第二章 素晴らしき? 学園ライフ②
職員室まで行き、そこでリルムと別れる。
先ほどまでいて厄介だと思っていたが、いなくなると少々不安である。
下級学校以来、
先生とか言われる職業の人とはあまり話す機会がなかった。
まあ、そんなことを心配していても仕方ないので、俺はノックをし、職員室の扉を開けた。
やる前は緊張するが、
やってみると大したことがないこと、ってあるだろ?
最初の挨拶なんてそんなもんだ。
転入の話は通っているし、先生もなんだかんだで親切だ。
少し説明を受けた後に、俺はクラスへと案内される。
先生が先に教室へと入り、生徒に経緯を説明すると、
外にも聞こえるぐらいの歓声が上がった。
「ロイ君、入りなさい」
「あっ、はい」
教室の中の目線がすべて俺に集まる。
みんなの興味の目で少々萎縮する。
それを紛らわせるために目配りをすると、クラスには見覚えのある顔が二人いることに気づいた。
リルムとクライスだ。
リルムはともかくクライスがいるのは心強い。
そのお陰で、最初の挨拶をなんとか無難にこなす俺である。
「えーと、じゃあ、ロイ君の席は……」
「先生、ここ空いてます!」
リルム自分の隣の席を指差した。
そこには眼鏡の男子生徒がいるように見えるのだが……
「えっ?」
男子生徒は唖然としてリルムの方を見る。
「どいてね」
「でも、ここは僕の席……」
「どいてね」
リルムは怖いぐらいの笑顔を作り、男子生徒に殺気を送る。
彼女に押され、男子生徒は俺の座るべき空席へ荷物をまとめ移動するのであった。
許せ……メガネ君。
「ロイちゃん。隣になるなんて運命感じるねー」
「…………」
さすがに呆れて何も言えなかった。
「リルも無茶するね」
HRが終わり、クライスが話しかけてくる。
「いやぁ、まさか学校でもあんな感じだなんてなぁ……」
「下級学校の時からあんまり変わってないかも」
クライスは苦笑しながらそんなことを言う。
「あんな態度でクラス内では、生きていけるのか?」
「リルは格別嫌われないんだよ」
リルムは性格上、壊れているところがあるが、
別に故意に人を傷つけたりはしない。何事も明るく振舞うのでクラス内では人気があるそうだ。
それからクラスメイト達に俺は話しかけられまくった。
朝の俺の状況を見ていた奴からは羨ましがられ、
女子たちからはリルムとの関係を執拗に聞かれたり――
休み時間にもそれが続き、対して授業に集中してないのに、
昼休みを迎えるころには俺はクタクタになっていた。
「ロイちゃん。おべんと、たーべっ、よ」
「僕たちいつもテラスで食べているんだけど、一緒にどうかな?」
「あー。一緒させてもらうわ」
俺は二人の後について行き、テラスの席へ座った。ここからは宿舎から反対側の景色が見られる。
目の先には壮大な森と湖が広がっている。
「なあ、あんな森と湖、学園内にあって意味があるのか?」
「森では課外活動をしたりするよ」
「へぇ~」
確か授業には薬草学などもあったはずだ。その時の薬草などを調達するのだろう。
「それよりもロイ。授業のほう大丈夫?」
「うっ……まあまあかな……」
俺は思いっきり目を逸らす。自分でも分かり易いリアクションだと思う。
「ああー。ロイちゃん授業についていけなかったんだー」
あはははは、と声を上げてリルムは笑う。
「うるさいな。最初だからしょうがないだろ!」
俺はリルムの暴言に抗議するように立ち上がる。
「まあ、分かんない所があれば、僕やリルに聞くといいよ」
「聞くまでもないことだろうが、二人は成績、いいのか?」
「僕はそんなでもないけど……」
クライスはリルムの方を向く。
「あたしはいつも一番だよ~」
その言葉を聞いて俺はむしろ納得する。
昔からリルムには特殊技能があった。
彼女は一回見たこと覚えたことをそのまま記憶できる超便利な能力があるのだ。
だから俺が必死こいて勉強して覚えたことをリルムは百分の一以下の時間で覚えてしまう。
そのせいで彼女は幼いころから神童などと呼ばれている。
「まあ分かんないことあったら、クライスに教えてもらうわ」
「あたしは?」
「お前は先生には向かないだろ」
「そんなことないよー」
リルムは、頬っぺたを膨らまし抗議してくる。
俺とリルムが攻防を繰り広げている間、三人の女子生徒たちが俺らのテーブルに寄ってきた。
見た感じ下級生だろう。
「ク、クライス先輩。いっしょにお昼どうですか!?」
女子生徒の一人がモジモジしながらクライスに声をかけてくる。
「うん。いいよ」
そう言うとクライスは席から立ち上がる。
「ん? 知り合いか?」
「うん。部活の子たち」
どうやら何人もの下級生グループのテーブルからの派遣団らしい。
向こうのテーブルでは期待に満ちた目線がクライスへと送られてきている。
「ごめんね、二人とも。じゃあ、また後で」
そう言い残すとクライスは手を振り去っていった。
その様子を見て、俺は、ただただ唖然とするのであった。
「クライスちゃんは下級生から人気あるんだよー」
オレンジジュースをストローで吸いながら、リルムが補足を入れてくる。
「そうなのか……」
男の俺から見てもクライスは美形だと思う。
性格も温和だし確かに下級生にもてるのは納得がいく。
「男として負けた感じする? ロイちゃん」
「うるへー」
俺は音を立ててフルーツオレを飲み干す。
「ロイちゃんも悪くないと思うよ。まあ売れ残ってもあたしが買い取ってあげるよ」
リルムはウィンクをしてそんなことをほざく。実にありがたい。
「そうなる前に売れることを願うよ」
俺は遠くの方で女子たちと戯れるクライスの姿を見た。
あの泣き虫クライスがねぇ。やっぱり五年は大きいもんだ…………