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第五章 絆と力⑥

しばらくし、通信機にノイズが走った。それを慌てて取る。


「ロイ、待たせたな。専門家を呼んでくるのに時間がかかった」

「専門家?」

「やあ、ロイ君。また会ったね。ってこれ無線か」


えっと……誰だこの人…………?


「ジェス。世間話はいいから、さっさと本題に」


ジェスと言う名前で思い出した。あの時のお医者さんか。

確か学校のアドバイザーとか言っていたな。


「ジェスは学園の作りに詳しい。これからはジェスの指揮通り動いてもらう」

「分かりました」


内部事情に詳しい人がいると助かる。

実は俺もこの学園のことをすべて把握しているのではないのだから。


「まず、君には学園の状況を教えてもらいたい。今はどこにいるのかな?」

「屋上です」

「あれっ? 屋上って、確か施錠がされていたような」

「気のせいですよ」


俺は思いっきりはぐらかす。


「まあ、その件はあとで報告するとして……」


くそぅ、うまくいかなかったか。


「君は今一人ではないね。三人か」

「そうですけど、なぜ分かるんですか?」

追跡魔法(トレース)を使って、ある程度の内部を把握はしているんだ」


それは便利なものだ。これならば敵の位置の報告もして貰えそうだな。


「残念ながら、犯人がどこにいるかは正確には分からない。

 この魔法では細かい人の位置などは分からないんだよ」

「そうですか」

「だけど、食堂に大量に人が集められているのを見ると、ここが拠点だと思っていいかな」


食堂。あそこならば広いし、守りにも攻めにも向きそうだ。


「おそらくスレグスは何日か前に、もう校舎に潜んでいたんだと思う。

 そうでなければ、こう早くベストプレイスを見つけられないし、

 こんな強力な結界を張る余裕もなかっただろうし」


入念な計画の上の犯行。逃亡犯にしてはかなり頭が切れそうだ。これは警戒をしなくてはな。


「で、君たちはまず、管理室に行って欲しい」


その言葉を聞き、管理室目指し、俺たちは行動を開始した。

校舎へ入ると、校舎は静まり返っていた。先生の指示で生徒はどこかに隠れたのか、

それとも……


「管理室にはどう行けばいいんだ?」

「こっちだよ」


リルムが西側に向かう廊下を指差した。

そちらは特別教室などがある棟でそこから一階まで下って行くらしい。

廊下を警戒しながら歩く。部屋の中からは、微かに気配がする。

おそらく生徒だろう。部屋の中に黙っていれば犯人と言えど、

わざわざ人質を殺すようなことはないだろう。

だから、生徒には妙なことを企てないで冷静にいてほしい。


階段を下るとすぐに管理室が見えてきた。


「中に人がいるようだ……気を付けてくれ」


無線でジェスさんはそう言ってくる。俺は二人を扉から離すと、

ドアノブをゆっくり回した。

しかし、扉は開かない。中から施錠されているみたいだ。


「あたしに任せて」


リルムはドアに手をかざすと、開錠の魔法を唱える。

カシャっという金属が下りた音がし、俺はもう一度ドアを開ける。


「ひゃあああああああ!」


ドアを開けると、部屋の中でうずくまった女子生徒二人がいきなり声をあげた。

おそらくは下級生だろう。


「こ、殺さないで~!」


パニック状態なのか、俺の顔を見て、大声をあげてくる。


「お、落ち着けって!」


俺は何とか静止しようとする。この声で犯人が来ないとも限らない。


「いやぁぁぁああああ!」


俺の静止はほとんど効果を成してないようだ。

そこでクライスが俺の目の前に出て、女子生徒の頭を撫でてやる。


「ほら、大丈夫だよ」

「えっ……? クライス先輩……?」


やっと落ち着きを取り戻したのか、女子生徒たちはクライスの顔を見る。


「怖かったよ~」


二人はクライスに抱きついてくる。よしよし、とクライスは二人を落ち着かせる。


「こういうことはクライスには敵わないな」

「ふふふ。ロイちゃん顔怖いからね。犯人だと思われたんじゃない?」

「うるさい」


リルムはクスクス笑って俺の顔を見る。

ちょっとヘコむ…………

そうだ、とりあえず管理室に着いたんだから、連絡をしないと。


管理室はその名にそぐわない様なただの物置のような部屋だった。

部屋の端には段ボールが山積みになっていて、中央に小さなテーブルがあるだけ。

こんな部屋で何ができるのであろうか?


「そこの壁には地図があるはずだ。それを机の上で広げてみてくれ」


言われた通り、地図を壁から剥がし机に乗っける。

机に載せた瞬間、この辺りの地図だったものが突然、

校内の見取り図に書き変わっていく。どうやら魔法でそのように細工されたものらしい。

地図には点が表記され、その点が地図の上で動き回っていることが分かった。


「その地図には一種の追跡魔法(トレース)が掛けられていて、

 校内の何処に誰がいるのか分かるようになっているんだ」


管理室か。便利なものだな。

これじゃあ授業中にどこかでサボっていてもすぐにばれるってわけか。


「で、今どこにどのぐらいの人がいるのか教えてほしい」


俺は地図の点を見渡す。さっき聞いたように、食堂は点に埋め尽くされている感じだ。

その集団から離れて点が三つ。


「おそらくは犯人一味だよ」


報告すると、ジェスさんが答えてくれる。


「他の生徒はどうだい?」


地図を見ると、トイレや教室に集団の店の集まりがある。

多分、先生の指示で身を潜めているんだろうが……

とりあえず、一通り、状況を報告して、指示を待つ。


「ふう」


通信機を置き、少し肩の力を抜く。

少しだけ状況が把握できた。

犯人は結界を張ったことをいいことに食堂を拠点として、そこから動かない。

これは校内で動くのには、有利な状況だ。

だからまずは教室などに潜んだ生徒の救出から始めればいい。

俺は壁にもたれ掛り、少し休憩する。

その間、クライスは地図を見て、何かをブツブツ呟いている。


「おい、クライス。少しは休めよ」

「うん。でも戦術とか考えないとね」


クライスはそう言うとまた地図に向かい合う。

戦術ゲームを得意とするクライスに、

こういう状況で動き方を考えてもらうのは有効な手段かもしれないな。


「リルム、元気ないけど、大丈夫か?」

「うん。とりあえず、見取り図も覚えたし。大丈夫だよ」


リルムは笑顔を見せてくれる。この緊張感でもその笑顔を見るとなんだかホッとする。

女子生徒二人もクライスやリルムがいることでさっきよりも落ち着いて見える。

俺一人で来なくて正解だったのかもしれない。


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