第五章 絆と力⑧
一時間ほどかけて入念に作戦を立てた。
実行部隊は俺とリルム。
クライスはここでの指示を。
後輩二人にはほか教室への救出と陽動をやってもらうことにした。
師匠にも確認を取り、何とかいける作戦が出来上がった。
「はっきりいって五分五分の作戦だが……時間がないし、仕方がないか」
ジェスさんも渋々オーケーサインを出してくれた。
「よし、確認通りみんな準備してくれ」
俺はみんなに通信機を一つずつ渡す。
これは管理室内の段ボールに入っていたものだが緊急時のために拝借することにしたのだ。
この作戦はタイミングが命。
直接的には関わらないクライスの指示出しが肝心なものだった。
「ロイ。死なないでくれよ」
「おう。お前もしっかり指示よろしくな」
俺たちは握手を交わす。
「クライスちゃん。あたしも頑張るね」
緊張した様子もなくリルムもロイの手を握る。
そして俺たちは部屋から出て目的の場所を目指した。
そこは食堂から一番遠い普通教室だ。最長生がいるこの教室をまず解放することが肝心だった。
ノックをし、声をかける。
「四年のリルム・ウォースカイです。この扉を開けてください」
しばらくの沈黙の後、扉がゆっくりと開かれた。
さすがは六年生と言うこともあり、警戒し魔法を詠唱しようとする人までいた。
俺たちは経緯を手短に話し、次の教室に向かった。
「おい! スレグス! 西校舎で生徒が動いてるぜ」
その動きを見て、犯人一味のウォンと呼ばれる男は少し焦りの表情を見せる。
「ああ、だがそれがどうした?」
「あそこは、六年、つまり最上級生の教室だぜ。動かれたら、後々邪魔になりかねないぜ」
「だったら、お前が始末してこいよ」
そういってスレグスは食堂の人質の方を見る。
生徒たちはスタンの魔法にかかって身動きが取れない状態でいた。
ここに三人で固まっている必要もない。
軍が動き出すまではゆっくり構えていればいい。スレグスはそう思っていた。
「しかたねぇなぁ。少し恐怖を味合わせるのもいい薬かもな」
ウォンはそう言って立ち上がった。
「男の一人が動いたぞ」
その連絡を受け、俺たちは一気に緊張する。
段取り通り、女子生徒2人は放送スイッチを入れ、西校舎全体に放送を流す。
「犯人一味が来ました! みなさん教室へお戻りください」
その一言だけいうとすぐに放送を切った。
その一言で生徒たちは教室へ戻る。俺も所定の位置についた。
「リルム頼むぞ」
「うん」
ヒタヒタと犯人の足音が聞こえる。
「そこにいるのは分かっている。さっさと出てくるんだな」
犯人の声で、その人物は姿を現す。
「ほう、君みたいな女の子がこんな場所で何をしようとしたのかな」
リルムは相手の口元のみに集中し、少しずつ後ずさりしていく。
「こんな子を残して、教室に隠れるとは臆病者どもめ!」
ウォンは教室の扉に向かって、手をかざし魔法を即唱した。
その手からは高熱の火球が出て、扉を溶接した。
もちろん生徒の出入りを封じるのが目的だ。
「さぁって、君もこの扉のように溶けてみるか?」
犯人の狂気の笑みにリルムの身体は自然に硬直する。
(ロイちゃん、あたしを守って……)
逃げ出しそうになる身体を制して、リルムは少しずつ身体を後ろに逃がす。
そしてその背中に壁が当たる。
「どうやら、逃げ場はないようだな……」
男は詠唱を始める。しかし、
「ロイ。今だ!!」
俺はクライスの言葉を合図に詠唱をしていた。
ターゲットは俺の真上、三階の天井であった。
「吹き飛べ!」
俺の手からは、光弾が発射され、三階の廊下を崩した。
「うぉぉおぉ!?」
その衝撃で、ウォンは無防備のまま二階へと落ちる。
「くそぉ? 何が!」
ウォンが気づいた次の瞬間に、見えていたのは俺の拳。
落ちてきた男に対して、俺は容赦ない一撃を入れた。
バキッ――
という、骨と骨の当たる音がし、男は昇天した。
「リルム、大丈夫か?」
天井にできた穴に向かって俺は声をあげる。
「うん。大丈夫だよ!」
彼女の声が聞けてホッとした。
リルムが囮をすると言ってきたときには俺も猛反対したが、
彼女の熱意に押され結局、やってもらうことになった。
その結果、犯人一味の一人をこうやって倒すことができた。
俺は倒れた犯人の身体をあらかじめ持っていたロープで縛り身動きができないようにした。
もちろん猿ぐつわを咥えさせ詠唱をすることも封じてある。さて、これからが本番だ。
「うんじゃ、行ってくるわ」
「ロイちゃん。気を付けて……」
「ああ」
俺は次のポイントへと向かった。