第五章 絆と力⑦
程なくして連絡がきた。会話の相手はジェスさんだ。
「まずは食堂以外の場所での救出活動を、君たちにはしてもらいたい」
ジェスさんは被害が最小限に抑えられるようにと、
教室に潜んでる生徒にまずは状況を伝えることから始めるといいと言った。
「方法はどうしますか?」
しらみつぶしに伝達して言ってもいいが、
俺たちが動きまわることで相手に見つかる可能性も増えてしまう。
「内部放送を使い、一気に伝えてしまうのがいいだろうね」
ジェスさんは食堂のある東区棟周辺を避けて、放送で状況を伝えることを指示してきた。
この方法ならば、手際よく生徒の誘導をすることもできる。
「しかし、問題がある。放送によりパニックが起これば、今以上に状況は悪くなるかもしれない」
「ですね……」
う~ん、と頭を悩ませる。
「何も他の生徒を逃がさなくても、犯人を捕らえれば、それで終わりなんじゃないかなぁ?」
リルムが突然、そんなことを言い出す。
「確かにそうだけど……」
食堂に固まった犯人を俺たちのみで倒すのは難しいだろう。
しかも人質が固まっているのだ。直接対決だけは避けたい。
俺が考えている間に、リルムは無線機を取り上げ、その案をジェスさんに言ってみる。
「君らしい案だけど。却下かな。リルム・ウォースカイ」
ジェスさんの言葉にリルムは驚く。
「あたしを知ってるんですか?」
とリターンする。
「ロイ君と一緒にいて、そんな案を出すのは君ぐらいだろ」
どういう経緯かジェスさんはリルムを知っているらしい。
とはいってもリルムは学校で一、二位を争うほど名前が売れているのだ。
いい意味でも悪い意味でも。
だから、アドバイザーのジェスさんの耳にその名前が入っていてもおかしくはないのだが。
「で、却下の理由は二つだ」
声色を変えてジェスさんは言う。
「一つ、直接対決は君たちに軍杯が上がることは難しいということ、
二つ目は人質に危害を与えられることが懸念されることだ」
俺の考え通り、ジェスさんはリルムの意見を否定した。
「でもでも、人数で押せば、なんとか……」
「悪いが相手も戦闘のプロだ。ただの魔法訓練生が何人かかろうとも倒すことは難しいよ」
そう、そんなに甘いものではないのだ。
俺はその身で戦争を体験しているのでジェスさんが言いたいことが分かった。
だがこれで振り出しか――――
救出手段もなく、倒す手段もないとすれば状況が
悪転しないようにするのが今の最良作なのか…………
「一つだけ対抗策がある」
ジェスさんの声に変わり、師匠の声が無線から聞こえる。
「相手の弱点は結界に依存していることだ。
結界が外から破られたあとのことを想定して動いていると私は思う」
今犯人が食堂にしかいないのは、内部から結界が破壊され、
人質の人数を減らされないと踏んでいるからだ。
内部から破壊される心配を考えるのならば、
生徒全員をもう少し広い場所に集めるだろう。
多少動きまわられても、狂わないと仮定しているところが相手の弱点。
「内部に自分たちに対抗できる勢力がいるとは彼らは知らない」
そうか、わかった。
師匠の言わんとしていることが――
「俺が食堂に潜り込めばいいんですね」
「そうだ」
それを聞いて、ジェスさんが驚きの声をあげる。
「馬鹿な! 一人を潜り込ませたところでどうなる? それに方法だって」
「方法なんていくらでもあるさ。相手は子供それに貴重な人質となれば命までは取らないだろ」
「確証はないんだろ?」
「だがやる価値はあるさ。先ほど軍から連絡が入った。二時間後に突撃をするとのな」
「クソ。こんなときだけは早いな…………」
師匠とジェスさんは相性が悪いらしい。
言い争いが無線機越しに聞こえてくる。
そんな会話を聞きながら、俺は潜入方法を考えていた。