第五章 絆と力⑩
「分かった」
リルムは通信機から聞いたその言葉に安堵のため息をついた。
「さあ、あとはあなただけだよ」
「ほう、カルツもやられたか。これは面白い……」
スレグスは仲間の敗北を聞かされても、先ほどから同じような態度をとっていた。
これで勝利した。その場の誰もがそう思っていた。
「なあ、嬢ちゃん。俺もそろそろ暴れたいんだがいいかな?」
スレグスはそう言って立ち上がる。
「な、何だ貴様! この結界を破れるとでも…………」
男子上級生はそう言葉にしたが、その態度は弱々しいものだった。
その場にいる全員が感じていた。
圧倒的有利な状況、勝利の確信、しかしこの男は余裕の笑みを浮かべ続けている。
それだけで背筋が凍りそうなほど悪寒が走った。
スレグスはウォンに手を伸ばす。ロイの魔法により彼の意識は深く眠っている。
回復魔法をかけたところで当分目が覚めないはずだ。
「ウォン。おまえはよくやってくれたよ。だからなぁ。
最後によい見せ場を作ってやらないとな――」
スレグスが触れた瞬間、男の身体は醜く膨らみあがった。
その瞬間リルムはすべてを悟ったのだ。
「みんな逃げ――」
その言葉を言い終わる前に爆音と激しい光が彼女たちを襲った。
大きな音とかすかな地響きが食堂にも伝わってきた。
(この音……爆発音か!?)
俺は駆け出す。脳裏に最悪のシナリオが浮かぶ。甘かった。
熟練の魔法使いが、一筋縄に行くはずはなかったのだ。
こんな状態で浮かんでくるのは、彼女の顔。
(リルム……!)
俺は俺の中で血が高揚していくのを感じられた。
「ごほごほっ……」
急に起きた爆発で、廊下は崩れ、壁は半壊していた。
結界で爆発の威力が削がれたのにもかかわらず、その爆炎には十分殺傷力があった。
一緒に結界を張った上級生たちは動かない。
咄嗟の判断で防御魔法を張ったリルムだけがその意識を保っていられた。
しかし、爆発そのものからは身を守れたが、
その激しい衝撃波によって壁に全身を叩き付けられて、一歩も動けない状態だった。
「くっくっくっ……楽しいなぁ……!!」
煙の立ち上がる廊下にその男だけが狂喜の笑みを浮かべ立っていた。
仲間を生贄としての攻撃、しかし彼の表情には悔いや罪悪感の欠片もない。
顔では笑いを漏らしているが、その心は機械のように無表情のように感じさせた。
それがリルムに最高の恐怖を与えるのであった。
「さあ、お嬢さん。アンタも吹き飛んでみるか?」
リルムの身体に手が伸ばされる。
(助けて……)
リルムにはその時、ある人の顔が浮かんだ。
あの時の少年だ。赤い髪をして、私を魔法生物から守ってくれた。
「助けてっ! ロイちゃーんっ!」
リルムは叫んだ。これ以上のないというぐらい大きな声で。
「終わりだなぁ!!」
スレグスは手を伸ばす。その手が体に届く刹那――――
「やめろぉぉぉ!」
赤髪の少年が飛び出してきた。
彼は言葉の通り、飛んで入って来たのだ。
三階の校舎の窓から。