を下げる。しかし彼女は何も答えない。少し悩んだ素振りを見せてから、彼女は口を開いた。

「あたしもごめん。周りを見ないでまた迷惑かけちゃったかな」

リルムは奇行を取り、周りの人に迷惑をかけることが多い。

しかし彼女が周りの人のことを全く気にしていないわけではないのだ。

人を傷つけてしまったと感じれば、人並みに罪の意識も感じる。

ただ、その鈍感さにリルム自身嫌気がさしているのだと思う。

だからたまにリルムはとても落ち込むことがあった。

「俺は気にしてないよ。結果的に被害はゼロだったんだしな」

「うん……」

「ただこれだけは知っていてほしい。魔法は人を傷つけるためにあるんじゃないんだ」

説教じみたことを言うのは嫌いだ。

でも言わなくちゃいけない。俺は魔法の恐ろしさ、惨さを知っているのだから……

「だから無茶して、大きな魔法を使わないでくれ」

リルムは黙って俺の言葉に頷いた。昔を思い出す。

リルムと喧嘩したとき、仲直りの方法はいつも同じだった。

「ほら、仲直りのおまじないするぞ」

「えっ?」

俺の一言が意外だったのか、リルムは目を丸くして俺の顔を見る。

「忘れたか? よく喧嘩した後にやっただろ」

俺は自分の右手をリルムのおでこに当て左手を自分の胸の前に当てた。

「ううん、忘れるはずないよ」

リルムも同じようにして俺のおでこに手を当てる――

数秒の沈黙。手を離すと彼女は笑顔を見せてくれた。

「なんだかロイちゃん。大人になったね」

「そうか?」

「昔は恥ずかしがっておまじないとかしてくれなかったのにね」

うーむ。言われてみるとあんまり自分からこのおまじないをしたことはなかったかもしれない。

リルムが泣きながら〝やろう〟って迫ってきて、渋々やっていた気もしないでもない。

おまじないが効いたのかリルムと俺はいつも通り自然な笑顔になった。

やっぱりリルムに似合うのは笑顔だ。

「じゃあ、仲直りの記念として――晩御飯御馳走してね~」

「…………」

やっぱりおとなしいリルムの方がよかったかも。


次の日、俺はいつも通りリルムと登校した。

今日は珍しくクライスと部屋の前で会ったのでクーナも含めた

四人での登校だ。なんか四人で並んで登校すると某物語のことを思い浮かべてしまう。

まあ職業は全員魔法使いなのだが――

リルムのいつもの調子を見てクライスもクーナも安心したみたいだ。

校門でクーナと別れ、俺たちは教室へと向かう。

リルムのいつもの姿を見て、クラスメイト達も安心したらしい。

「おい、ロイ。仲直りしたのか?」

とか、色々と言われたけど。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ